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voice. 日本で子どもが餓死。立ち上がった住職と未来をつくる住職@善西寺

人は少なからず、誰もが孤独を抱えて生きている。
そして皆、墓場まで持っていく、誰にも言えない話の1つや2つはあるだろう。

「ここは天国じゃないんだ。かといって地獄でもない。いいやつばかりじゃないけど、悪いやつばかりでもない」

今から30年前に発表された、THE BLUE HEARTSのTrain Trainの歌詞の一文。

仏教で現世は「苦」のあるところだという。
地獄でもなければ、極楽でもない。

 

1988

今から30年前の1988年。
1987年10月19日(月)にニューヨーク証券取引所を発端に起こった、史上最大規模の世界的株価大暴落、通称ブラックマンデー。

日本ではすでに1986年からバブル景気が始まっていたとされるが、日本の多くの人が好景気の雰囲気を感じていたのが、ブラックマンデーを過ぎた1988年頃らしい。

さらに遡ると、戦後。
経済を成長させることは、日本にとって緊急の課題であった。
それは明日のごはんを食べるため。
そして1968年、焼け野原から世界2位の経済大国まで成長した日本があった。

wikipediaより

国民がお金を稼ぐこと。
その流れは、ごく自然なことで、多くの国民が同じ目標をもっていた。
同じ価値観も何となく共有していたのではないだろうか。
「いつかはクラウン」みたいに。
暮らしでは家電製品はそろい、世帯は核家族が進み、街の暮らしはどんどん便利になっていった。
都市部に人が集中し、田舎と都会という価値のコントラストは、ハッキリと、色濃く・・。

ところであなたは、ご近所さんに
「お醤油貸して」
言えますか?言えませんか?

ご近所や地域との関わりが薄く、いや、薄いレベルではなく、殆どないという人もいるのではないでしょうか。

善西寺近くの歩道橋からの眺め

30年という時間。
それは社会の構図をガラッと変えた。
コンビニに行けば24時間買い物ができ(もちろんお醤油も買える)、インターネットで生活に必要なものは、ほぼ揃う。
ポケベルが鳴らなくて、恋が待ちぼうけしていることもない。
104番に電話をして、お店の電話番号を聞かなくてもいい。

人は、便利という価値から逃れるのは難しい。
WEBライターとしても仕事をしている私にとって、スマホを手放すことは悪でもある。
あえてウォシュレットのないトイレを購入する人は殆どいないだろう。

でも、あれ?
今日、誰とも会話らしい会話、してないかも・・。
そんな日も珍しくない、私の今日この頃。

そう・・・、感じませんか?
現代に漂う、昔より強い、孤独な感じ。

 

子どもの貧困。そして現代に潜む「孤独」にも目を向ける、おてらおやつクラブ。

そんな孤独と薄めの地域との関わり、便利な暮らし、経済力を失いつつある先進国。現代の日本。
今「明日のごはんを食べるため」のような、戦後にあった「経済成長」が課題ではない。
では、現代の「課題」は何なのだろうか?

松島住職

「まだまだ想像力が足りない」
今回、そう言った住職がいる。

皆さんは「餓死」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
私の場合、遠い国の貧困(絶対的貧困)が思い浮かんだ。
しかし。

2013年、大阪市北区のマンションの一室で、親子とみられる2人の遺体が見つかった。死因は餓死。
部屋に食べ物はなく、電気とガスも止められていた。
そして「最後におなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね。」と、母親が残したとみられるメモが見つかった。

一人当たりの食糧廃棄率が世界一の日本でなぜ?

