【 P r a y 】
祈る姿は美しい。
この写真は三重の離島、菅島を取材した時に撮影したものだ。
お聞きしたところ、島を離れ、学校に通うお孫さんの無事を祈っておられたのだという。
漁村や離島、農村を取材していると、そこに神社仏閣が多いのに気が付く。
私は住宅街に生まれ育ち、家は仏教だ。
しかし、信仰心みたいなものは殆どない。
父が次男ということもあり、幸い健在なので家にも実家にも仏壇がない。
墓参りは行くがそこにお寺はなく、観光以外でお寺に行く機会も少ない。
つまり、仏教感のある暮らしから遠い。
いや、今回の取材をするまで、遠いと思っていた。
【 目 に は 見 え な い 絶 対 的 な 何 か 】
最近、農村や漁村に暮らすおじいさんやおばあさんに、とても強い “何か” を感じる。
私のようなものでは到底得ることのできない、幸福感に満ちた安心感のような魅力。
そして昔からその地に根付いている、目には見えない絶対的な “何か” を感じる。
冒頭の写真を撮影した時に、それはもしかしたら、 “何か” 絶対的な存在を信じているという根源から派生しているのではないか、と感じた。
私の場合、それは仏教であり仏ということなのだろうか。
グローバル企業が率先して取り込んでいる、仏教の教えに根ざしたマインドフルネス。
仏教って何なのだろう。
教科書に書いてある歴史や宗派ではなく、仏教感のある暮らしを取材してみたい。
今回、OTONAMIEの山間部に暮らす記者の協力で、三重県津市美杉(旧美杉村)の山奥に暮らす、とあるシニア夫婦を取材させていただくことになった。
語弊を恐れずに表現すると、田舎で普通に畑暮らしをしている、おじいさんとおばあさんだ。
山奥には仏教感のある暮らしが残っていることを期待しながら、クルマを走らせた。
【 よ ぅ お い で な さ っ た な ぁ ー 】
復旧した名松線を眺めたり、手書き感がグッとくるドラえもんに癒されながら
くねくねした山道を進む。津ICからクルマで約一時間。
峠を越えて、津市美杉町下多気の上村区に到着。
上村区には現在、約40軒の家に暮らす方がいて、60代が一番若いという高齢化した集落だ。
「よぅおいでなさったなぁー。」
今回取材させていただく、田上多一さん(86歳)と奥様の百合さん(79歳)が出迎えてくれた。
お二人とも生まれも育ちも美杉だ。
結婚歴61年。
百合さん:おじいさんは86歳でここらで一番年長。いつまで二人で暮らせるかなー。
と微笑みながら話す百合さんと、微笑みながら聞く多一さん。
今も仲がよさそうなお二人は、家の周辺で田んぼや畑をしながら暮らしている。
【 土 の 香 り 】
百合さん:私らが育てたお茶やでおいしいかどうかわからんけど、無農薬やでな。自分たちの食べる分を育てるの。
春にはきゃべつ、なばな、からしな。
夏にはきゅうり、なす、とうもろこし、すいか。
秋にはだいこんなど。
米やお茶、漬物もつくる。すべて無農薬。
多一さん:野菜の種のコトとかはお母さんの方が詳しいんですよ。わたしはこうしてチカラ仕事(笑)。
土の香り。春の農村。
山里にいのちの循環がまたはじまる。
現代風に訳すなら、オーガニック指向のサスティナブルなライフスタイル、だろうか。
西洋文化を取り入れなくても、日本の山里には昔から続くいのちの循環があったのだと実感した。
【 お 寺 さ ん の あ る 暮 ら し 】
津市の市街地に暮らす息子さんの家族が帰省したときは、まずはお寺に参りその後、家の仏壇を参るという。
お寺の住職は若く、野菜などをお裾分けしたり親子のような関係とのことだ。
百合さん:昔はこの地域も子どもが多てな。学校帰りの子どもが、お寺の水はひやかくておいしいちゅーてな、井戸の水を飲んでました。境内で縄跳びをしている子どもがいたりなぁ。
そして本来、お寺とはその地域に暮らす方々の場所であり、住職はそこに住んでお寺を管理をしてもらう方だと教えていただいた。
近所のお寺に参る習慣がない私には、すこし不思議な感覚を覚えた。
お寺って住職のモノじゃないのだなと。
現代風に訳すと、地域のコミュニティスペース。
今まであまり関心がなかった地域のお寺という存在が、ふと身近なものに感じた。
