子育てが一段落し、自分の時間が取れるようになったらーー。
定年退職後のセカンドライフはーー。
遠くない未来、特技を活かした新たな挑戦をしてみたいと思い描いている人も多いと思います。
今回紹介するのは、2024年3月中旬から、様々なご縁によりホテルのカフェ運営を任された女性のおはなしです。
夢と地域貢献のミックスは、どんなシナジーを生み出すでしょうか。
シフォンケーキとの出会い
三重県多気郡大台町天ヶ瀬出身の廣田奈美子さん。天ヶ瀬の廣田さんと聞いてピンとくるあなた、大台町に詳しいですね?
OTONAMIEでも、記者のゆるやまさんにより2021年に紹介された、「ウッドクラフト廣田」の廣田利夫さんが、奈美子さんのお父様です。
子どもが生まれ、手作りのおやつを食べさせたいとお菓子作りにのめり込んだ奈美子さん。お子さんが小学校に上がり、パン作り教室に通い始めました。
その教室で初めて食べたのが、シフォンケーキだったのです。
フランス語で「絹」を表す「シフォン」と名付けられたケーキは、口の中でふんわりと溶ける軽い食感と、ドーナツ状の円錐の型で焼くことが特徴です。
型の真ん中に開いた筒状の穴から、熱気が中心部まで行き渡ることで均一に熱を通すことができます。
また、生地に練りこむメレンゲ状の卵白が、その軽さを生み出すため、使用する卵が要ということですね。
試行錯誤の日々
ー奈美子さん「多気郡や松阪市には、いくつもの養鶏場があります。卵の大きさから白身の量まで、それぞれに特徴があって違います。シフォンケーキに合う卵を選ぶために全て試しました。
『餃子の王将』の昔のCMのように、卵一日何百個というレベルで、シフォンケーキの試作に没頭しました」
お父様のファンでもある筆者は、一流の職人である廣田さんが奈美子さんと重なりました。
奈美子さんの祖父にあたる先代から技術を継承し大工となり、引退後は木工職人に。生活に寄り添う、使いやすくも美しい作品を計算し尽くして創出する父のDNAを、シフォンケーキから感じずにはいられません。
奥伊勢フォレストピアでの挑戦
子育てを卒業し、介護の仕事も退職したタイミングで、夢だったカフェ経営を大台町のホテル「奥伊勢フォレストピア」とのご縁から2024年春にスタートさせました。
カフェの場所は、コロナ禍で使われなくなったホテルロビーすぐの「ラウンジ ムーラン」です。
事前準備として、奥伊勢フォレストピア横の「森の国工房」で、2023年秋から保健所の菓子製造業許可取得に向けて取り組まれ、2024年4月に本契約がスタートしたそうです。
どんなご縁があったのか詳しく伺っていると、奥伊勢フォレストピア取締役の寺添幸男さんが来てくれました。
カフェスタートの経緯
当時、役場職員だった寺添さん。過去にはインターハイにも出場したというバレーボールの強化選手でした。
「地元に務めるためかバレーのためかどっちか分からん」と寺添さんがUターンした理由を笑いながら話します。
ママさんバレーとスポーツ少年団のコーチ、監督として、当時の宮川村のバレーボール界を支えた寺添さん。選手の家族とは、スキーに行ったこともあるそうです。
ー寺添さん「廣田姉妹はバレーはうまかったけどスキーはだめやったな」
ー奈美子さん「ウエアから板まで道具を全部そろえたけど上達できず帰ってきた」
ー奈美子さん「青春させてもらった」
ー寺添さん「ほんまに青春やったかもしれんな」
大台町の拠点である奥伊勢フォレストピアが町に住む人の起業を応援する取り組みとして、使われていなかったラウンジを貸し出す企画。
その一人目として、カフェ営業に向けて奈美子さんの背中を押し導いてくれたのが寺添さんでした。
昔話をする二人、夢を実現した奈美子さんをやさしく見つめる元コーチ兼監督の姿に、胸が熱くなりました。
カフェで提供するスイーツ
失敗もたくさんしたけれど、納得のいくシフォンケーキが作れるようになったという奈美子さんの一押しは、オレンジ味です。
ー奈美子さん「子どもが小さかった頃はプレーンが一番好きだったんですが、大人になってからはシフォンケーキのオレンジがおいしいと言ってくれます」
口に含むと広がるオレンジの香り、つぶつぶのオレンジピールの食感とほろ苦さは大人の味。コーヒーと和紅茶によく合います。
シフォンケーキには、プレーン味とオレンジ味がレギュラーで登場し、日替わりの味も加わります。
この日は、大台町でオーガニックのお茶を生産している「やまりん製茶」の緑茶パウダーを使用した緑茶味。お茶の香りに包まれ、やさしい甘さに癒されます。
日替わりのシフォンケーキは、今後も新しい味にチャレンジしていきたいと奈美子さん。
スイーツはシフォンケーキのほかに、プリンがあります。ちょうどいい柔らかさで、昔懐かしいレトロなプリン。
プリンに使う牛乳もいろいろ試して、「大内山牛乳が一番おいしい」と決めたそうです。
今後の目標とさらなる挑戦
きっかけは子どものためだったシフォンケーキ。
安心して食べられるスイーツを提供することで、生まれ育った大台町がさらに活気づくための一つのコンテンツになれば。
夢の実現と地域貢献の思いを、最後にこんな風に語ってくれました。
ー奈美子さん「地域の方にもおしゃべりの場として気軽に使ってほしいですが、奥伊勢フォレストピアのスタッフが『全国から遊びに来てもらえる魅力あるホテルにしたい』と掲げる目標を一緒に背負い頑張りたい」
旧宮川村地域の観光拠点である唯一のホテルの中でカフェをオープン。手作りにこだわった愛のあふれるおいしいスイーツはたくさんの人を笑顔にし、観光客のリピーター=関係人口の増加にもつながっていきそうですね。
奥伊勢フォレストピア ラウンジ ムーラン
住所 三重県多気郡大台町薗993
営業日 金曜・土曜・日曜
営業時間 11:00~17:00
キャスターマミ。OTONAMIE記者。松阪市出身。生まれ育った三重が大好きで、三重を盛り上げたくて地元タレントに。テレビ・ラジオ出演、祭りやイベント、ブライダルMCとして活躍中。この記者が登場する記事