「焼き芋、あります」の文字を見ると、なんだか無性に食べたくなる。そんな季節がやってきましたね。
昔ながらの「壺」でじっくり焼き上げる焼き芋専門店が、津市の街なかにあります。
今回は、OTONAMIE記者のキャスターマミが、2023年5月にオープンした「いも庵」の店主・大東さつきさんに、焼き芋のお店を始めたきっかけから、こだわりの焼き方、そして「焼き芋を通して届けたいもの」について伺いました。
原点は、志摩で食べた「おやつのお芋」
――お店を始めたきっかけは?
ずっと焼き芋屋さんをやろうと思っていたわけではないんです。
以前は三重県津市の一般企業で、事務の仕事をしていました。
そこで、たまたま農家さんとのつながりができて。私自身が小さい頃からお芋が好きだったこともあって、少しずつ「お芋を使ったお店をやってみたい」と思うようになりました。
ただ、私は添加物があまり得意ではなくて。できるだけ自然なもの、体にやさしいものを使って、調味料をたくさん入れなくてもおいしいスイーツが食べられるお店があれば。それが、焼き芋専門店開業のきかっけです。
――小さい頃からお芋が好きだったんですね。
はい、大好きでした。三重県志摩市の出身なんですが、田舎育ちなので、おやつといえばそういうものばかり。
祖父母が農家をしていたので、そこで採れたものを食べていました。学校から帰ってきてから食べるおやつのお芋は、とてもおいしかったです。
志摩では、海女さんや子どもたちのおやつとして、郷土食の「きんこ」が親しまれてきました。隼人芋という品種のさつまいもで作られた干し芋で、素朴であっさりとした甘みと、もっちりやわらかな食感が特徴です。
昔から、農産物そのもののおいしさを、おやつとして味わってきた大東さん。そんな原体験が、今の「いも庵」につながっています。
空いた建物を1年かけてDIY
お店の場所も、最初から決めていたわけではありません。
以前の職場の近くにあった、建設組合が使っていた建物。組合が解散して空き店舗になっていたところを、「ここなら交通量の多いメイン道路沿いではないので、車でも出入りしやすい」と思い、借りることにしました。
――建物は、どのように改装したんですか?
仕事を辞める前だったので、休みの日に自分で塗ったり、直したり。大工さんに頼んだところも含め、完成するまでに1年くらいかかりました。
2階へ上がると、そこは「昔の小学校」
当初は、テイクアウトを中心とした焼き芋屋さんを考えていました。
「建物の2階も空いているから活用したら?」という建物のオーナーさんからの提案で生まれたのが、昔の小学校をイメージしたイートインスペースです。
大東さんのアイデアで、もともとの建物が持っていた古い雰囲気を残しながら、古道具や古いおもちゃ、机などを集めて、まるで昭和の教室のような空間に仕上げました。
古き良き懐かしいものが好きな大東さんは古物商の資格も持っているため、当時使われていたものを自ら仕入れて揃えたそう。
教室に並ぶ机や道具、絵本や小学校の国語の教科書など、どこか懐かしいものがずらり。
「懐かしい」と話すお客さんも多く、自分が小学生の頃に使っていたものを見つけて、思い出話に花を咲かせる人もいるそうです。
飲食スペースとしてだけでなく、レンタルスペースとしても利用されていて、映画「浅田家!」で元「嵐」の二宮和也さんが演じた、津市出身の写真家・浅田政志さんが、小学校1年生のランドセル撮影のロケーションとして使われたことも。
ノスタルジックな雰囲気に癒されながら、ゆっくり過ごしてしまいますね。
おいしさの秘密は「収穫したて」ではない
いも庵の主役は、もちろん焼き芋。そのこだわりは、焼き方だけではありません。
――お芋はどんなものを使っているんですか?
その時期においしいものを全国から仕入れています。紅はるかやシルクスイートなど、基本的にはねっとり系の品種です。
実は、収穫したばかりのお芋をすぐに焼いているわけではありません。
さつまいもは、収穫後に適した環境で熟成させることで、でんぷんが糖に変わり、甘みが増していきます。新芋は9月くらいに収穫されるんですけど、採れたてはまだ甘みが足りないんです。貯蔵して、甘くなってくるのは12月以降ですね。
じっくり時間をかけて甘みを引き出すことで、焼き芋のおいしさはさらに深まっていくのです。冬の焼き芋が、今から待ち遠しくなりますね。
いも庵の1か月の仕入れ量は、約350kg。段ボールにするとなんと約70箱にもなるそうです。
そして、もう一つのこだわりが「壺」です。
なぜ「壺」で焼くの?
使っているのは、壺やき芋専用に作られた常滑焼の壺。
――普通の焼き芋との違いは何でしょうか?
