ホーム 02【遊びに行く】 竜宮の門と白鳥の伝説をたどる〜四日市・観音寺と鈴鹿・加佐登神社をめぐる二日間〜

竜宮の門と白鳥の伝説をたどる〜四日市・観音寺と鈴鹿・加佐登神社をめぐる二日間〜

SNSで見かけた一枚の写真から、思いがけない二日間が始まった。

四日市の観音寺と、翌日に訪ねた鈴鹿の加佐登神社(かさどじんじゃ)。それぞれの場所で、語り継がれてきた歴史や言い伝えを聞くことができた。

竜宮の門をくぐる

写真に写っていたのは、竜宮城のような形をしたお寺の山門だった。場所は、四日市市の六呂見(ろくろみ)にある観音寺。珍しい形の門に心ひかれ、足を運んでみることにした。

写真で見てはいたけれど、実物を前にすると驚いた。こういう形の山門はテレビや映画で見たことはあっても、実際に目にするのは初めてだった。門をくぐると、まるで竜宮城へ入っていくような気分になる。

 

境内で、この寺の50代目にあたるご住職に話を伺った。

まず穏やかな口ぶりで教えてくれたのは、竜宮型楼門と呼ばれる、この山門のいわれだ。

この世とあの世のあいだには関所があり、そこを通るのに必要なのが念仏なのだという。江戸時代の関通(かんつう)上人の遺徳をしのんで、その関所を竜宮の門のかたちにしたと伝わる。
竜宮城どころか、私はあの世への関所をくぐっていたらしい。

日本ではあまり見かけない門のかたちは、中国風の建築様式に由来するのだろう、とご住職は言う。

仏教は、インドから中国を通って日本へ伝わってきた。そう考えると、竜宮の門のほうが、むしろ伝わってきた仏教のもとの姿に近いのかもしれない、と思った。

「ろくろみ」という地名と、秘仏の観音さま

寺の由緒では、神亀四年(727)、小野の湊(みなと)に観音さまが現れ、のちに聖武天皇が寺を創建したと伝えられる。

「ちょうど来年が、お寺の開基1300年の年なんですよ」と、ご住職は教えてくれた。観音さまが現れた年から数えて、2027年が1300年目にあたる。

話は、この土地の昔のことにも及んだ。昔は、寺のあるこのあたりも海だったと、ご住職は土地の人たちから聞いてきたという。

六呂見という地名にも、二つの説がある。ろくろ職人の集団がいたからという説と、海が引いて「陸路(りくろ)が見えた」からという説だ。「僕はこっちのほうが好きなんですけどね」と、ご住職はほほえんだ。

本堂にも上げてもらった。その日はちょうど、寺ヨガが開かれていた。
中はきらびやかで、極楽浄土のようだった。

ご本尊は秘仏のため、ふだんは、その前に置かれた御前立(おまえだち)という像を拝む。その御前立の前まで、案内してもらった。ご本尊は、頭が八つ、足が四本の霊鳥に乗る観音さまで、四足八鳥観音(しそくはっちょうかんのん)と呼ばれる。

ご本尊と結ばれた五色の紐にも、そっと手を触れた。

「観音寺のご本尊、四足八鳥観音像(写真提供:観音寺)」

作法よりも気持ち。ご住職が教えてくれた手を合わせる意味

お寺でのお参りの作法を、私はよく知らない。そう打ち明けると、ご住職は、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。

仏さま、つまりご本尊の観音さまを敬い、その気持ちを捧げる。それが、お寺で手を合わせるということなのだという。

名前も顔も知らない遠いご先祖がいて、今の自分がいる。ご本尊は、そのご先祖みんなをひっくるめて代表してくれている。だから、ご本尊に手を合わせることは、ご先祖みんなに手を合わせることでもあるのだと、ご住職は話す。

そんなふうに考えたことはなかった。難しく構えなくていい。作法を知らなくても、まずは手を合わせてみればいいのだと思えた。

本堂の中で大きな菊の紋を目にした。山門の瓦には時代劇でおなじみの葵の紋もあった。

寺の沿革によれば、三人の天皇の勅願所となり、徳川家康からも朱印を寄せられたという。天皇家とも徳川家とも、深いつながりのあるお寺なのだ。

 

お寺の中に神社? 夢枕に立った八幡大菩薩

境内の一角の、八幡社に目が留まった。

その傍らの古い由緒書きに、こんな話が残っていた。

天正十九年(1591)、寺が焼けて、観音さまが仮のお堂に移されたときのこと。夜更けに白髪の老僧が、尊像のまわりをたびたび巡ったという。やがて老僧は寺の僧の夢に現れ、自分はこの寺を守る八幡だと告げた。

祀られているのは八幡大菩薩。参れば災いが除かれ、願いもかなうという。寺を守るための神さまなのだと、ご住職は話してくれた。

神さまでありながら「大菩薩」と呼ばれ、寺の観音さまを守ってきた。寺の境内案内では、この八幡社は、神さまと仏さまの信仰がひとつになった「神仏習合」の名残なのだという。

お寺の中で、神さまが観音さまを守っていたとは。

 


