自分の手で土を触る。その一歩から始まるつながり。
三重県津市の郊外、分部ののどかな畑に、静かにたたずむ体験農園がある。
そこは、「ちっちや畑」と名づけられた、小さな体験農園。
「ちっちゃいけど、思いは大きいんです」
そう語るのは、農園主の東尾さん。
農薬や化学肥料に頼らず、虫も手で取り、土と丁寧に向き合いながら育てる野菜たち。
その野菜とふれあい、育てる喜びを体験できる畑には、今も「やってみたい」と思う人たちが、少しずつ集まっている。
今回の対談では、そんな「ちっちや畑」や、耕作放棄地を活かした新たな取り組み「チーム長谷山」について、
農園主の東尾さんと、農業に関わる人々の横のつながりを支えようとしている記者の私自身が、現地を訪れ話を伺った。
興味もなかった畑が、人生の真ん中にきた日
「6年前までは、正直、農業なんて全く興味なかったんです」
東尾さんが最初に語ったのは、少し意外な言葉だった。
義父が体調を崩し、荒れ始めた畑を「なんとかしなくちゃ」と手をつけたのが、すべての始まり。
はじめは戸惑いながらも、やってみたら意外と楽しく、気がつけば農業塾に通い、
周囲の「やってみたい」に応えるうちに、体験農園「ちっちや畑の愉快な仲間たち」が自然と生まれていた。
「一人じゃ不安。でも、誰かとなら畑に出てみたい」
そんな人たちと一緒に、一歩を踏み出す場所になった。
教えるのではなく、一緒に育てる体験を
「ちっちや畑」の体験農園は、“貸す”だけじゃない。
参加者一人ひとりに2畝(うね)の区画を用意し、土づくりから収穫まで、東尾さんが一緒に作業するスタイル。
農薬は使わず、米ぬかや堆肥で土の力を活かす、自然本来の循環に寄り添う農。
「マンツーマンで、一緒に畑に入って、育てて、食べて。
その過程全部が、“体験”なんです」
現在は1シーズンにつき1組のみ受け入れ。
マルシェや口コミで少しずつ参加希望が増えている。
畑は、学びの場所であり、癒しの場所でもある
ちっちや畑には、こんな人たちが訪れる。
– 子どもに本物の野菜を体験させたい親
– 手を動かし、自然にふれて癒されたい人
– 「一人じゃ心配だけど、誰かとならやってみたい」人
「風が気持ちいいとか、土にふれるだけで心が落ち着くっていう人も多いんです」
農業というより、“畑と過ごす時間”が、日々の暮らしに温かさをもたらしているようだった。
耕作放棄地にショウガを──「チーム長谷山」の挑戦
そして今、東尾さんがもう一つ力を入れているのが、「チーム長谷山」。
「草やごみで覆われていく畑を見て、何とかしたくなった」
思いを周囲に語ったところ、共感の輪が広がり、現在は7人のメンバーとともに耕作放棄地を活用してショウガの栽培に挑戦中だ。
土地は買うのではなく、借りる形。
「使ってくれるなら…」と地域の人々が声をかけてくれることも増えてきたという。
地域の農業と人を、どう未来につなぐか
対談の中では、農地の相続や継承、地域農業の未来についても語られ、聞き手である私にとっても、多くの気づきがあった。
「農地を手放したい人、始めたい人、教えたい人…
それぞれの想いがつながらず、分断されてしまっている」
だからこそ、“リンク”させる場をつくりたい。
行政や企業、金融機関、そして学校とも連携し、「農」がもっと身近になる仕組みを目指している。
コミュニティとしての畑。雑談が“畑の余白”になる
「ちっちや畑」でも、「おしゃべりの時間」がとても大切だという東尾さん。
畑での作業の合間にお茶を飲んだり、食べ物を持ち寄ったり。
そんな“余白”の時間が、参加者にとっても楽しみになっている。
「男性の参加ももっと増えるとうれしいですね」
畑という場が、年齢や性別を超えて“つながるきっかけ”になっている。
10年後も、畑がつながっていくために
「今は“種まき”の段階だと思っています」
そう語る東尾さんと私。
20年後、自分が引退するとき、次の世代に渡せる“農”があれば──
そうした未来のために、日々の畑での活動を積み重ねている。
「畑はちっちゃい。でも、想いはでっかいです」
この土地から始まる、未来への“つながり”が、今日もまた芽を出し始めている。
農地LINKとしての関わり
農業を始めたい人、やめたい人、教えたい人をつなぐ「農地LINK」は、
ちっちや畑やチーム長谷山のような取り組みを支えるプラットフォームとして、
地域に根ざした農業の循環と継承を応援していきます。
農地を中心に、「農地を持つ人」「農業をしたい人」「地域産業」「消費者」「行政」など、すべての関係者が連携し、地域の未来を耕したい。そんな思いで発信していきます。