このお寺では月に一回、30名くらいが集まってみんなでお経を唱える念仏会があるらしい。
百合さん:念仏会のあとは、家に帰ってもココロが落ち着きます。
なんとなく理解できるが、なぜココロが落ち着くのだろうか。不思議だ。
【 無 い と 不 安 。 朝 夕 の お 参 り は 習 慣 だ か ら 】
私の場合、仏壇に参るのは親戚の家などに行ったとき。幼いころ、親や祖父母から「なむなむしておいで」と言われ、なにもわからないまま手を合わせ、目を閉じた。寒い冬だと仏壇が違う部屋にあるので「寒いのにジャンパーまで脱いで、なむなむするの嫌だな。」と思ったことを覚えている。
ご自宅の仏間にお邪魔した。
毎朝、田上さんは起きたらまずご飯とお茶を仏壇に供える。
そして「今日一日を無事で過ごさせてください。」と祈る。
夕方には「今日も一日無事に過ごさせていただき、ありがとうございました。」と仏壇の前に座る。
なにか頂き物をしたときには、まずは仏壇にお供えをして、その後にお下がりを頂く。
なるほど。私が疑問に思っていた “何か” の答えを垣間見た。
つまり、家の中に仏(ご先祖)という、絶対的な存在があるのだ。
私:もし田上さんの暮らしから仏壇がなくなって、朝夕のお参りがなくなったら、どう感じますか。
百合さん:習慣だから、それが無いと不安です。仏様は私たちを守ってくれとるから。
絶対的な存在に守られているという安心感を、特に古き良き日本の文化が残る農村や漁村のおじいさんおばあさんは、持っているのだと感じた。
そして、絶対的な存在に感謝をしている。
日々の暮らしの中に、しっかりとそれが根付いているという安心感。
それは、強さであり魅力だと感じた。
農村や漁村という小さなコミュニティ全体に、感謝の連鎖が根付いている。
その象徴、集合体としてお寺が存在する。
高齢化している集落でも、お寺が健在である理由が少し分かった気がした。
【 少 し 気 が 楽 に な っ た 】
私:お父さん(多一さん)が好きな食べ物はなにですか。
百合さん:味ご飯とか炒飯かなぁ。好き嫌い多いでなぁ(笑)
そんなたわいもない話。でも気分が解かれていく。
人のいのちは、いつの日か終わる。
でも、仏教感のある暮らしでは魂は生き続ける。
生きた記録は、子孫のココロというメモリに焼き付く。
ジタバタとしか生きられない、私というエゴの塊。しかし・・・、
“ココロがうなずく方に身をまかせて生きなさい”
と、どこかで大切な人が言っている気がした。
“悪いことしたら仏さんが見とるからね”
と微笑みながら諭してくれた人。
そう、幼き日、しわしわの手で、一緒になむなむしていた大切な人。
生きている間に、全てを伝えることはできない。
そう知っていながらも、全てを伝えようとして無理をする。
しかし、いのちの火が消えても伝えることができるのだと思うと、少し気が楽になった。
【 仏 教 感 の あ る 暮 ら し は 、 遠 い も の で は な か っ た 】
今回、仏教感のある暮らしを取材させていただいた。
仏教に限らず、絶対的な存在に祈り、感謝することは、豊かな暮らしに繋がっている気がした。
仏壇も通うお寺もない私だが、一日3回、感謝する機会はすでに伝えられていたことに気が付いた。
そして、幼き日に大切な人から伝えられたように、私も大切な人へ伝えていきたいと思う。
手 を あ わ せ て 、 い た だ き ま す 。
【 お ま け 】
私:ちゃんと残さんと食べなよ。仏さん、見とるからね。
息子:うん。
息子:・・・仏さんってだれなん?
取材協力:田上ご夫妻、西向院
タイアップ
add:三重県桑名市西矢田町27-2
tel:0594-22-3372
HP:http://mytera.jp/tera/zensaiji30/monk/
FB:https://www.facebook.com/zensaiji987/
善西寺では定期的に、おてらこども食堂を開催しています。
また春季永代経法要を4月17日に開催予定です。
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事