伊勢志摩は観光庁から「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり」のモデル観光地の14地域のうちの1つに令和5年から選定されている。
伊勢志摩観光コンベンション機構(以下:コンベンション)では、インバウンドへの取り組み「IseShima Connect」をコンセプトに、「地域内のつながり」「外とのつながり」「体験や情報のハブ」というテーマに注力している。
コンベンションの担当者、三橋さんにインバウンドで今、課題と感じていることを伺った。
三橋さん:伊勢志摩は高付加価値インバウンドの獲得に向けた事業においてまさに今、これから本始動の時期です。コンベンションではインバウンド事業を「観光地のまちづくり」と捉えて活動しています。そのために伊勢志摩の方々がどんな感覚でインバウンドに関わっていただくことが、地域にとって良い結果になるのか考える必要があります。そのために今回、伊勢志摩の若手地域プレイヤーの方々、長年地元を観察してきた方、三重県をよく知る日本政府観光局(JNTO)のニューヨーク事務所所長(オンライン)の座談会を企画しました。
※高付加価値インバウンド:訪日旅行での消費額が一人あたり100万円以上のインバウンド
JNTO ニューヨーク事務所所長
松本 将さん プロフィール
埼玉県出身。2005年国土交通省に入省。2017〜2021年の4年間、三重県庁観光局(当時)に出向。伊勢志摩の魅力を熟知するとともに、現在はJNTOニューヨーク事務所の所長として、日本の様々な地域のインバウンド推進事業に関わる。
伊勢志摩の若手地域プレイヤーの視点と世界の視座
今回、座談会に参加いただく地域プレイヤーの皆さんは伊勢志摩のご出身。学生時代を伊勢で過ごした同郷であれば、ソウルフードはまんぷく食堂のからあげ丼。ということで…
まずは、みんなでいただきます!
伊勢は夜8時。今回オンラインでご参加いただくニューヨーク在住の松本さんには、申し訳ないが映像だけでお裾分け。ちなみにニューヨークは朝6時。寝起きからカオスな設定、失礼しました。

また座談会には長年、伊勢というまちを見てきたまんぷく食堂の大将、鋤柄(すきがら)大平さんにも加わっていただきスタート。
地域プレイヤーのひとりはヤシマ真珠の5代目、山本 行太さん。真珠養殖発祥の地、志摩市英虞湾で生産されるアコヤ真珠を扱う真珠店の息子として生まれ育ち、東京でのデパート勤務、その後はファッションジャーナリストのアシスタントの経歴を持つ。

山本さん:デパートで宝石の販売員をしていたとき、冠婚葬祭などで使われる真珠は他のジュエリーと違い、光沢や真珠層の厚さ、大前提として真円形など業界側の評価基準が中心でした。その後ファッションの世界に飛び込み、ジュエリーの捉え方が真珠業界と違い、自由なデザインや個性を重視することに気がつきました。また知り合いのデザイナーさんが伊勢へ来たとき「伊勢には真珠が売っていない」と言ったんです。売ってはいるのですが、ファッションとして若者が取り入れたくなるデザインを施したアイテムを、オリジナル商品として扱う店はほとんどありませんでした。

そんな想いを抱えながら、伊勢志摩にUターンして家業に入った山本さん。はじめたのはCROSPEARL(クロスパール)というブランドづくり。このブランドでは真円ではない、いわゆるバロックと呼ばれるいびつな形の真珠も、ひとつの個性として商品展開をしている。
山本さん:帰省する前に、国が勧めるCOOL JAPANの一環として、日本の伝統を世界に伝える取り組みにも参加していました。「地元で伝えられていくべきものとは何か」を考えたとき、真珠の産地のものづくりを文化として伝えたいと思いました。

