実家や親戚の家に、なぜかいた“木彫りのクマ”。
あのクマたちは一体なんだったのか。
そんな懐かしい存在を、「保護している」人がいる。
三重県南伊勢町で空き家バンクの仕事をしながら、気づけば40匹のクマに囲まれていた西川さん。
その理由と「決定打・ロッキー」の物語を聞いた。
「木彫りのクマ、保護してるんです」
東京・日本橋にある三重テラスで、久しぶりに西川さんに会った。
最近どうですかと、たわいもない雑談をして「ではまた」と別れ際に言われたもんだから、思わず引き止めてしまった。
福田「ちょ、待って、何ですかその話(笑)」
こうして聞くことになった、木彫りのクマと西川さん、そして“ロッキー”の物語。
クマが集まってくる
「集まってくるんですね、私のところに」
それで都度、持ち主のエピソードを聞いては、“保護”してきたのだという。
西川さんは、三重県南伊勢町で空き家バンクの事業をしている。
地域の人や家に向き合うなかで、なぜか“木彫りのクマ”も集まるようになってきた。
木彫りのクマは、かつて北海道土産として一世を風靡したらしい。
「でも私は北海道に行ったこともないし、木彫りのクマについて詳しいわけでもないの」
気づけば約40匹。
詳しい知識はなくても、不思議と愛情は増えていった。

群れになって一体感
福田「なんで愛情を持っちゃったんですか?」
「いや、もうね、運命でしょうね」
西川さんは少し考えてから続ける。
「もともと古いものとか、手作りのものが好きなんです。木彫りのクマも気になってはいたし、それぞれ顔も違うし、彫り方も色も違う。右向きに左向きに、一点一点違うんですよ。」
だんだんと集まってきたクマ、気付けば、群れになっていた。
福田「群れ……」
「そう。群れになるとね、一体感が出てくるんです。自分が保護したクマたちの一体感。コミュニティみたいな感じ。集合体になったときに…もう置物じゃなくなったんですよね」

決定打はロッキー
「ロッキーが決定打なの」
その日は空き家バンクの仕事で、北海道出身の80代のご夫婦が所有する南伊勢の空き家にお邪魔した。
空き家といっても、景色が綺麗な別荘のような立派な邸宅。
床の間には工芸品がずらり。その中に、とびきり大きなクマがいた。
大事にされてきたのが伝わる出立ちで、まったく“もの”には見えなかった。
「クマを保護してる身からすると、こんな大きいのは初めてみました!」とテンションが上がっていたところ、ご婦人からふいにかけられたひと言。
ご婦人「持ってく?」
「えっ、いやいや、こんな大事なもの…」と慌てたものの、結果的に譲り受けることに。
「あゝ、これは一生大事にするやつやなって。本当に子犬をもらったような感覚でした」
福田:「ロッキーという名前はいつ付いたのですか?」
「出会った瞬間です。その時から降りてきたんです。ご婦人にも『ロッキーにします』と伝えました」
そんなロッキーを抱えて帰ってきた西川さんを見て、仕事仲間は一斉に言った。
「うわ、また持って帰ってきた!」
しかも今回は特大サイズ。
「助手席に置いたら人間と判断されてシートベルトしないと、ピーコピーコ言うてくるんですよ。 ちゃんとシートベルトして帰りました。」

息子さんからの電話
ロッキーを連れて帰った数日後、ご夫婦の息子さんから役場に電話が入った。
息子さん「うちの親が、空き家バンクに登録したとか言ってるんですけど……」
心配する息子さんに、公的な制度だから大丈夫と説明したうえで、恐る恐るクマをいただいたことも話した。
「聞いてます。そんなの欲しい人いるんですね」と笑う息子さん。
絶対「返してください」って言われると思っていた西川さん。
慌てて「いや、あの、集めてるっていうか、保護してまして……」と説明すると、息子さんは大笑い。
息子さん「全然大丈夫です。もらってください」
ちなみに、ロッキーがくわえている鮭が、金色なのが気になるところ。

「ロッキーのお父さんのラッキーカラーは黄色で、いろんな物を黄色か金色で塗られていました。フクロウの木彫りとか色んな工芸品もあったんやけど、全部金に塗られとったから、多分いろんなものを金に塗る習性があるんでしょうね♩」
だからロッキーの鮭も……
「もうね、鮭というより鯉にしか見えへんの」
ロッキーと過ごす日々
「毎日のように触ってます。一緒にずっといてくれる存在なんですよ」
今ではオフィスの一番いい場所に鎮座しているロッキー。
「いつか廃校を使って“木彫りのクマフェア”をやりたいんです。どこで生息して、どこで捕獲されたか、マップにするの。気になるでしょ?」
そんなことを考えながらロッキーと一緒にお酒を飲んでいるそう。
「ロッキーが私に似てきたのか、私がロッキーに似てきたのか。『似てきましたね』って言われたのが最近うれしかったです」

「あとはこの間はね、ロッキーとお出かけしてきまして。 またシートベルトしてね。ロッキーを会わせたい人がいたんですよ。」
福田:「ちょっと待って、この話、つきないですよね(笑)」
木彫りのクマの会、やります
「公表してなかったんですよ。今まで全く。 それをちらっとラジオで話したら、えっ、あの人そんなことしとんの?ってなるわけですよ。」
親戚ですら知らない、西川さんの“木彫りのクマの保護活動”。
そういえば――、実家や親戚の家に、木彫りのクマ、いたな・・・。
思い返すと、なぜかどこの家にもいた気がする。
けれど、あれ一体なんだったんだろう。
右向き左向きなんて、考えたこともなかった。
そこそこでかいし、ずっしり重い。
玄関や床間のセットで記憶にある“あいつ”の存在感は、意外と強烈だったのかもしれない。
木彫りのクマについて、詳しくはわからない。
でも、西川さんのお話を聞いていると、だいぶと気になってくる。
──というわけで、今度「木彫りのクマの会」、やります。
【西川さんと語る「木彫りのクマ」のゆる夜会〜出会い編〜】
そんな「木彫りのクマを愛でる西川さん」とのゆる夜会。
専門的なお話ではなく、
西川さんの木彫りのクマ愛に触れていきます。
きっと、だいぶと気になってくること間違いなし。
木彫りのクマを懐かしみたい人、熱量ある人の話を聞くのが好きな人など、ビール片手に、ゆるく話しましょう。
お気軽にご参加ください。
イベント概要
日程:9月19日(金)
時間:19:00〜20:00
場所:首都圏営業拠点「三重テラス」 2階コミュニティスペース (東京都中央区日本橋室町2-4-1 YUITO ANNEX 2階)
参加費:無料
定員:20名まで
詳細はこちら:https://peatix.com/event/4546659

【西川さんが運営&出演する”みみ三重ラジオ”】
三重県の伊勢から熊野をみなさんといっしょに旅するように巡り、ゆく先々で出会う人や地域の声をお届けするポッドキャスト番組です。
こちらからお聴きください:https://mimimie-radio.studio.site/

福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身。元夫の都合で三重県へ移住し、現在は東京との二拠点生活。金融業界での経験を基に業務改善拠点を開設後、経営・事業戦略におけるPR視座を体系化。「さかさま不動産」など、新たな概念を社会に浸透させる事業を得意とし、その過程で得た生々しい成功・失敗事例を通じて社会構造を整理。認識・行動変容を狙う戦術や共創を軸に、多様な組織やプロジェクトに伴走・加速させている。日本PR協会「PRアワードグランプリ2023」最高賞受賞。仕事好きが集まる場「ニカイ」という拠点も運営している。この記者が登場する記事



