すれ違いというドラマがあったあの頃
創業40年を越える老舗喫茶店。
そのレジ横に、
いまだ佇む公衆電話。
そういえば携帯電話がなかった時代、
待ち合わせといえば喫茶店だった。
マスター:当時はお客さんから店によく電話がかかってきたよ。「○○さん来ていますか?」とか「△△さん呼んでもらえますか?」ってね。店内に聞こえるように名前を呼び、取り次ぐこともあったよ。その後、ポケベルが流行った時代には、この電話もよく使われていたね。
すれ違いというドラマがあったあの頃に思い馳せる。
ここは桑名駅直結のビル、
『心ふれあう 桑栄メイト』内の、
喫茶ルール。
ゆっくりとモーニングを頂ける喫茶店だ。
いや、ゆっくりどころか、
まるで時が止まったかのような昭和がここに在る。
常連さんにとって、
ルールでの珈琲はもう日課で、
お気に入りの席も大概決まっている。
カウンター越しに語らう
マスターとお客さん。
確実に心が触れ合っている。
駅直結という場所柄、
ここで朝食を食べてから、さぁ通勤!
という方も多いだろう。
マスター:そうだねぇ。モーニングを朝ごはんにしている人も多いかもしれないねぇ。
一瞬、ん?と思ったけれど、
ゆったりにこやかなマスターにつられ、
思わず笑顔を返した。
初めて見た、モーニング2人盛り
40年以上このビルで営業をされている喫茶ルール。
今朝は私も友人と待ち合わせ。
昭和に浸る間もなく、
「あと5分で着くよ」と友人からLINEが届く。
これが現代。なんだかんだで超便利。
「昔からこのやり方でね」と、
珈琲を鍋で淹れるマスター。
朝は全ての飲み物に、
トーストと卵が付いてくる。
合流した友人は、
クリームたっぷりのココアを。
私は紅茶。
その後出てきたモーニング2人盛り。
やばい、モーニング2人盛りは初めて見たぞ。
慌ててお互い、ドリンクのソーサーをパン皿にした。
喫茶ルールには特別なルールがあるのか
スローな時間が流れる喫茶ルールの朝。
それにしても店名に掲げるほど、
この喫茶店には特別なルールがあるのだろうか。
マスター:なんもないよ(笑)
聞けば、
店名を「エール」にしようと開店準備していたところ、
このビル内に同名の薬局がある事が発覚し、
急遽、書体をいじり「ルール」に変えたのだとか。
そして時は流れ、
あっという間に40数年。
喫茶ルールより、
ちょっぴり年下の私たちは、
ポケベル・PHS・ガラケーと、
一通り使いこなした世代でもある。
ポケベル打つのに公衆電話に並んだり、
電波が悪くてガラケー振ったり、
ストラップをじゃらじゃら付けたり、
光るアンテナに取り替えたり、
電池パックに好きな人とのプリクラを貼るブームもあった。
でもそういった便利な通信機器を持たなかった頃は、
電話は家でじっと待ち、
待ち合せ場所からは動かず、
駅の伝言掲示板もよく使ったものだ。
そんな古き良き青春トークから、
気になってきたのが、
桑名で重宝されたであろう待ち合わせのメッカ。
そういう場所ってあるのかな。
時代を越えて…
地元の方に案内いただいた待ち合わせのメッカ。
それは伊勢国東の玄関口であった七里の渡し跡から、
四日市へ続く旧東海道沿いに鎮座する春日神社前にある「志るべ石」
志るべ石の右側面には「たづぬるかた」、
左側面には「おしゆるかた」と刻まれている。
かつて東海道を行き交う旅人たちの間で、
迷子や行方不明者を探す伝言板として使われており、
「たづぬるかた」には探し人の特徴や服装などを書いた紙を貼り、
「おしゆるかた」には心当たりある人が目撃情報を貼る、
というように使われていた石なのだそう。
うーん、情緒を感じる…。
感じるけれど、時代めちゃ飛んだな!
桑栄メイトの閉鎖。喫茶ルールの選択
喫茶ルールが入っているビル「桑栄メイト」
現在、東西自由通路と新駅舎の建設が進んでおり、昭和から47年間愛され続けたこの愛すべきビルも今年7月末に営業を終え、8月末には完全に閉鎖。早ければ今秋から解体工事に入ることになっている。
入居している店舗は、移転や閉店など、各々の決意の上動き出している。
そんな中、喫茶ルールは2020年5月4日に閉店。
2020年7月上旬。店舗の片付けにみえたマスターにお話を伺った。
マスター:コロナで勤労意欲がなくなってね。ちょっと早まったかなとも思ったけど、今は庭の土いじりや草むしりが結構楽しいよ。
43年間この桑栄メイトで喫茶店を営んだマスターは現在73歳。もともとは名古屋のエスカでも喫茶店をやっていたが、いつしかこちらが中心となったそう。
――マスターにとって桑栄メイトはどういう場所でしたか。
マスター:よかったね。恵まれたよ人に。可愛がってもらった。お店同士のコミュニケーションもあった。みんな上下関係もないし、年齢的にも近かったしね。続けられて楽しかったです。こういう終わりになってしまったけれど、きっと神様がもうそろそろやめなって言ってくれたんだろうな。もうゆっくりします。
桑栄メイトを去るマスター。
見掛けた一力亭さんが駆け寄り、握手を交わす。
「40年以上の付き合いだものね。お元気で。お互いに」
マスターお疲れ様でした。
喫茶ルール
住所:三重県桑名市桑栄町2 桑栄メイト
電話:0594-23-1602
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事