私は仕事で移住を検討している方々を連れて、県内各地に案内している。
という、変な業務を担当している。
今回訪れるのは、伊勢志摩地域。
ツアーのコースを検討していて、宿泊する志摩市波切の宿の知人に電話で聞いてみた。
知人:波切にカフェができたんです。じゃまテラスさんの。
私:え、やまテラス?
知人:やまじゃなくて、じゃまです。じゃまテラスさん。
じゃまテラスさん・・。
変わった名前だ。
波切といえば、観光地である大王崎灯台が有名。
絵描きの町として、昔から絵を学ぶ学生や画家などが集まる。
古くからカツオの産地である港町であり、昔ながらの製法で燻すカツオ節の店もある。
また海賊大名・九鬼嘉隆が一時、お城を築いた地。
歴史有る港町の石積みは土木学会から選奨土木遺産にも選ばれ、風情ある景観も残る。
風情といえば、海に面した土産物屋の軒先に干してある干物も風物詩だろうか。
一時は観光地として栄え、土産物屋や真珠屋などが軒を連ねていた。
しかしシャッターを下ろす店は増え続けている。
少子高齢化、人口減少が目に見えて進んでいる地域だ。
そんな現状にアクションを起こしているのが、一般社団法人じゃまテラス。
メンバーの城山さんは清掃業を営みながら、灯台の麓にある元真珠屋をリノベーションし、2022年にSTOP BY JOEというカフェを作った。
2階席からは漁港を眺める風光明媚な景色。
地元で水揚げされたカツオを使ったハンバーガーやミートスパ、伊勢地鶏のバターチキンカレー、こだわりのコーヒーやスイーツなどが楽しめる。
この他にも城山さんは大王崎星空映画祭などイベントも開催した。
今回はじゃまテラスのメンバーである3名に波切を案内してもらった。
代表の坂中さんは地元で魚の加工や土産物屋を営む。
同行いただいた松井さんも地元で建設業を営みながら市議会議員も務めている。
城山さんも波切の出身と、皆さん地元で生まれ育ったそうだ。
あなたも、ほしがってね!
じゃまテラスは2018年に、大王崎周辺地区活性化協議会のなかの「じゃまテラス部会」として発足し、様々な地域活動を行い、2021年に「一般社団法人じゃまテラス」になった。
発足当時から今も続けているのは、草刈りなどの清掃活動。
まずは町を自分達できれいにしようと集まるとともに住民とのコミュニケーションも図っている。次は高齢化で買い物難民が多かったことから買い物支援を行い、地元の方々も出店するマルシェも定期的に開催し、地元の方が育てた野菜なども販売している。
マルシェは9:00スタートなのに8:30には多くの地元の方々が駆け付け、8:50には一部のブースは売り切れてしまうという盛況ぶり。
坂中さん:みんなせっかちなんです(笑)。最初は『波切にこんなにも人がおったんや』と驚きました。皆さん町内放送を聴いて来るんですよ。
大王崎灯台の麓にある商店の一角には閉店した店をリノベーションしたスペースがある。
波切の歴史や文化がわかる資料やカプセルトイが並び、中身は真珠や貝など地元の土産品が入っている。
旅の記念に、また子どもでも楽しく波切のことがわかる仕掛けになっている。
灯台へ続く細い路地には小さな土産物屋が並んでいる。
昭和レトロな雰囲気を醸していて、いい感じた。
ほしがってね・・・。
独特な言い回しのすてきな誘い文句。
こちらもシャッター街化しており、数軒繋がった空き家を城山さんは購入した。
城山さん:自分で解体とリノベーションをして、モールを作るんです。
モールとは何のことだろう。
城山さん:ショッピングモールですよ。イオン・・、みたいな。
松井さん:いや、そこはジャスコやな(笑)
皆さん、こんな調子の会話が続いていて楽しい。
モールにこだわるには訳があるという。
坂中さん:波切は店舗兼住宅の空き家が多いんです。だから店をしながら暮らすことができ、家賃も安いです。
最近、過疎地でカフェや本屋を開く人も増えた。
すでに観光地である波切で、新しい店を開く人も増えそうだ。
灯台に到着すると、横にあるテラスに案内いただいた。
このスペースもじゃまテラスが作ったそうだ。
視界には180度、いやそれ以上に感じる大パノラマの海。
波切では海から太陽が昇り、海に夕陽が沈む。
城山さん:ここでBBQをしながら夕陽を眺めたり、ポップアップ的に料理人をお呼びして、みんなで食事をするのも楽しそうだと思っているんです。
坂中さん:仕事終わりに海を眺めながら珈琲を飲む。私にとって最高の時間です。
私:ところで、じゃまテラスの「じゃま」って何ですか?
坂中さん:波切に城山(じょうやま)という地区があって、地元の漁師が「じょうやま」「じょやま」「じゃま」といつしか呼ぶようになりました。「じゃま」を明るく照らす。だから「じゃまテラス」です。じゃま者ではないんですよ(笑)。
ものがたりのはじめかた
今回案内してもらう道中、散歩をしている人が多いのが印象的だった。
そこで人と人が出会うと、必ず会話が生まれていた。
そんな海沿いのまちに流れる、ゆったりとした時間。
昔から観光地ということもあり、地元の方も開放的な方が多いという。
そして最近、移住者も増えているそうだ。
言葉にはしないが、皆さん地元のことが好きなんだと感じる。
じゃまテラスの活動からは、その郷土愛がこぼれるほど溢れている。
地元を自分たちで盛り上げていくのはどんな感覚なのだろう。
坂中さん:壮大な文化祭のような感じなんです。
好きだからこそ誰に指示されるのではなく、自主的に地域をつくる。
そしてそのこと自体を楽しむ。
これこそ地域を愛するという行為そのものだと思う。
今日も明日も、モールを完成させるための解体作業とリノベーションは続いていく。
オープンしたら私も、波切のジャスコに遊びにいこう。
住民自らが楽しそうに取り組む「これから始まる波切の物語」を見続けていたいと思う。
STOP BY JOE
志摩市大王町波切178
https://www.instagram.com/cafe_stop_by_joe/
(一社)じゃまテラス
https://www.jamaterrace.com/
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事