■榊原温泉という場所に立って
今回うかがったのは、津市榊原町にある湯元榊原舘です。
榊原温泉の中心に位置し、1919年に温泉施設として創業、2019年には創業100周年を迎えています。
館内に足を踏み入れると、静かな空気の中に温泉宿としての佇まいがありました。
この日はひな祭りに向けた準備が進んでおり、雛飾りや季節のしつらえが随所に並び、館内全体が華やかに彩られていました。

湯元として「源泉かけ流し」を掲げている宿であり、温泉を中心に据えた造りになっています。
館内でいただいた温泉水はやわらかく、飲みやすい味でした。
今回は前田社長が時間をつくってくださり、これまでの歩みや現在の取り組みについてお話をうかがいました。
旅館業を続けていく現実と向き合いながら、三重県に人を呼び込んでいきたいという方向性が、言葉の端々に表れていました。
■旅館の外側にある取り組み
前田社長との会話では、旅館の運営に加えて、土地や農に関わる取り組みが紹介されました。
榊原舘は旅館の敷地とは別に農地を有しており、草刈りなどの管理を行っているとのことです。
面積の大きい場所については、地元の方に手伝っていただき、耕作が続けられています。
作物は主に米で、食用米と酒米を育てています。酒米は、純米吟醸酒「榊の雫」というオリジナル商品につながっています。
また、榊の栽培にも取り組んでいます。国産榊の流通が少ない中で、「神事に使うなら国産の榊を」という考えから挑戦しているとのことでした。榊が地名の由来にもなっている土地で榊を育てる取り組みは、榊原という場所ならではの試みだと感じました。
■人が訪れる榊原へ
三重に人を呼び込むための軸の一つは観光であり、そのためにはまず榊原温泉の存在を知ってもらうことが欠かせません。
温泉は大きな魅力である一方で、「入らないと伝わらない」という部分もあります。
実際に足を運んでもらえれば良さは伝わる。その最初のきっかけをどうつくるか。
榊原のお湯そのものの良さを、もっと前に出していきたい――そんな言葉が印象に残っています。
榊原温泉の泉質の良さはこれまでも評価されてきたものであり、地域の中核となる資源です。
そして、さらにそのうえで温泉に加えた“もう一歩”をどうつくるか。
特産品やコンテンツなど、訪れる理由になる入口を増やしていく必要があります。
宿泊だけで完結するのではなく、日帰りでも立ち寄れる場所としての役割を強めていくこと。
温泉街の中を人が歩く流れをつくっていくこと。
長い時間の中で守られてきた宿と温泉を、これから先につないでいこうという前田社長の想いに触れさせていただきました。
■ここでつながった時間
今回うかがったのは、直接農業や農地のお話を聞くためだけではありません。
榊原という土地で長い歴史を重ねながら宿を営まれている中で、地域のこれからについてどのように向き合ってみえるのか、その考えを直接聞かせていただきたいと思ったことがきっかけでした。
そして、こうした機会をいただけたのも、ご縁をつないでくださった方のおかげです。
榊原温泉は、津市にとっても三重県にとっても、観光の中心となる場所の一つです。
その場所にある湯元榊原舘が、これから先の地域のあり方を見据えて動いていることを、直接うかがうことができました。
私たち農地LINKの取り組みは小さな一歩かもしれません。
それでも、人と人との縁をつなぎながら、それぞれの立場から同じ方向を見ていることを知る機会になりました。
三重県に人が訪れ、津市に人の流れが生まれ、次の世代、その先の世代が安心して暮らしていける地域であること。
その未来に向けた動きは、それぞれの場所で続いています。
この訪問は、その一つの現場に立たせてもらった時間でした。
お話をうかがう機会をいただいた前田社長に、心より感謝申し上げます。
農地を中心に、「農地を持つ人」「農業をしたい人」「地域産業」「消費者」「行政」など、すべての関係者が連携し、地域の未来を耕したい。そんな思いで発信していきます。







