昔からある島民オススメの食堂
美しい夕日が眺められる、三重県の離島答志島。
「素材がよければ、シンプルでいい」
一緒に取材していたカメラマンは夕焼けを撮影しながらそう言った。
1泊2日の、とある取材。
夕焼けの撮影が終わり、夕飯は島民オススメの店で食べよう、ということになり、道で出会ったおばさんに聞いた。
すると「ロンクさん」と即答いただいた。
わたしは以前にロンク食堂へ行ったことはあったが、その時はただ食事をしただけだった。
暖簾を潜る。
カメラマン:おっちゃん、元気しとった?
なんでも、カメラマンとお店のお父さんとお母さんは、古くからの知り合いとのことだ。
カメラマン:おっちゃんも一緒に飲もうよ。
楽しい夜のはじまりだ。
店内は大きなテーブルがひとつだけ。
ひとつのテーブルを囲んで食べるって、なんかいいなと思う。
忙しい毎日から、タイムスリップしたみたいなゆっくりとした時間。
私:強制的相席。いいですね〜。
カメラマン:強制的相席(笑)それ、ええね(笑)
ちなみに、ロンク茶屋というはなれもあり、そちらは25名程入れるという。
オカネデ カエナイ カチガアル
酒の肴は、答志島でとれた魚ばかり。
やはり、その地の味をいただくというのは、本当に贅沢だと思う。
オカネデ カエナイ カチガアル。
客層を店のお父さんに聞いたところ、土日は観光客が多く、最近は東京などからもやってくるという。
そして平日は漁師さんや地元の人が中心だ。
お父さん:ホウバイで集まったりして決めごとしたり。
ホウバイとは日本で唯一のこる、答志島の寝屋子制度の仲間のことだ。
寝屋子とは、中学校を卒業した男子が、夕食などを各家庭ですませ、寝屋親といわれる家に集まり集団で寝泊まりをする風習だ。
漁を覚えたりするために、昔から続く制度らしい。
お母さん:営業前でシャッターが閉まっていても、知り合いの漁師がきて「しーちゃん(おかあさん)、なんか食べるもんない?」ってきますよ
地元に愛されているお店には、たくさんのボトルキープがあった。
素材がよければ、シンプルでいい。
しかもキープされているお酒は、伊勢萬の「熟成焼酎光年」がほとんど。
そしてチューハイはほぼ、昔ながらの「缶チューハイ」。
どちらも、シンプルでスッキリとした味わいだ。
お父さん:鈴鹿の山に雪が積もると、答志の魚が旨くなる。
お父さんとあれこれ話をしていたときに聞いた名言だ。
答志島は伊勢湾の謂わば入口付近に位置する。
木曽三川や鈴鹿山脈の超軟水、また清流日本一の宮川など、山々に磨かれて栄養を豊富に含んだ水が海流に乗って答志島に辿り着く。
栄養を豊富に含んだ水はプランクトンを育てる。そこに小魚が育ち、そして大きな魚もとれる。
要約すると答志島は最良の漁場をもっている。
そして答志島といえばサワラが有名だ。
最良の漁場でたっぷりと豊富なエサを食べたサワラは、やはりひと味違うと聞く。
サワラ(鰆)は魚に春と書くが、答志島の鰆は秋(11月くらい)が旬。
まさに鈴鹿の山に雪が積もるころだ。
なるほど。
つまり、最良の漁場でとれた最高に旨い魚という素材。
そして、昔からそのような漁場をもつ答志島の方々は、それらの魚をどうやって食べれば旨いのかを知っているのだ。
カメラマン:素材がよければ、シンプルでいい(笑)。
そういって、笑いながらシンプルな缶チューハイの撮影を始めるカメラマン。
ひとつのテーブルをお父さんやお母さんと囲みながら、ギョギョっと驚く楽しい魚々談議はもりあがる。
医者ごろしのスープ
魚々話を聞きながら、シンプルな缶チューハイからシンプルな光年にお酒を変えたころ、お母さんがトコブシを持ってきてくれた。
お母さん:今では1年に15日くらいしか潜らんけど、わたしも海女です。
ギョギョっ!
わたしは今、現地で海女さんに会っていて、海女さんにトコブシをもらったのかぁ、と感動も一緒にトコブシを噛みしめた。
お父さん:今日ワシが釣ってきたアジ。
こちらも塩のみでシンプルだが、やはり旨い。
お母さん:医者ごろしのスープつくったるわ。
食べ終わったアジでスープをつくってくれた。
お父さん:医者も青なるくらい、これ飲んどったら病気にならへん(笑)
アジのダシが効きまくっていて、今でも思い出すとお腹が鳴るほど旨かった。
答志島バージョンの伊勢うどん
先ほど、答志島の魚について書いたが、海苔やワカメなどの海藻も豊富にとれる。
お母さん:めーぶ。答志の人はそういうなー。めかぶのこと。
実は今日のシメ、めかぶ伊勢うどんにしようとお店に来たときから決めていた。以前、ここで食べたときの味が忘れられなかったのだ。
やわらかい伊勢うどんに、粘りのあるメカブ。
ズルズルと音をたて食すと、鼻に抜ける海藻のいい香り。
うどん界のたまごかけごはん、といったところだろうか。
そんなことを考えていたら
お母さん:これにごはん入れたら美味しい。
と、残ったたれとごはんを混ぜて食べる、このお店で人気の食べ方を教えてくれた。
これがもう、絶品だった。
おなかもこころも一杯に満たし、お母さんと雑談。
なぜ東京からわざわざ答志島に遊びにくる人がいるのか、という話題に。
お母さん:時代がかわっていくなかで、なくなっていくもの。ここ答志島にはそれが残ってる。上っ面だけじゃなくて、本物が残っていると思う。
帰り際、カメラマンが宿でおなかが空いたら食べたいと、おにぎりをお願いした。
お母さん:梅干しはさー、つぶしてさー。こうした方が、おいしいんよ。
うまいものを食べたければ、現地の人に聞くといい。
写真、食、人も。
そして旅もそうだろうか・・・、
素材がよければ、シンプルでいい。
ロンク食堂
tel 0599-37-2167
三重県鳥羽市答志町288
答志島に関する過去記事
・voice. 離島、答志島。
・食べる離島答志島 Vol.1 島の食堂は、なつかしいお母ちゃんの味。
・食べる離島答志島 Vol.2 六地蔵というシュールな名前にじゎる。桃こまちというブランド牡蠣に唸る。
・voice. 廃校問題に答志島から革命を。立ち上がった島民。途絶してはならない循環の源は島の子どもたち。
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事