リヤカーに商品を乗せて売り歩く、「行商」と呼ばれる移動販売でモノを手に入れるのが一般的だった昭和の時代。
JRの本数は今の何倍も多くあり、大内山駅に車両が到着すると、停まっているその数分のうちに、席に座る乗客に向けて窓の外から大内山牛乳を販売していました。
ここは、大内山牛乳の里、三重県度会郡大紀町。
とらや製菓の店舗は、JR大内山駅前にありました。70年前に牛乳配達から始まり、お店も何もない田舎だからと、地域貢献のために店舗を構えたといいます。
和菓子屋さんでありながら、大内山牛乳や大内山バターなど大内山酪農の商品をはじめ、子どもたちのための駄菓子、食品、生活用品などを扱っていました。
2代目店主は、名古屋に修行へ。生クリームの美味しさに感動して洋菓子を作り始めました。
ケーキにシュークリームにクレープ。地元に愛されたとらや製菓ですが、今から十数年前、人口減少に伴い店舗をなくして、常連だったお客様からの受注販売のみで営業するようになりました。
かつて、大紀町の国道42号沿いにはたくさんのカフェがあり、今も名残をとどめています。
2009年に紀勢自動車道「大宮大台IC」から「紀勢大内山IC」が、2013年には「紀勢大内山IC」から「紀伊長島」が開通しました。一般道路を通る車は少なくり、また、町の高齢化も進み、カフェの数は徐々に減っていきました。
2022年7月、とらや製菓がカフェになってよみがえりました。
「店を閉めてからは外に働きに行くようになりましたが、今でも地元の方からの誕生日ケーキの注文などをいただきます。そんな時は夫が余分に作ってくれるので、『今日はケーキもあるんですよ』とカフェのお客様に提供しています。団体のお客様の予約が入ったと話すと、ケーキを作ってくれることもあるんです」
昔からカフェがやりたかった、そして廃れてしまった大紀町のカフェを復活させたいという夢を叶えたのが、とらや製菓の店主パティシエを支えてきた妻・薗部眞理子さんです。
場所は、昭和から営業し、7年前に閉店したという大内山の国道沿いの喫茶店。
閉めてからもオーナーの娘さんが綺麗に管理していたそう。薗部さんの声に、「使ったらいいよ」と気楽に貸してもらえたことが、とらや製菓のカフェのはじまりでした。
夫であるパティシエからスイーツ作りについて徹底的に学び、コーヒーを習いに行き、オープンに向けた準備を念入りに。
カフェの名前とロゴデザインは「とらや製菓を土台に」という薗部さんからのリクエストに応じ、娘さんが決めました。
カフェらしくオシャレで親しみやすいイメージで「Tora8」と書いて「とらや」と読ませます。絵本が好きだという娘さん。店内には名作絵本が並ぶコーナーも設けられています。
「Cafe Tora8」の定番スイーツは、とらや製菓時代の人気商品をアレンジしたクレープです。
大内山牛乳と大内山バターを使用したカスタードとカステラ、バナナが包まれた極上の甘さが味わえる逸品。コーヒーとの相性が抜群です。
フードメニュー「Tora8ゴロゴロミートボールのスパゲティー」と「焼きたまごサンド」は、薗部さんが子育て中に実際に作っていたもの。ミートボールには松阪牛をブレンドするこだわりです。
カフェメニュー考案中、お子さんに「美味しいから商品化したら?」と背中を押されて、お店に適したものに作り上げたそうです。
焼きたまごサンドやモーニングについてくるトーストは、近くにある「大内山ミルク村」の絶品食パン。モーニング、ランチと名付けられていても、営業時間中ならいつでも提供してくれるのは、大内山を訪れる人への優しさです。
休みの日には、お子さんやお孫さんが店を手伝いに来てくれると笑顔を見せる薗部さん。普段は一人で店を切り盛りされています。Instagramでの情報発信は、19歳のお孫さんが運営してくれているそう。
「ゆっくりとくつろいでもらうのが何より」
インバウンドも多く受け入れている大紀町。今度はヴィーガンの勉強に行くという薗部さんは最後に、「日々勉強」という言葉をくれました。
営業スタイルを変えながらも、変わらないものがある。この地では、今も昔も変わらずに大内山牛乳が地域を繋がりを作り出しています。今年75周年を迎え、様々な企画を実施している大内山酪農。次回も、大内山牛乳が繋ぐ歴史にまつわる話をお届けします。
Cafe Tora8
住所 三重県度会郡大紀町大内山727-1
営業時間 8:00~16:00
定休日 水曜
Instagram https://www.instagram.com/toraya__8/
取材・文 キャスターマミ(西口茉実)
キャスターマミ。OTONAMIE記者。松阪市出身。生まれ育った三重が大好きで、三重を盛り上げたくて地元タレントに。テレビ・ラジオ出演、祭りやイベント、ブライダルMCとして活躍中。この記者が登場する記事