■昭和から47年間愛され続けた渋ビル「桑栄メイト」
JR東海・近鉄・養老鉄道が乗り入れる桑名駅舎に直結し、町の象徴的存在である「桑栄メイト」
現在、東西自由通路と新駅舎の建設が進んでおり、この愛すべきビルも今年7月末に営業を終え、8月末には完全に閉鎖。早ければ今秋から解体工事に入ることが分かった。
特に二階は、味の街と銘打つほどソウルフードの集合体。
これは個人的な思い入れだが、私が桑名に移住した際、駅を降りて最初に目にしたのがこのビル。
渋すぎる駅ビルに泣き崩れたわけだけど、今はとても想い入れ深い場所となっている。
時代と共に忘れ去られていくかもしれないこのシンボルを記録として遺したい。
■青春の味ドムドムバーガー
メイトを語る上で欠かせないのがドムドムハンバーガー。
初出店は1970年。国内初のハンバーガーチェーン店である(マクドナルドの初出店は翌年1971年)
もともとはダイエーの子会社”オレンジフードコート”が手掛けるハンバーガーチェーンで、ピーク時には全国350店舗を超えたが、ダイエー衰退により販売が低迷。2017年の時点では約55店舗にまで減少した。
同年、レンブラントホールディングスが一部を譲受し、ここ最近では新たな事業展開をみせていた(2020年7月現在、全国で26店舗を残すのみ)
そんな中で安定の人気を博していたのは、都市伝説レベルのご夫妻が切り盛りするドムドムハンバーガー 桑名FC店(通称:桑名ドムドム)。
東海地区唯一のドムドムとして2017年に取材したところ、ドム愛溢れるファンの多さ、そしてドムイーターやドムさんぽという言葉まであることも知った。
桑栄メイト閉鎖により桑名ドムドムはどうなってしまうのか。
マスターにお話を伺ってきた。
■メイトの閉鎖。ドムドムバーガーの行く末は?
マスター:7月20日で閉店。その後月末までは在庫調整で出せる範囲は営業します。
やはり…。別の場所で再開の可能性は?
マスター:おかげさんで47年間充分やってきましたからね。私も82歳。年やで。体調もあるからもう考えていないですね。ようやれてたわここまで。
桑名ドムドムがあるフロアは桑名駅改札直結。多世代が忙しなく行き交う場所だ。
このフロアを半世紀にわたって見守り続けたのが、フランチャイズオーナーの太田ご夫妻。桑栄メイトを象徴する存在といっても過言ではないと思う。
学生からシニア、ビジネスマンやファミリーなど、幅広い層に支持されている桑名ドムドム。ここにはシステマチックなファーストフードとは違う、余白のような温かみがある。
だからなのか、挨拶から始まり注文のやりとりにもちょっとした雑談が生まれ、場所柄、電車の時間を尋ねられることフックに会話が弾むこともある。
また出来立てのハンバーガーを席まで届け、一言掛けてくれるのもいつものサービス。その一言によりお客さん同士が繋がることもしばしばだ。
マスター:「深い意味はないですよ。お客さんに立って待ってもらうというのは気を揉んでしまうから、開店当初から席までお持ちしていました。なんせ正解知らんからね(笑)」
「今日も美味しかったありがとう」
皆さんそう声を掛けて帰る光景に、こんなに温度感のあるファーストフードはなかなかないんじゃないかなと毎度思う。
■開店当初は
遡って1972年。和菓子屋を営んでいたマスターは、桑名駅前再開発事業として建設された商業ビル「桑名ショッピングシティ・パル」(以下パル)にて寿がきやを始めた。
翌年の1973年にはパルの向かいに複合用途ビル「桑栄メイト」が建設され、当時35歳だったマスターはテナント入居の権利を取得。
ノープランで喫茶店でもやろうと考えたそうだが、ダイエーに勤めていた弟さんからの話でドムドムバーガーのフランチャイズオーナーとなった。
以降パルが閉業となるまでの25年間は、寿がきやとドムドムバーガーを同時並行で営んでいた。
寿がきやのお客さんが何も知らずにドムドムに来て、マスターの顔を見て驚くというケースもあったらしい。
「寿がきやでもおせわになりましたね」思わずそんな挨拶を交わすこともあったそう。
それにしても二店舗を同時に営むそのモチベーションは一体何だったんだろうか。
マスター:「なんやろね。大変やったよ。あー思い出した思い出した。和菓子屋でどうしようかなと思ってた時、有名な占い師に”あなたは二つの店が出来るよ”と言われたのがきっかけでした」
まさかの占い師の後押し。
■おもひでぽろぽろ
ちょっと変わったメニューが特徴でもあるドムドムバーガー。
変わり種に挑戦したい気持ちはあるものの、結局行き着く一番人気の「甘辛チキンバーガー」
しっとり行きたい朝には、ふわふわ熱々の「手作り厚焼きたまごバーガー」がおすすめ。
昭和を醸す黄色いゴミ箱。この子はここでどれだけの物語を観てきたのかなと想像したくなる。
年季を感じる絵は、一番街の画廊で見繕ったのだそう。
親子三代で通う常連さん。47年間欠かさずに毎週ローカル電車に乗って訪れるおばあちゃん。桑名ドムドムで得た着想をもとに、全国アイディアコンテストで最優秀賞を獲得した小学生。
お客さんとの思い出もたくさんたくさん。
最近では子どもの頃から通っていた20代若者が上京してカメラマンに。思い出の場所として桑名ドムドムを綴った雑誌が出版されたそう。
マスター:小さい頃から知っている子だからとにかく不思議な感じでね。素敵な文章なんですよ。
私がお邪魔したこの日は、新メニューである黒毛和牛肉バーガーの発売日だった。
「高いしこんなん出るんかな」と呟きながらポスターを張るマスターを眺めていた矢先に、ママから「和牛出ました」との耳打ち。
顔を見合わせて驚くお二人の表情に胸キュンだった。
■最後に
桑栄メイトの閉鎖が発表され、惜しむファンたちが連日訪れている。
そして皆さんいてもたってもいられずに聞く「ドムドムさんはいつまでですか」
答えるマスターの横顔に安堵と寂しさが滲んでみえた。
マスター:「桑栄メイトはいい場所でしたね。学生さんもサラリーマンも色んな人がみえてね」
こみ上げる寂しさを飲み込み、最後に聞いた。
―マスターにとってドムドムバーガーはどんな場所でしたか?
マスター:「なんて言ったらいいかな…。そう言われるとねぇ、本当に一生そのもの。良い場所とハンバーガーとお客さんに恵まれて、幸福な場所でしたね。」
そして静かに続ける。
マスター:「一番ええ時をここで過ごしました。これがなかったら人生変わってましたね」
半世紀にわたり多くの人の青春を包んだドムドムバーガー。
歴史に幕を閉じるまであと1ヵ月半。
桑名ドムドムを彩るこの情景と空気を、目に心にしっかりと焼き付けたい。
ありがとう、桑名ドムドム。
ドムドムハンバーガー 桑名FC店
住所:三重県桑名市桑栄町2 桑栄メイト
電話:0594-21-2537
※ご都合により2020.6.30にて閉店となりました
6月30日ドムドムバーガー桑名の最終日の様子はこちら。
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事