とある、まちづくり系のフィールドワークで、志摩市の漁村「波切」を訪れたときだった。
昭和レトロな雰囲気を醸す、大王崎灯台へと続く土産物街の小路。
買ってね!ほしがってね!という独特な言い回し。
いつから置いてあるのだろうと想像してしまう土産物たち。
灯台から望む海は、視界に収まりきらない絶景だ。
絵描きのまちとして、昭和の時代から画学生などが通うまち。
かつて「波切の石工」と呼ばれた人たちが暮らし、作り上げたまち並み。
美しい石積み、海や海女さんが絵になるまち。
海のよこでは魚が天日干しされている。
フィールドワークの途中、四日市から参加した若者の男性としばらく眺めた。
かわいい、きれい、おもしろい。
そんな言葉を彼から聞いた。私は彼の話にうなづきながら「丁寧に扱ってもらってよかった」と話した。
キレイに並べられた魚たちを眺めていると、ひとつの作品のように思えてくる。
乱雑に扱われたものと、丁寧に扱われたものでは存在感が違う気がする。
そんなすてきなまち「波切」でも、空き家や空き店舗が増えている。
波切には地元の住民が主体となり、まちづくりを行う一社「じゃまテラス」がある。

代表を務めるのは、まるいひもの店を営む坂中信介さん。
まるい干物店のおもしろいところは、買った干物をその場で自分で焼いて食べられること。
ビールや日本酒を片手に海を眺めながら食す絶品の干物。
干物をいただくとき、これ以上に最高のシチュエーションはないと思う。
じゃまテラスは空き店舗や空き家を、カフェやチャレンジキッチンなどに自らリノベーションして店舗化するなど、時代に合ったまちづくりを行っている。(詳細はこちら)
坂中さん:キケン、キタナイではまちに人がきてくれません。
まずはまちをキレイにしようと自主的に草刈りを始めたことがきっかけで、じゃまテラスは組織化して展開している。
確かにまわりを見渡せばまち自体は古いが、丁寧に使い込まれた風情がある。
そしてそこには、キレイに並べられた鰯の干物がある。
坂中さん:小さなギャラリーも作ったので、よかったら観ていってくださいね。
干物屋の奥にある一角のスペースには数枚の絵が飾られている。
青い線が並んだ油絵。
これは、もしや・・

坂中さん:干物にするために並べた魚です。
驚いたのは、作者は干物屋を営む坂中さん本人で、美術の教員の経験もあるとのこと。
坂中さん:干物づくりって、アートだなと思う時があります。ここは油絵の絵描きのまち。天日干しをするとき、脂分を計算しながら皮がはがれないように身を返したり。なんだか通じるものがある気がするんです。
また、海を泳ぐ魚のかたちは飛行機に似ていることなど、こういう必然性も美しいという。
絵描きのまちの干物屋として生まれ育ち、美術を学んだ坂中さんは他にも好きな風景があるという。
坂中さん:色の絵具で汚れたカラフルなツナギを着た画学生が、大きなキャンパスを持って歩いている。その横を使い込まれた黒いウェットスーツを着た、老人の海女さんがすれ違う。背景にはきれいな海と空。なんかいいなと思えてくる風景なんです。
ワタクシゴトだが10年くらい前から、日本の海の原風景が残る漁村が好きになった。そこでキレイに並べられた鰯たち、それを美しいと感じて描く人と出会った。
やっぱり干物は芸術ではないか。
と、フィールドワークで感じたことを確信した。
丁寧に扱ったものやこと、まちのなかには、人を惹きつける輝きがあると思ったのでした。
otonamie terrace
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まるいひもの店
志摩市大王町波切158
HP https://www.marui-oshiki.net/
IG https://www.instagram.com/daiouzaki_maruihimono/

村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事