年を取るごとに “本物” という言葉にあこがれる。
あこがれているということは、自分がまだまだ “本物” ではない証拠。
今回はそんな “本物” をご紹介したい。
取材に際し、友人などにこの話をしたところ、同行したいとの声があり、数名でお伺いした。
やはりみんな “本物” に興味があるのだろう。
以前、津市久居の緑の風マルシェに出店したとき、偶然となりのブースで野草茶などを販売していたおばあちゃんがいた。
その時は、少ししかお話しができなかったが、野草茶などについて、とても興味深いお話しを聞いた。
そして、おばあちゃんのブースに次から次へとお客さんがやってきていた。
今回は、そのおばあちゃんのご自宅へお伺いすることになった。
津駅からクルマで1時間とちょっと、津市美杉町へ向かった。
思わず「野草全部入りください!」
津市美杉町は映画Woodjobの舞台にもなった、山間の集落。
携帯の電波も途切れ途切れになりながら、取材に向かう。
ご自宅へ到着すると、そこは趣のある古民家だった。
山に囲まれていて、鳥の声、あたたかな朝の光や空気にすら生命力を感じる。
古民家の軒先には、かぼちゃやむかごが干されていた。
幸さん:干すと甘くなるのです。水分が飛んでね。
久し振りにお会いできた、おばあちゃん。
幸さんこと、坂本幸さん。
野草が少ない冬の時期はご夫婦で育てた野菜や、美杉で知り合いが育てた野菜を天日干しして、その後炭火で完全に乾燥させるという。
すべて無農薬、無添加。
幸さん:この家で使っている水はね、うらの山から引いてます。
オーガニック。
いや、そういう域を超えていると感じた。
まるで一つの哲学のような、日本人の文化を垣間見ているような・・。
“本物” とはこういうことなのだろうか。
ツバメが巣を作りやすいように取り付けてあるという、玄関上の板。
ひろい土間を抜け、部屋で野草茶をいただきながらお話しを伺った。
野草と書くと、体へ摂取するのに少し勇気がいりそうだ。
しかし、どくだみやよもぎなどからできた、和のハーブティーといった感じだろうか。
クセみたいなのがない。
幸さん:かぼちゃの種も煎ってお茶になるんですよ。
幸さんの発する声には、キツさや圧力はなく、すっと耳に馴染む。
幸さん:その地で取れた野菜の種を蒔くとね、小さくても強い野菜が育つんです。他の地の種からできた野菜よりね。地の物、旬の物は滋養が高いと思います。
祀った以上は、祀らないと。
幸さんはそういった食品の加工をする一方、美杉を伝える伝道者でもある。
様々な美杉に関する本も出版されていて、昔は美杉村(市町村合併前は村だった)の広報誌に連載もされていた。
過去に三重県の絵本に関する賞も受賞している。
こちらの絵本「なまごめくいたい」も印象的。
イラストも文字も、すべて幸さんの手書き。
とても味がある。
内容を要約させていただく。
美杉のとあるお寺のおしょう様の娘(5歳)が、ある日「なんもいらん。生米食いたい」といって、生米ばかりかじっていた。
生米を一升枡に山盛りにしていたが、その山が少しでも減ると、娘は部屋中に生米をばらまいて暴れた。
偶然、寺に立ち寄った行者が「おしょうさん。この子には19日が命日の仏さんの霊魂がたよっている」という。
仏の道に仕える自分の子どもに、仏さまの霊魂がたよることに情けなさを感じたおしょうさんは、19日が命日にあたる仏さんを、片っ端から拝んだ。来る日も来る日も、朝から晩まで拝み続けたが娘は良くならなかった。
村の医者も「気の毒だが手に負えない。あしたの命もわからない」という。
その夜、娘が本堂の奥を指さして「白いひげのおじいさんが、私をにらんでいる」と泣きわめいた。
白いひげのおじいさんとは、娘のひいおじいさんのことだった。
ひいおじいさんは19日亡くなった人だと、おしょうさんは悟った。
ひいおじいさんの霊魂を取りはらうためには、お不動さんに頼むしかなかった。
おしょうさんは小石を千個、魂を込めて拾い集めた。
拾い集めた小石をお不動さんの前に敷き小石で小山になった上で「心経を千願となえます。どうぞ娘を助けてください」といい、自分の命に替えてもいいと覚悟をして一巻300字ある心経をとなえ始めた。
一巻終わると小山から一個の石を放った。
夜中に始まり、千願となえ終わる頃、朝日が昇っていた。
足には石が食い込み、血が滲んでいた。
おしょうさんはそのまま倒れ、気を失ってしまった。
おしょうさんが気を取り戻すと「お父さん、お帰りなさい」と娘が飛びついてきた。
お母さんも「この子はお寿司が食べたいといいまして」と嬉しそうに海苔巻きを作っていた。
この娘というのが、幸さんの叔母にあたる人。
幸さん:祀った以上は、祀らないと。
幸さんは、今という時代だからこそ、こうしたお話しを残したいとのこと。
確かに、先祖という存在は自分のルーツであり、先祖がいて今の自分がある。
あらためて室内を見渡すと、仏教に関するものが多いのに気が付いた。
ここにいると、先祖に感謝して生きることは、自分の内面を安定させることに繋がっていると感じた。
幸さんのお話しに夢中になっていたら、いつの間にかお昼前。
地のもの、旬のものを口に運ぶたびに感動を覚える
幸さん:お昼、食べていくでしょ!?