やっぱり、ねっとり、しっとり焼き上がるところですね。壺の中で熱の対流がうまく回ることで、お芋にじっくり熱を伝えることができます。
焼き芋を甘くするには、甘みが生まれやすい温度帯をできるだけ長く保つことが大切。壺の中でじわじわと熱を伝えながら、約2時間かけて焼き上げます。
直火で焼くのではなく、壺の反射熱によって炭の熱を循環させることで、全体に均一に熱を伝えるのがポイントです。
うまく焼けないと焦げたり、すごく時間がかかったりするんです。甘くなる温度帯をうまく保てるのが、この壺の良いところですね。
大東さん自身、いくつかの窯元を巡り、実際に作ってみて比較したうえで、「一番おいしく焼き芋ができる」と選んだのがこの壺でした。
私がお店を訪れたとき、店前に並ぶ大きな壺を見て「ディスプレイかな?」と思ってしまったのですが、この壺こそ、いも庵の焼き芋を支える大切な道具だったのですね。見た目のインパクトだけではなく、重要な役割を担っています。
夏は「かき氷」も!充実の焼き芋スイーツ
いも庵では、夏に「冷やし焼き芋」も登場します。温かい焼き芋とは食感も味も変わって、冷たい方がさらにねっとりして、甘みも強く感じます。
そして、夏季限定の人気商品が、焼き芋のかき氷!
上からかけるソースにも焼き芋が使われ、冷やしたお芋が添えられます。ほうじ茶や練乳などを組み合わせたソースも絶品。
レシピはスタッフみんなで試食をしながら、試行錯誤して完成させたもの。夏の間だけ楽しめる、いも庵ならではの一品です。今年は9月末ごろまで楽しめる予定だそう。
また、「ワンちゃんと一緒に楽しみたい」という声から、ペット用の焼き芋も。ワンちゃんを連れて訪れるお客さんが、一緒に焼き芋を楽しめるようになっています。
マルシェで出会って、お店にも
いも庵は、店舗だけでなく、県内外のマルシェにも積極的に出店しています。道の駅やイベント、名古屋で開催された芋フェスなど、出店先はさまざま。
特に昨年は「声をかけてもらったところには、できるだけ行こう」と決め、積極的に出店してきたそうです。現在は店舗との両立も考え、出店先を選びながら活動しています。
マルシェでいも庵の焼き芋を知り、後日お店を訪れるお客さんも。
「美味しかった、また来ますって言ってもらえるのがうれしいですね。常連さんも結構います」と大東さん。
マルシェ限定で販売するスイートポテトも人気で、すぐに売り切れてしまうことも。店舗では予約で販売しています。私も食べてみたい!
「まずは、もっと地域の人に知ってもらいたい」
オープンから3年。県外や県内の遠方から訪れるお客さんも増えました。
旅行の途中に立ち寄る人もいれば、SNSを見て「おいしい焼き芋が食べたい」と訪れる人も。
一方で、大東さんには「まだまだ地域の人に知られていない」という思いもあります。
「3年経っても、まだ知らない人が多いんですよね」
国道沿いではなく、少し中に入った場所にあるため、偶然見つけてもらうのは簡単ではありません。だからこそ、一度訪れた人が「また来たい」と思ってくれることを大切にしています。
自分用のおやつとして。
家族への手土産として。
懐かしい空間でゆっくり過ごす時間として。
地域の小学生や中学生が、学校帰りに遊びに来ることもあります。
「自分用にも手土産用にも、気軽に利用してもらえたら」
これからは、焼き芋を使ったケーキなど、新しい商品づくりにも挑戦したいといいます。
志摩の祖父母が作ったお芋を、おやつにして育った少女時代。自然なものを使った、やさしいスイーツを届けたいという思い。そして全国のお芋農家さんとのつながり。
一つひとつの縁がつながって、津市の「いも庵」が生まれました。
じっくり熟成させたさつまいもを、壺の中でゆっくり焼き上げる。その一口には、昔から変わらない「お芋のおやつ」の記憶と、大東さんのこれからの挑戦が詰まっています。
焼き芋を買って帰るもよし、2階の懐かしい教室でゆっくり味わうもよし。
昔ながらのおいしいおやつを味わいに行ってみませんか?
壷やき芋いも庵
住所 三重県津市中河原298
電話番号 070-1623-1112
定休日 火曜・水曜
営業時間 11:00~18:00
公式ホームページ https://imoan-tsu.com/
公式Instagram https://www.instagram.com/imoan_tsu/
キャスターマミ。OTONAMIE記者。松阪市出身。生まれ育った三重が大好きで、三重を盛り上げたくて地元タレントに。テレビ・ラジオ出演、祭りやイベント、ブライダルMCとして活躍中。この記者が登場する記事