善西寺で講話をする松島住職

このニュースに衝撃を受け、こどもの貧困問題に取り組み始めたのが、先程の住職、奈良にある浄土宗安養寺の松島靖朗さん。

餓死のニュースから約半年後の2014年1月に、松島住職は「おてらおやつクラブ」を立ち上げた。
おてらおやつクラブの仕組みを簡単に説明したい。
①お寺にはお菓子などの「お供え」がたくさん届く。
②お供えしたお菓子などは「おさがり」となる。
③お寺から「おさがり」となったお菓子などを、母子家庭などの子どもの貧困問題に取り組む支援団体に「おすそわけ」。
④支援団体が貧困問題に直面している母子家庭などに配る。

2人の事務局から始まったおてらおやつクラブは、いまや836寺院、351団体、おやつを楽しみに待つ子どもたちは約9,000人となっている。

母子家庭のうち、ひとり親と子どもで成り立っている家庭で、働いている親の過半数が非正規雇用。その平均就労年収125万円。
所得が国全体の所得の中間値の半分にみたない、相対的貧困とされるのは年収122万円。
今増え続けている、いわゆる困窮家庭だ。
親の収入が少ない → 十分な教育が受けられない → 進学・就職で不利になる → 収入の高い職につけない → 子ども世代も貧困になる、という困窮家庭には貧困の負のスパイライスもあるという。

そして、日本の約7人に1人の子どもが貧困。日本全体で貧困の子どもは約280万人いるということになる。
子どもの貧困率が一番進んでいるのが、沖縄で37.5%。
ここ三重でも9.5%のこどもの貧困率がある。
47都道府県、貧困率が0%のところは存在しない。

しかしそういった貧困家庭には、行政などのサポートも受けられるのではないかと思うが、そこにはマニュアル通りにはいかない現実があるという。

松島住職:実際に貧困家庭の方の現状に接すると、例えば生活保護を受けたら、世間からどう見られ、それが子どもにどんな影響がでるのか心配だったり、生活を維持していくだけで精一杯で、そういったサポートと繋がることができない現実もあります。また社会には、社会的弱者への強い自己責任論があるのも現実で「助けて」と言えない場合もあります。

大阪での親子の餓死。
一部報道では、夫からのDVから逃れていた可能性もあるという。
そういった背景がある場合、なかなか相談する相手というのは見つけにくいし、近所との薄い関係性では、それを見つけることも難しい。
つまり「だれかが見守っていてくれる」という環境とは程遠く、孤独という負のスパイラルに迷い込んでしまう。

松島住職:おてらおやつクラブでは、支援活動を通じておやつを受け取ったお母さんやお父さんに、必ずお寺から「メッセージ」を書いて、繋がる仕組みづくりをしています。

支援を通じて食べ物などだけでなく「見守ってくれている人がいるよ」と繋がりをつくることで、孤独という負のスパイラルに迷い込むのを防ごうとしているのだ。

日本にこのような現実があること。
明日のごはんが食べられない、子どもがいること。
現代の課題は「孤独」なのかも知れない。

そして松島さんはこう示した。
「貧困 = 貧乏 + 孤独」

松島さんに将来について聞いてみた。

松島さん:インターネットの普及などで、従来型の地域コミュニティだけじゃなくて、インタレスト(興味関心)で繋がるいろんなコミュニティがもっとできてくると思います。コミュニティの多様化は、そこに属する人の安心感にも繋がる。そしていろんなところに「頼れる人」ができてくると思います。頼ることのできる人は支えがあるから自立できる。これがこれからの時代の自立。例えば働き方の場合。これからは例えば3万円/月の収入を10箇所から得る。いろんなところで支えられ必要とされる人となり、こういった働き方が出てくると思います。

なるほど。
少子高齢化、地方創生、働き方改善など・・。
日本が直面している問題に対し、松島さんは答えをすでに持っていた。

そして、これからの時代に向き合う、もう一人の住職をご紹介したい。

 

お寺に、女子。

今回、松島住職のお話しを伺ったのは三重県桑名市の善西寺。
現住職は第15代目の矢田俊量さん。

善西寺のある矢田町は江戸時代、東海道の立場(宿場と宿場の中間)だった。

お寺のある場所は桑名市西矢田町。
住職の矢田という名字は地名にもなっていて、1635年からの歴史を持つ浄土真宗本願寺派のお寺だ。
善西寺も、おてらおやつクラブに参加している。

