三重県の桑名駅から徒歩12分。
東海道五十三次の42番目の宿場として栄えた
桑名宿の風情が残る街道沿いに
浄土真宗本願寺派のお寺「善西寺(ぜんさいじ)」がある。
旧東海道に面しているとはいえ、
目立った観光スポットも見当たらないので、
地元の人以外はなかなか訪れることがない場所だろう。
桑名市内のたくさんあるお寺の中から、
善西寺を訪れた目的は、
浄土真宗本願寺派が「子ども・若者ご縁づくり」の活動として
全国の寺院で推進している「キッズサンガ」の様子を見に行くため。
夏休み期間を利用し、
現代版寺子屋ともいえるこの取り組みを
10年に渡り続けているお寺と住職にお話を伺ってみたいと思った。
本堂で学ぶネイティブ講師の本格的英語教室
趣のある旧家が並ぶ旧街道沿いに溶け込む、
お寺らしい重厚な木製の門をくぐると、
正面に本堂、手前には立派な鐘楼が建つ。
いわゆる町中にあるような、一見普通のお寺。
「キッズサンガ」ののぼりはあるものの、
まだ境内に人気はない。
お寺の関係者と思われる人が、
パタパタと準備を始めている。
取材に伺ったこの日は、夏休みの初日となる7月21日。
8時を過ぎたころから、少しずつ子供たちが集まりだした。
善西寺では、
毎年夏休みの期間にこのキッズサンガを開催。
「キッズ話し方講座」「キッズ英会話講座」「はじめてのお琴教室」などさまざまな体験教室と、
夏休みの宿題をする時間として「寺子屋タイム」を設けている。
フリーアナウンサーやネイティブ講師による英会話などの豪華な講師陣と、
住職のご家族、善西寺の門徒さんと地元のボランティアの方々が
このイベントを支えている。
参加する子供たちは、お寺近隣の子供たち。
6月下旬から募集を開始する定員は50名。
初日となるこの日も、
1年生から6年生まで50名の子供たちが本堂に集まった。
この日の講座は英会話とお琴。
きらびやかなお寺の本堂に、子供たちの声が響く。
ダンスや動きを取り入れた授業は、
英語を学ぶというより英語を楽しむ雰囲気。
学年の違う子供たちみんなが
参加できるように考えられているようだ。
英語の講義が終わると、寺子屋タイム。
夏休みの宿題に取り掛かる。
隣同士で教えあったり、
住職やボランティアの方々に質問しながら
勉強に取り組んでいる。
ここでも、さまざまな学年の子供が
一緒に宿題に取り組む姿が印象的だった。
ごえんさんを探せ!
善西寺の住職、矢田俊量さんが
キッズサンガに取り組みだしたのは10年前。
法要やお墓参り以外でも、気軽にお寺を訪れてもらう。
善西寺ではキッズサンガのほかにもお寺を開放し、
お寺こども食堂・エンディングセミナーなど
多様な取り組みを行っているそうだ。
「いただきます」「ごちそうさま」「ありがとう」
日本人が日常の中で持つ感謝の言葉や、
お寺や神社でなんとなく手を合わせてしまう行動そのものは、
昔から引き継がれてきた仏教感として表現される。
親から子へ、次の世代へと
生活の中で受け継がれてきた仏教感は、
現代において少しずつ薄れてきている。
江戸時代に作られた檀家制度(地域住人を檀家とすることで住人の管理を行う)も、
仏教そのものが持つ本来の意味を少し変えてしまったのかもしれない。
昔から「あった」、
人が集まる、人が学ぶ場所としてのお寺本来の機能のひとつを
現代風にアレンジし、
気軽に大人や子供が集まり、
地域や人の「縁」をつなぐための取り組みのひとつとして
キッズサンガにも取り組んでおられるそうだ。
確かに今日のイベントでも、
主催者となる矢田住職は主役になっていない。
子供たちが学び、笑う姿を
カメラ片手に笑顔で眺めている住職の姿が印象的だった。
忙しそうに境内を動き回りながら、邪魔にならないように…。
後日、記事を書くために写真の整理をしていて気づいたのは、
写真の端っこ辺りでしっかりと子供たちを見守っている住職の姿だった。
この記事に使っている写真にも、小さく住職が写っている。
(お時間のある方は探してみてください)
参加している子供たちやお母さん、
地域の皆さんは住職を「ごえんさん」と呼ぶ。
浄土真宗で使われる住職を指す言葉で、
ご院家さん(ごいんけ)、ご院主(いんじゅ)さんと呼んでいた住職の呼称がなまって「ごえんさん」となったそう。
温和な笑顔で子供たちを見守っている矢田住職には、
「ごえんさん」がよく似合うと感じた。
本堂と雑巾と流しそうめん
例年1週間から10日間の日程で開催される
善西寺の「夏休みキッズサンガ」。
今年は7月21日から28日までの開催となった。
最終日には、
お琴教室の成果を親御さんに発表するお琴発表会と
お楽しみ会として流しそうめんとかき氷が行われた。
この日の善西寺は、
子供たちのほかたくさんの親御さんが訪れており賑やかな雰囲気。
境内では門徒さんが協力して、
近隣の山から切り取ってきた竹で
流しそうめんの会場を作っている。
子供たちはお琴の発表会が終わると、
期間中の会場となった本堂の大掃除。
雑巾を手に、
お世話になった本堂のいたるところを拭き上げる。
桑名の竹で作られた手作りの流しそうめん台に
いよいよ水が流れ始めると、
子供たちの大きな歓声が沸き起こる。
蝉の声が響く境内に流れる、涼しげなそうめん。
そうめんのほかにも、
ゼリーや飴など様々なものが流れてくる善西寺の夏の風物詩は、
きっと子供たちの夏の大切な思い出になるであろう。
ガキ大将は1日にしてならず
キッズサンガ初日と最終日の2日間参加させていただき、
印象的だったことの一つに、子供の変化がある。
初日の子供たちは、
同級生の友達や兄弟でなんとなく固まった、
いわゆる「学校の延長」「家庭の延長」で遊んでいた。
1年生から6年生までが
一緒に過ごす時間が少なくなってきている現代では、
同年代で遊ぶことが普通なのかもしれない。
最終日、
本堂のお掃除や流しそうめんを食べている時間に目についたのは、
5年生・6年生の子供たちが、
小さな学年の子供たちの様子をみて、手伝いをしながら一緒にいる姿。
おそらく誰かに教えられたわけではなく、
一緒に過ごし、遊び、学んでいく時間の中で自然と生まれてきた風景なのだと思うが、
できるものができないものを助け、
一緒に同じ時間を楽しんで行く風景は、
どこか懐かしく、当たり前でありながらも普段の私たちが、
もしかしたらできていない事なのではないかと感じたこと。
学校でも、家庭でもない。
地域にあるお寺だからこそ、ひとが集まり、ご縁が繋がっていく。
蝉の声と、境内に響く子供たちの笑い声と、
涼しげな流しそうめんの風景を眺めながら、
そんな風景に出会えた「ご縁」に感謝。
タイアップ
浄土真宗 本願寺派 善西寺
住所:三重県桑名市西矢田27-2
電話:0594-22-3372
FB :https://www.facebook.com/zensaiji987/
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