静寂に包まれた「加佐登神社」へ。木漏れ日の参道を歩く

観音寺の写真をSNSに載せると、神社やお寺が好きだという人からメッセージが届いた。ほかにおすすめの場所を尋ねると、好きな神社として挙げてくれたのが、鈴鹿の加佐登神社だった。

日本武尊(やまとたけるのみこと)の伝承で知られる神社だ。実は私の家から近い場所にある。

名前もよく知っている。それなのに、境内に上がったことは一度もなかった。翌日、訪ねてみることにした。

鎮守の杜は、こんもりとした山のような場所だった。近くまで来ないと、参道は見えない。ふもとには駐車場があり、表参道はそこから上っていく。

 

なかなかの坂道だ。両側に石灯籠とのぼりが並ぶ。木々に覆われた参道は薄暗く、ところどころに木漏れ日が落ちる。いくつかの鳥居をくぐりながら一段ずつ上るうちに、すっかり息が上がった。

石段の参道を上るその時間が、まるで日本武尊の時代への道のりのようだった。

 

上りきると、パッと視界が開けた。頭上に空が広がる。薄暗い参道を抜けてきた目には、境内がひときわ明るく見えた。頬に当たる風が気持ちいい。

境内で神主さんに話を伺い、参道を上ってくるのがとても気持ちよかった、と伝えた。

話をするうちに、神主さんの口から、こんな言葉が出た。

「ここに入ると、あまり外の音がしないんですよね」

そういえば、と耳を澄ます。聞こえてくるのは、鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音くらいだった。

上ってきた参道の石灯籠にも、いわれがあった。昭和のころまでは、参拝者が奉納した木の鳥居が、坂の下まで並んでいたのだそうだ。けれど、木の鳥居は十年ほどで朽ちてしまう。それで今は、石灯籠が並んでいるのだという。

夏の天王祭の夜には、その灯籠すべてに火が灯るとのことだ。一度見てみたいと思った。

日本武尊の伝説と、母校の名前

 

拝殿の前に立つ。ここに祀られているのは、日本武尊。ご神体は、尊の形見と伝わる笠と杖だ。

社の名前も、このご神体の笠から来ているという。地元の人たちは「かさどさん」と呼んで親しんできたのだと、神主さんはにこやかに話してくれた。

日本武尊といえば、勇ましい武将の姿が思い浮かぶ。ところがこの神社は、古くから病気平癒の信仰を集めてきた。若くして亡くなった尊にちなむもので、江戸時代にはその信仰が広まったという。日本武尊を祀る神社としては珍しいのだそうだ。

そのころは、お伊勢参りの行き帰りに立ち寄る人も多かったようだ。東海道の名所のひとつとして、浮世絵にも描かれるほどだったと、神主さんは話す。

日本武尊には、亡くなったあと白鳥になって都へ飛んでいったという伝説もある。

本殿のさらに奥上ったところには、白鳥塚(しらとりづか)と呼ばれる古墳がある。尊の終焉の地と伝わり、この社も、その白鳥塚の前に創始されたといわれる。

私も、そこまでの山道を歩いてみた。途中の木には、登山道のようにピンク色の目印が付いていた。

そして、この近くには、私が通った白鳥中学校がある。その名も、この白鳥の伝説から来ているのだと、神主さんは教えてくれた。

母校の名前に、そんな由来があったのだ。ちょっと誇らしい気分だ。

帰り際に名刺をもらうと、その名前に見覚えがあった。一瞬、あれ?と思った。中学校のころ言葉を交わしたことはなかったが、同級生に実家が神社の子がいるとは聞いていた。目の前の神主さんが、その人だった。

これには驚いた。ずっと話を聞かせてくれていたのが、中学校の同級生だったとは。

白鳥の伝説が母校の名前につながり、その母校が、今度は神主さんへとつながった。

家の近くに、こんな場所があった

何十年も暮らしてきた土地なのに、足を運んだことのない場所がある。

きっかけは、SNSで見かけた一枚の写真と、届いた一通のメッセージだった。

観音寺では、ご住職の話を聞くうちに、お寺がぐっと身近になった。加佐登神社では、石段の参道を上り、神主さんの話を聞くうちに、知識でしかなかった日本武尊の伝説が、自分の暮らす土地の話になった。

観音寺も加佐登神社も、機会があれば一度訪ねてみてほしい。

帰り道、ススキが風に揺れていた

 


観音寺(浄土宗 補陀洛山勅願院 観音寺)

    • 所在地:三重県四日市市大字六呂見1068
    • 電話:059-345-0565
    • 駐車場:境内裏てにあり
      Googleマップ
    • 御朱印の受付:9:00〜16:30(法要中は授与できない場合あり)。檀家でなくても参拝・御朱印の授与を受けられる
    • 公式サイト:観音寺公式サイト / Instagram

加佐登神社(かさどじんじゃ)

  • 所在地:三重県鈴鹿市加佐登町2010番地
  • 電話:059-378-0951
  • 駐車場:3箇所あり。表参道の石段を上る場合はふもとの駐車場を利用。裏参道から拝殿近くまで車で行ける
    Googleマップ
  • 公式サイト:加佐登神社公式サイト / Instagram

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で