豪商のまち、松阪。
松阪木綿などの商いを背景に、三井グループの祖・三井家をはじめ、長谷川家、小津家など、多くの豪商がこのまちから生まれた。
江戸時代、伊勢神宮へ向かう多くの参拝者が松阪を行き交い、まちは大いに賑わった。全国から人が集まれば、自然と情報も集まる。各地の流行や世の中の動きをいち早く知ることが、松阪商人の商いを支える力にもなった。
当時の江戸では、倹約令によって贅沢な絹の着物が制限されることもあった。そんな時代に、藍染めの細かな縞模様をもつ松阪木綿は「粋」な着物として江戸っ子たちに支持され、現代のユニクロのごとく広く親しまれていった。
人が集まり、情報が集まり、商いが生まれる。
松阪が「豪商のまち」になった背景には、そんな土地の力があったのかもしれない。
商人のまちのDNAについて語られることはあまりないが、以前、松阪の老舗菓子店のオーナーから「松阪で飲食店をやっていけたら、全国どこでもやっていける」と聞いたことがある。
商人の感覚がまちに自然と根付いているためか、見る目も厳しい。そこで商いを続けていくには、新しい発想や、時代の先を読む力も求められるということだろう。現代で例えると…。
日本は今、歴史上経験したことのない規模で人口が減っていく、人口減少社会に突入した。地方創生が叫ばれるようになって10年以上。地方である三重県に暮らす私も、まちから元気がなくなっていく様子を眺めながら実感するようになった。
行政だけでは太刀打ちできない。ましてボランティアだけに頼れる次元でもない。地域に影響力をもつ企業の力も、これまで以上に必要になってきた。地域で新しい仕組みをつくり、実践できる地元企業…。
イノベーションを止めない、企業風土の成り立ち。

ところで、この保冷剤。
あなたの家の冷凍庫でも眠っていませんか?
ケーキや肉を買ったときに付いてくる、この保冷剤を生産しているのは、松阪市にある三重化学工業株式会社。創業設立70年を迎える地方の老舗企業で、その歴史はイノベーションの連続だったという。
洗濯ノリの製造からはじまった三重化学工業。その技術を活かし、保冷剤を開発したのが創業者の山川善高(よしたか)さんだった。

保冷剤は会社を支える主力製品にまで成長したが、夏場しか売れず、冬場の工場には仕事がなかった。そこで作業用防寒手袋を開発し、主力商品は2本柱に。
現社長・山川大輔さんの代になると、保冷剤の技術を活かした医療用品を開発。さらに現在では海外進出も果たすなど、その歩みは止まらない。
時代の風を読み、地域や人とのつながりを紡ぐ。

新社屋を訪ねると、まるでスタートアップ企業のような雰囲気。この社屋でコロナ禍には、リモートを活用した社外スタッフとの共創「ミエラボ」という独自の仕組みも生まれ、2022年にはグッドデザイン賞を受賞。そこから、地球に還る保冷剤やフェムテック向けの製品などの開発につながっているという。

営業や研究スタッフのデスクはフリーアドレス。毎日違うデスクで働くため、仕事の合間に話す相手も変わる。そこから新たな発見が生まれたり、日々のコミュニケーションも楽しめたりするという。
また海外人材も採用しており、企画開発室には台湾、生産部にはベトナム、海外事業部にはタイと中国からそれぞれ1名を配属。仕事をしながら交わされるおしゃべりも、なんだか楽しそうな雰囲気だ。

水谷さん:海外展開のアイデアも開発に役立ちます。歴史や文化も違うので、世間話も楽しく、充実した時間を過ごせています。
企画開発室の水谷啓道(ひろみち)さんは、地域との取り組みも担当している。なかでも力を入れているのがキャリア教育だ。
地元公立高校では、探究学習の講師を務めている。高校生が自ら課題を見つけ、答えを探していく探究学習。そのなかで、三重化学工業が普段行っている研究開発のプロセスを伝えている。

水谷さん:何個か検体をつくり実験の方法を考えたり、平等な条件を整えて実験を重ね、ステップを踏みながら開発を進めるという、ラボの考え方を教えています。学生のなかには保冷剤をテーマに研究を進めてもらったり、薬草から塗り薬を作ったり、ものすごく飛ぶ紙飛行機をつくった生徒もいて、型にはまらない発想を持っていてこちらもワクワクしますね。

小学生や未就学児には、オリジナル保冷剤づくりのワークショップも開催。参加者を募集してイベント形式で行うこともあれば、地域の学生、自治体や企業と一緒に開催することもある。

水谷さん:子どもたちには「いつも使っている保冷剤って、自分でも作れるんだ」という、ものづくりの楽しさを知ってほしいです。社外イベントに出ていくのも、例えばワークショップに参加した子どもたちが、松阪におもしろい企業があることを知るきっかけにもなれば、と思っています。