若者や男性にターゲットを変え、ファッションに取り入れたくなるデザインや、伝統工芸品である伊賀組紐を使った商品、真珠を原料に使った地元のクラフトビールメーカーとのコラボなどユニークな取り組みも行った。結果、伊勢でも徐々に若い男性がファッションとして真珠のネックレスなどを付け始めたそう。
松本さん:ニューヨークの中心地にミキモトのショップがあり、世界中で展開されているので、欧米では「ミキモト=真珠=日本」という認識があります。今まで個性がないことが常識だった真珠の世界に、あえて個性を打ち出すのはおもしろいですね。海外ではファッションはひとつの自己表現。すでに日本の若者の間で、ぼこぼことした形の真珠を身に付けることが自己表現となっているところに、海外が注目する可能性を感じます。これはモノだけでなく旅行も同じ。インバウンドも旅先にしかない物語を知ることがオリジナルな経験になり人気です。
もうひとりの地域プレーヤーは、カヤックなど海のアクティビティや漁師町の暮らし体験などを手掛ける鳥羽市の海島遊民くらぶのスタッフ、田中 希枝(きえ)さん。海島遊民くらぶを訪れる客の約1割は欧米などを中心としたインバウンド。

希枝さん:インバウンドは、ミキモト真珠島と海女小屋を巡るツアーがコロナ後に倍増し人気です。「海女さんに会いたい」というニーズは圧倒的に多いですね。わたしたちの仕事は海のスポーツ的アクティビティと認識されやすいのですが、実はカヤックは海女さんや海の文化を伝えるためのツールなんです。
伊勢志摩といえば伊勢神宮。インバウンドに神宮の魅力や価値を伝えるには、ひと工夫が必要だという。
希枝さん:いきなり神宮に行っても、何がすごいのか伝わりません。まず横山展望台にいき、風光明媚なリアス海岸の景色と森と海の自然の循環のお話をします。次に海女さんを紹介し、森と海の自然の循環があるからこそ、何千年も続いてきた海女漁や漁業、真珠など伊勢志摩に産業があることを説明します。自然への感謝や循環を大切にする伊勢志摩の文化や暮らしが今も根付いていて、その中心に神宮があるので、最後に神宮にお連れします。そこではたくさんの日本人が祈っている。その光景に感動されますね。伊勢志摩の物語を伝えるために、タイミングは大事にしています。
観光客を喜ばせたい!オレのツアー
大平さん:タイミングは大事ですよね。まんぷく食堂がある宇治山田駅前に時々、インバウンドがいないか見に行くんです。あるとき、フランス人がいたので声を掛けたらまんぷく食堂に来てくれました。店内ではいつもお気に入りの音楽を流していて、そのフランス人がリラックスして食事をたのしんでいるタイミングで、BGMをフランスの音楽に切り替えたらとても喜んでくれました。南米系の方でも同じことをしたら、店内でダンスを踊り始めるくらい。
若い頃は東京で、クラブの音楽イベントのオーガナイズをしていた大平さん。今でも当時の仲間が、伊勢に遊びにくるそう。

大平さん:東京の友人から「大平の伊勢志摩ツアーを企画して」と、お願いがあったんです。オレやったら伊勢志摩のどこを案内したいか、考えるのが楽しくて。まず神宮は、朝5時からお参りできるので、幻想的な早朝参拝を勧めています。幻想的な雰囲気を一番感じられるのは、頭でなく身体の感性が鋭い寝起き1時間以内にお参りすること。これを話すとみんな笑うんですが、起きて2時間以内、3時間以内って自分で試したら、1時間以内がとても心地良かった。「オレのツアー」で伊勢にきてくれる友人に、もっと楽しんでもらいたいと思って、密かに実験していたんです。

