無農薬の田んぼで育つ、おいしさと安心
三重県津市の郊外で、くぼちゃんファームは夫婦二人三脚で米づくりを行っている。パートナーの実家で代々受け継がれてきた田んぼを守り、「おいしい」「また食べたい」と言ってもらえるお米を目指し、できる限り農薬を使わない手間ひまかけた栽培を続けている。
除草や水管理など、日々田んぼに足を運び、作物と向き合う姿勢は、ただの農作業ではない。「食べる人の顔を思い浮かべながら作っている」と語る久保さんの田んぼには、優しさと誇りがあふれている。
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子どもたちの学びを、田んぼから
そんな久保さんが始めたのが「田んぼの楽好(がっこう)」。
種まきから収穫まで、田んぼを舞台にした“農の学び舎”だ。農作業を通して、自然のリズムや命の大切さ、働くことの喜びを感じられる場として、さまざまな状況にある子どもたちや多様な学びや体験を求める家庭から注目を集めている。
「子どもたちが自分のペースで関われる場所にしたい」
そう語る久保さん自身、元は学校の先生。
現在は「子どもの多様な学びを育む会 in 三重」の代表も務め、県内各地のフリースクールや子ども食堂、不登校親の会など、30以上の団体をつなぐ活動も行っている。
子どもの多様な学びを育む会Instagram 子どもの多様な学びを育む会in三重
教育の“外”から見えたこと
「公立の学校だけでは対応しきれない」
そう感じたのは、久保さんが教職を離れ、現場を外から見るようになってから。学びの多様性が叫ばれる中、既存の教育システムでは支えきれない子どもたちが増えている。
「不登校の子どもが増えている中、その多くがどこにもつながれていない現状がある。だからこそ、民間と行政、地域が連携して子どもを真ん中に据えた支援が必要なんです」
その想いは、新たに創設された夜間中学「みえ四葉ケ咲中学校」での教職活動にもつながっている。
農と教育。二つの“現場”をつなぐ
久保さんは今、農業と教育という異なる現場を、子どもたちの成長という一点で結びつけている。
「田んぼの楽好に来る子たちの中には学校に行かない選択をしている子たちもいます。「田んぼにはいつ来てもいいよ」、「田植えまでなら、自由に泥んこになって遊んでいいよ」と伝えると、自然と遊び、学び始める。そこから関係が始まるんです」
「勉強は家でもできる時代。けれど、人との関わりや自然との対話は、やっぱり“現場”でしか得られない」
その言葉が象徴するように、くぼちゃんファームの田んぼは、ただ米を育てる場所ではなく、子どもたちの居場所としても機能している。
小規模農家の“現実”と“課題”
一方で、小規模農家としての課題も大きい。
「お米作りをやるには設備投資も必要。無農薬でお米作りをすると、除草だけでも人手も時間もかかる。機械が壊れても、買い替える資金がない」
行政の支援は主に大規模農家向けで、個人や小規模の農家は後回しにされがちだ。くぼちゃんファームもまた、そうした現場の声を抱えている。
「何のために米を作っているのか、分からなくなってしまう時もある。でも、食べてくれる人の“おいしい”の一言が励みになる」
だからこそ、小さくても続けたい。続けられる環境を作りたい。
自然と人、農と学びを“つなぐ”場所へ
くぼちゃんファームの取り組みは、農と教育、地域と人、食と命──様々なものを“つなぐ”実践の場となっている。
「休むことも、立ち止まることも大事。それを子どもたちに伝えるには、大人自身がそういう価値観で生きていないといけない」
久保さんの言葉には、人生そのものを見つめ直すような力がある。
農地LINKとしての関わり
くぼちゃんファームさんのように、農と教育、地域とのつながりを日々かたちにしている方々に出会うたびに、私自身もこの「農地LINK」という取り組みの意義を再確認しています。土地を通じて人と人を結び、思いをつなぎ、未来へとバトンを渡すお手伝いができればと、心から願っています。これからも、こうした現場の声に耳を傾け、寄り添い、共に歩んでいける存在でありたいと感じています。
農地を中心に、「農地を持つ人」「農業をしたい人」「地域産業」「消費者」「行政」など、すべての関係者が連携し、地域の未来を耕したい。そんな思いで発信していきます。