さらに大学生は、インターンシップとして受け入れている。過去の一例では、まず保冷剤のことをほとんど知らない状態の学生に会社案内を行い、開発や製造の様子を見学してもらう。また、会社としての考え方もレクチャーする。
その後はドラッグストアなど、実際に保冷剤が並ぶ社外へ繰り出し、それぞれにアイデアを持ち寄ってもらう。なかには蓄光剤を使った「光る保冷剤」や、スパンコールをまとった「映える保冷剤」を考えた学生もいたそうだ。

水谷さん:三重大学のアフリカ、南米、アジア、欧米などからの留学生も会社見学に来ます。ものづくりや当社の取り組みなど全般を知ってもらい、自国とは違う「日本の企業で働くイメージ」を掴んでいる学生が多いですね。会社見学に来社したことのある中国人留学生が採用面接に来られたときは「当社に魅力を感じてもらえた」と感じ、嬉しかったです。
ほかにも社員の家族を招待する会社見学を行うなど、地域や人との関わりを大切にしている。
水谷さん:キャリア教育をはじめたのは現社長のアイデアでした。私たちは「本業を通じた社会貢献」と呼んでいます。子どもや学生に地元企業との接点を持ってもらい、一度は地域を離れても、こういう会社が地元にたくさんあることを覚えてもらえたら、Uターンのきっかけになれるのではと考えています。ワークショップに参加した小学生には「もし大人になって当社の面接に来てくれることがあれば、今日自分で作った保冷剤を持ってきてくれたら合格!」と、よく冗談で話すんですよ。
地域や社員の幸せとは。
キャリア教育をはじめた社長の山川さんに、地域への想いをうかがった。
山川さん:水谷が話したとおり、松阪も若い人が減っていく時代です。子どもと地元企業との接点が必要なら、まず自社からやってみようと。まつりなどでは、仲間の地元企業と一緒に職業体験もしています。地方のキッザニアのような仕組みですね。都会で暮らす子どもとの体験格差を埋めたいという想いもあります。
他にも「ミエラボ」など社外との共創をはじめたのも山川さん。異業種との連携では「松阪メディカルメンバーズ」の立ち上げを発案。メンバーは、プラスチック製造、自動車部品、電子機器、金属部品などを扱う地元企業。商人のまちの経営者たちが協力し、医療業界の新たな課題を解決することで、それぞれの会社の新規事業にもつなげている。昨年は産学連携にまで発展し、三十三地域創生株式会社、鈴鹿医療科学大学と包括協定を結ぶなど、その動きはさらに加速している。
また、地元経営者向けのセミナーをはじめ、大学や全国各地のセミナーにも登壇している。
山川さん:「社長は若ければ若い方がいい」とお話しします。私は37歳で社長になり、コロナ禍や中東情勢による原材料不足に悩まされながらも若かったこともあり、幸い変化を恐れずに進めました。もし私の話を聞いてくれた地元の若手経営者が「自分の会社も変わらなあかんな」と思い、そういう会社が増えれば、地域も変わっていくと信じています。

山川さん:ところで保冷剤って、無料でもらうことが多いですよね。製造メーカーの商売としては薄利多売なんです。社長に就任したとき、ただ単に売上を増やすというだけでは、働く社員は仕事に幸せを感じられないと思いました。地域の子どもや学生と接点をもち、地元の企業とも共創していくことで、人口減少社会でも地元も会社も元気でいられる。地域にとってそんな存在の会社になれたら嬉しいです。
そして山川さんが、取材時によく口にした言葉が「レジリエンス(しなやかさ)」だ。
山川さん:薄利多売という考え方を改めたら、見えてきた世界がありました。それは地域や働いてくれる社員、今まで関係がなかった業界、それぞれに課題があるということです。課題をクリアすることが、これからの時代に求められてくる。特に地方の企業にはそれが必要だと考え、率先して実行するように心掛けています。
守るために、変わり続ける。
豪商のまち・松阪はかつて、人が集い、情報が集まり、商いが生まれた。そして今回の取材を通じて、ふと思ったことがある。それは「豪商とは、変化することが上手な人々」だったのではないか、ということ。
人や地域と共創し、時代の先を読む。そして新しいアイデアをひねり出し、イノベーションを続ける。そんな三重化学工業という企業のDNAにも、どこか豪商のまちの魂に似たものを感じた。
どのまちの未来も、次の時代を担う子どもたちにかかっている。そんな子どもたちに「このまちが好きだ」と胸を張らせてあげたいと願うのは、地元の大人たちの想いでもある。地域づくりの根っこにあるのは、子どもたちに希望を見せることなのかもしれない。保冷剤を作る会社で、そんなクールな熱意を感じたのでした。
【タイアップ】
三重化学工業株式会社
記事をご覧いただきありがとうございます。三重化学工業では、ともに地域を盛り上げる想いを持った社員を募集しています。ご興味のある方はぜひこちらをご覧ください。
▼リクルートサイト
https://www.miekagaku.co.jp/work/
またリクルート以外の目的でも、ぜひお気軽にミエラボへお立ち寄りください。皆さまのご来社をスタッフ一同お待ちしています(事前予約制)。
三重化学工業株式会社
三重県松阪市大口町255-1
0598-51-2361
ホームページ
▼三重化学工業
https://www.miekagaku.co.jp/
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。











