ホーム 00移住 文化・歴史を体験できるゲストハウス 地元建設会社会長の人生最後の夢とは

文化・歴史を体験できるゲストハウス 地元建設会社会長の人生最後の夢とは

2023年秋、日本三大峡谷の一つであり日本の秘境百選にも挙げられる三重県・大台町「大杉谷」の麓、伊勢につながる清流「宮川」の上流沿いに、新しいゲストハウスがオープンしました。

登山や川遊びだけでなく、歴史や文化を学ぶ場になればと3棟の宿泊施設を立ち上げたのは、地元の建設会社の会長です。今回は、昭和27年生まれ、株式会社西組の西 覚嗣(にし さとし)会長の人生最後の夢としての挑戦「ゲストハウス溯渓寮(そけいりょう)」にフォーカスします。

大杉谷地域とは

登山道としての「大杉谷」は、トレッキングが趣味の方ならよくご存じでしょう。三重県・大台町の最深部を出発し、2つの山小屋を経て奈良県の大台ヶ原へ抜けるこの登山コースは、吉野熊野国立公園の登録から4年後の1940(昭和15)年に作られました。

原生林が広がる希少な森で、ユネスコエコパークとして世界にも認められています。日本最大の多雨地帯が作り上げた荒々しい山々と清流、滝などの絶景から、大杉谷は登山愛好家の憧れのコースでもあります。

そんな大杉谷登山道の麓にあるのが、大台町の最も奥に位置する大杉谷地域です。人口減少の著しい限界集落でありながら、近年は登山客以外にも観光客を受け入れようと、大杉谷の絶景を湖上から楽しめる宮川ダムでのSUP体験や周囲を気にせず焚火を囲めるキャンプスタイルの宿泊施設などが続々とオープンしています。

そして、大杉谷地域に本社を置く株式会社西組のかつての社員寮だった3棟をリノベーションし新たに観光産業に参入したのが、今回紹介する「ゲストハウス溯渓寮」です。

 

ゲストハウス溯渓寮

まずはみなさん、峡谷(きょうこく)と渓谷(けいこく)の違いを分かりますか。渓谷は、山に挟まれた川のある場所。峡谷も同様ですが、両側の崖が高く幅の狭い谷を指します。峡谷は、渓谷よりも険しく、V字型になっていることが特徴です。

清流「宮川」に沿って進んでいく大杉谷地域の魅力は、この峡谷美にもありますが、家を建てるのは大変だったでしょう。ゲストハウス溯渓寮のある大台町久豆(くず)には、山の斜面をうまく利用して民家が並んでいます。ヨーロッパの田舎の風景さながらと表現する人も。

このゲストハウスを手掛けたのが、1920(大正)9年に創業し、2020年に100周年を迎えた株式会社西組の三代目である西 覚嗣会長です。

西会長「大杉谷には、かつて御杣山(みそまやま)がありました。伊勢神宮の御用材となる木は、伊勢湾まで続く宮川を流していたんですね。貴重な生態系が保存された日本有数の大自然を感じることはもちろんですが、時代の変化によって薄れゆく歴史や文化も体験してほしい。溯渓寮は、伊勢から渓流を溯(さかのぼ)った場所で集まって学んでほしいという願いを込めて名付けました」

かつて社員寮として使われていただけあって、1階にリビング・ダイニング・キッチン・バスルーム、2階に寝室と一般的な住宅そのもの。別荘のようにくつろげるほか、移住気分で大杉谷での暮らしを体験できます。

また、家具や小物など、全てのインテリアが「無印良品」の商品で揃えられていて、シンプルでオシャレかつ使い勝手の良さは折り紙付きです。

本格的な茶室で茶道体験ができる

3棟のうちA棟には、本格的な茶室が設けられています。これも、西会長が日本の伝統や文化を学ぶ場をという思いから生まれたこだわりです。仲間同士でのお茶会を兼ねた滞在のほか、予約制で、地元で子どもたちに指導している先生から茶道を教わることもできます。

筆者キャスターマミも茶道を初めて体験してきました。

初心者の方はまず、ブラインドを半分下ろした状態のこの入口に驚くことでしょう。これは、千利休が取り入れたという「にじり口」に見立てています。

どんなに身分の高い人でも頭を下げて入らなければいけない。「茶室に入ればみんなが平等」という意味なのだそう。

おもてなしの心を大切にする茶道の精神、道具の使い方、お点前の流れと手ほどきを受け、作法の奥深さを実感します。右往左往しながらも、丁寧な指導によりお茶の文化を楽しむことができましたよ。

自分で立てたお茶と季節の和菓子でほっと一息。大杉谷の空気を感じながら、背筋の伸ばしてリフレッシュできる特別な時間でした。

夏には浴衣の着付けをしてくれて、そのあと茶道を体験できるプランもあるそうです。夜まで浴衣で過ごして、お庭で花火を楽しむのも素敵ですね!

ワンちゃん連れOK ドッグランも

B棟とC棟はペットと一緒に宿泊できます。ワンちゃんが足を滑らせてしまわないようクッション性の高い床材を使用したり、玄関前に足洗い場が設置されていたり、ワンちゃん連れのお客様目線で設計された様々な工夫がされています。

また、玄関から出て徒歩少しの場所に、約200㎡の広さのあるドッグランもあります。

建設業から観光産業への参入

さて、今年72歳となった西会長。大杉谷地域に生まれ、中学卒業とともに半分が就職する時代、旧宮川村にあった県立高校の普通科を経て上京し、日本大学へ進学しました。地元へのUターンを見越して、森林土木を学び、卒業後は名古屋の木材商社へ就職。3年間、流通業に携わります。その後地元大杉谷地域の建設会社「西組」に就職し、現在に至るまで地域のインフラ保全に貢献されています。

宿泊業への挑戦は、「限界集落となった大杉谷地域を守りたい」という考えから。空き家となった社員寮を利活用し、地域活性化を促進しようとスタートしました。

西会長「大杉谷を守るには、人を維持しなければいけません。ぜひ家族で移住してきてほしい。そのためにはまず、大杉谷に訪れて、どんな場所かを知ってもらいたい。ゲストハウス溯渓寮の近くには、生態系に詳しい大杉谷自然学校もあります。子育て環境も充実している。仕事は、給与に男女格差のない建設業もありますし、副業もOKなので、暑い時期には水上アクティビティのインストラクターとして観光客をもてなすのはいかがでしょうか。住居に関しても空き家のリノベーションなど全面的に協力します」

生まれ育った大杉谷地域への恩返しとして、余生は地域存続に尽くしていきたいという熱い思いを持って立ち上がった西会長。山間部の田舎への移住に興味がある方は、「ゲストハウス溯渓寮」を利用し、大杉谷も視野に入れてみてください。若い先輩移住家族もいます。地域一丸となって温かく迎え入れてくれることでしょう。

また、実は、西会長の同級生には、大杉谷に住む仙人・巽幸則さんや筆者キャスターマミが2021年から郷土史を習っている高松隆吉先生など、博識で個性あふれるメンバーが揃っています。高松先生が所蔵する自然や日本文化についての約300冊の書籍は、「ゲストハウス溯渓寮」の一角に建てられる予定の書庫に納められるそう。貴重な書物に読みふける夜を過ごすのもいいですね。

歴史も文化も、ここに住む人でしか価値あるものとして守っていくことができません。高齢化により途絶えようとしている今、僻地の魅力について知ることからはじめてみませんか。

 

ゲストハウス溯渓寮

住所 三重県多気郡大台町久豆382-2
予約電話番号 090-7909-1440

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