取材のアポイントを進めてくれ、同行したスタッフが驚いていた。
スタッフ:え・・。お味噌汁だけってお話しだったのに・・。いいんですか!?
幸さん:うん。だからお昼食べていくでしょ。
そう言って幸さんはニコっと笑った。
なんとも日本人らしい、謙虚で粋な表現。
お味噌汁だけ=お昼ごはん。
ほんの気持ちですが、と手渡される、心のこもったプレゼントをいただいた気持ちになった。
みんなで食器などを準備して、ひとつの釜からよそうごはん。
ひとつの食卓を囲むひととき。
おかずに限らずマヨネーズまで、すべて幸さん手づくり。
「食事って、こういうことか」
懐かしい気持ちに浸りながら、地のもの、旬のものを口に運ぶたびに感動を覚える。
私の場合、日常の「食」という「欲」を満たすためだけの荒れた食生活の反対にある、この食事に感動を覚えた。
食事が体をつくる。できることなら、今回のような体が喜ぶ食事を、体のためにも食べ続けたい。
食後、幸さんが松の葉からできたジュースをくれた。
見た目にも松の葉。どんな味なのだろう。
砂糖で味付けされたそのジュースは、不思議なのだがサイダーの味に似ていた。
とろみのある微炭酸のサイダーのような味。美味しかった。
デザートは甘酒。
幸さんがもち米でつくった自家製のそれは、私の知っている甘酒とかけ離れた味。
良い感じに米粒のもっちりとした食感が残り、すっとした甘味と酸味。
まるでもち米の生スイーツだった。
さらに幸さんは、軽いケガなら摘んできた野草で治すという。
幸さん:自然には、体をつくる、体を治す、すべてがあるんです。
今の私たちに必要な「生き方を整える」ということ。
“本物” を取材して、見えてきたこと。
それは「生き方を整える」ということ。
まず、幸さんは自然の中で植物や野菜を熟知し、それらの特長を良く理解した上で、体に取り入れている。
きっと、滋養の高い旬のもの、地のものは食べることで体を「整える」ことに繋がる。
そして、その地に伝わる仏教文化も大切にしている。
一つの普遍性をもつ仏教文化は、人の内面を「整える」。
体の内外を支える二つの「整える」は、日々を丁寧な生き方に変えてくれて、それを続けていくことで、生き方すらも「整える」ことに繋がっている気がする。
急速に成長した日本が、その代償として失いかけている「整える」という価値観。
そして現代。ヨガ、デトックス、健康ブームさらにはサスティナブルな社会づくりなど「整える」という価値が見直されてきているとも思う。
その最先端を、ここ美杉の山間で暮らす “本物” に見た気がする。
そんな幸さんの穏やかな表情を見ていると、一つの言葉を思い出した。
「和顔愛語(わげんあいご)」
和やかな笑顔で優しい言葉をかけると、自分も相手も幸せにすることができる、という意味の言葉だ。
良い第一印象を与える笑顔の作り方、みたいなハウツー本を読むのはもう辞めようと思った。
近道なんか、ないんだな。
でも日本には、伝え継がれてきた大切な食や文化がある。
温故知新を胸に、幸さんの家を離れた。
とりあえずこの日以来、野菜をむさぼり食べている私がいた。
おまけのお話し「すぐできる!あなたも不思議体験、やってみよう!」
皆さんはオーリングを知っていますか!?
指をこうやってリングにして「体に良い食べ物」を思い浮かべて力を入れてください。
そして他の人が、リングを力ずくで外そうとしてください。
外れなかった。はず・・。
では反対に「体に悪い食べ物。でも食べちゃうモノ」を思い浮かべて力を入れてリングを作ってください。
そして他の人が、リングを力ずくで外そうとしてください。
外れた。はず・・。
不思議なオーリングのお話しでした。
みんなでやってみよう!
幸さんの野草茶などは、道の駅美杉や地元のマルシェなどで購入可能です。
※マルシェに出店しているかは、マルシェからの情報をご確認ください。
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