三橋さん:いわゆるシチュエーションとオケージョン。いつ、どこで、どんな旅の感動ポイントを作れるのか。それを考えると「オレのツアー」の大平さんのように、インバウンドでもガイドはとても重要ですね。
松本さん:欧米の旅行会社は「ガイドで旅の質が決まる」と考えていますし、実際インバウンドのラグジュアリー層は、旅を計画するときにガイドをとても気にします。また、ニューヨークの旅行会社やメディアから問合せが多いのは「観光サイトや旅行本に掲載されていない日本の魅力を知りたい」です。ネット検索やAiに聞いても出てこない、パンフレットの先にあるストーリー。三重県庁にいたとき、海島遊民くらぶの鳥羽市の離島・答志島ツアーを視察させていただきました。ガイドさんが漁師のおじさんに「今日は何が揚がった?いまは何の作業をしているの?」と日常的な会話をしていました。当時はピンとこなかったのですがニューヨークに来て、インバウンドのラグジュアリー層が求めていたのは「そこにある日常なんだ」と、はっきり理解ができました。
山本さん:昨年、コンベンションさんの事業でシンガポールのメディアの方が伊勢志摩に来ました。私は英語が単語レベルでしか話せないので不安だったのですが、真珠に興味があるというので、英虞湾の真珠養殖場を案内し説明しました。その後、CROSPEARLへの想いをお伝えしたんです。そしたら翌日に来店され、商品を購入してくれました。真珠が育つ物語やデザインに込めた想いが伝わったと実感できて嬉しかったです。
観光地のまちづくりは地域を想う気持ちが動かす
約26年間、まんぷく食堂のカウンターに立ち、からあげ丼を作り続けながら客との会話を重ねてきた大平さん。伊勢志摩の玄関口である宇治山田で地元を定点観測し、まちはどのように変化したのだろうか。
大平さん:後継ぎとして店に入った当時、お客さんはほぼ地元の方でした。そのあとソウルフードブームが来て、少し市外の方も増えた。ガラッと変わったのは前回の2013年の神宮式年遷宮に向かっている時期、2011年の東日本大震災の後です。遷宮が行われる伊勢のソウルフードということで、全国放送のテレビでも多く取り上げていただき県外からのお客さんも増えました。そしてそのころから、お客さんの会話の内容が少し違ってきました。震災もあり、自分という人間はどこからきて、どこに向かうのか。日本人である自分は、そもそも何者なのか。そういった原点を見つめ直す人たちが、神宮や伊勢志摩を訪れるようになったと感じています。
また、客に神宮や伊勢志摩のことをよく訪ねられるようになったという。
大平さん:答えていた内容は、伊勢の人なら知っている当たり前のことだったんです。それでも県外から来た人はとても喜んでくれる。それがすごく嬉しくなって、神宮や伊勢志摩のことを調べるようになったんです。これは私だけでなく、知り合いの食堂のおばちゃんも同じことを話していました。なんとなく地元のみんなが、伊勢に誇りを持つようになったというか。インバウンドもそういう流れになるといいですね。
希枝さん:そうなんです!インバウンドは平和なんです!あ、急に熱くなってすみません。大平さんのお話に共感してつい…(笑)。仕事を通じてインバウンドと想いが重なる瞬間があります。国境を越えて、お互いを理解できた感覚です。そこに平和を感じるんです。

松本さん:皆さんのお話を聞いていて、日本が抱えるインバウンドのテーマの最先端を行っていると思いました。旅行者、そして地域にとって、お互いに喜びが生まれる。それが共有され、共感につながり広がっていく。地元の誇れるものをインバウンドにも伝えようとすることで、地域の誇りが将来にも継承されていくと感じました。インバウンドは地域を支えるために経済的な利益も必要ですが、地域を未来につないでいく「まちづくり」としても大事なことですね。
愛おしい日常と誇れる地元

今日もまんぷく食堂は学生や社会人、地元の方から観光客まで、からあげ丼を頬張りながら他愛もない話で盛り上がっている。神宮には多くの人が訪れて祈りを捧げ、海では海女が鮑を獲り、漁師は網を捌いている。そして日が暮れるころ、真珠養殖の筏が浮かぶ英虞湾を夕陽が茜色に染める黄昏どき。そんな伊勢志摩の日常。
地元に暮らす人たちには、なんでもないこと。しかし外から見れば神秘的であり、美しい自然とともに暮らす贅沢な日々の風景。インバウンド向けのコンテンツなんて言われるとつい構えてしまうが、その答えは私たちがすでに感じている、伊勢志摩の自然や人の温かさを感じる日常と、地元への誇りそのものだと思ったのでした。
【タイアップ】
伊勢志摩観光コンベンション機構はインバウンドに興味のある人と人をつなげる取り組みを行っています。ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。
公益社団法人
伊勢志摩観光コンベンション機構
三重県伊勢市二見町茶屋420-1
伊勢市二見総合支所3F
※令和8年1月26日(月)に上記住所に移転しました。
TEL 0596-44-0800
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事