初夏の風に揺れる五色旗

今回、善西寺の春季永代経法要にあわせた託児・食事付き講演会で松島住職をゲストに迎え、門徒(檀家)や地域の方々に声を掛け、おてらおやつクラブをもっと知ってもらおう、というイベント。
ちなみに、先程書かせていただいた松島住職のお寺は、浄土宗。
おてらおやつクラブは宗派の垣根を超えての活動となる。

取材当日。

4月の後半だったが日差しは強く、まるで夏日のようだった。

善西寺のお寺の階段に座ると、風が初夏の香りを運ぶ。

そこから眺める境内では、子どもたちが元気に走り回っている姿が印象的だった。
もう一つ印象的だったのが、松島住職や矢田住職の講話を聞きながら、メモをとる若い女性の方々。
彼女らは門徒(檀家)ではなく、善西寺をメディアや横の繋がりなどで知り、興味を持ち参加した方々だった。

お寺に女子。

ちょっと意外な組み合わせだと思った。

矢田住職にお話しを伺った。

当日、見学に訪れた外国人の方と話す、矢田住職。

矢田住職:善西寺ではおてらおやつクラブ以外にも、こども食堂も行っていて、地域の子どもや若い方とも繋がっています。今回、こども食堂がご縁で参加されている方も多いです。

お寺に通う女性がつくった、おてらおやつクラブのオリジナルのピン。
こちらもオリジナルの五色旗のピン

善西寺ではその他にも、看取り文化( http://otonamie.jp/?p=36381 )の再興や地域包括ケア( http://otonamie.jp/?p=41468 )にも地域のお寺として医療者とも取り組んでいる。
そして矢田住職は、元々生命科学の研究者でもあった。

矢田住職:向き合う対象を「生命」から「いのち」へと変えました。

冒頭に「人は少なからず、誰もが孤独を抱えて生きている」と書いた。
しかし人との繋がりが過度に少なくなると、過剰な孤独に包み込まれる。

本来、地域での暮らしの中で人が集い、繋がり、ご縁や仏法で孤独という苦から逃れる場であったお寺という存在。
経済だけじゃない価値観が求められる現代。
今、本来あったお寺のそのような役割が求められている気がする。

矢田住職:時間がないんです。

2025年問題。
後期高齢者(75歳以上)が人口の20%に達する。
すると、まず病院がパンクするといわれている。
病床数も不足する。
そう、あとたった7年先の話だ。
そして国も提唱をする。

2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

では冒頭、30年前を振り返ってみたが、逆に30年後、あなたは何歳だろうか。
わたしは生きていれば68歳。
たった7年先ですらそんな状況が予想されているのに、どうなってしまうのだろうか。つまり私たち世代は、他人事ではない。

「だから地域で、だから地域が繋がって、新しい地域をつくる」ということの重要性を、善西寺の活動を取材し、私は学んだ。
いち早く未来でのお寺の役割に気がつき、実践している善西寺。
地域の新しい未来が、ここで確実に動き始めている。

それは「重く難しく入りにくい」と思われがちなお寺のイメージではなく、子どもたちの笑い声が、初夏の風に乗って聞こえてくるような「明るく華やかな開かれた」お寺の印象を感じた。

講話の締め。
矢田住職は「なぜ善西寺というお寺が、このような活動をしているのか」を門徒(檀家)のシニア世代から、門徒ではない地域の若い世代に向け、にこやかに話しをしていた。そして最後に・・。

矢田住職:それは、彼ら世代のためです。

住職は境内で遊んでいる子どもたちに、視線を向けた。

「明日、ちょっとお寺よってく?」
「うん。とりあえず、お寺集合!チャリで!」

近い将来、今日境内で遊んでいた子どもたちは、スマホでそんなやり取りしているかも知れない。

 

 


 

※善西寺やおてらおやつクラブでは、おやつをはじめ様々なおそなえを受け付けています。

浄土真宗 本願寺派 善西寺
三重県桑名市西矢田27-2
tel 0594-22-3372
hp http://mytera.jp/tera/zensaiji30/monk/
fb https://www.facebook.com/zensaiji987/

おてらおやつくらぶ
hp https://otera-oyatsu.club/


 

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