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芽吹く たまき【前編】地域プレイヤーから見た玉城町

 

城跡・玉城豚・工場がたくさんある。

伊勢市在住の僕が思い浮かべる玉城町のイメージです。特に玉城豚や農産物を買い求めて、「ふるさと味工房 アグリ」を訪れる方は多いのではないでしょうか。町の面積は40.91km²。三重県内では29市町中25番目の大きさなので、小さな町といえるでしょう。

生活に溶け込んだ玉城町を身近に感じている一方で、よくよく考えると僕は玉城町がどんな町なのかわかっていません。町がどんなところで、どんな人が暮らしているのでしょう?実は今、玉城町で色々と新たな芽が出てきているらしいです。

気になる身近な「玉城町」。本記事は玉城町での暮らしをテーマに実施したインタビューを、前編・後編に分けてまとめてみました。前編では玉城町で活躍するワイルドな御三方にお話を伺います。インタビューを重ねるにつれて、徐々に見えてくる玉城町の暮らしや魅力。ぜひ最後まで記事を御覧いただき、感じてみてください。

外部の目で新たな視点を運ぶ 名取良樹さん

撮影:新井良規

【名取良樹さんProfile】神奈川県出身。2021年5月より面白法人カヤックからの出向で玉城町地域活性化起業人となり、同時期に合同会社コバダマンを創業。玉城町では移住定住アドバイザー
や「水辺の楽校」の有効活用を考える、かわまちづくり協議会の委員参加など、様々なプロジェクトに携わりながら町の未来を創るサポートをしている。

挑戦と実践 地域活性化起業人と起業

撮影:新井良規

在籍する面白法人カヤックで、移住スカウトサービス「SMOUT」や家づくりマッチングサービス「SuMiKa」など、名取さんはヒトとモノ・コトをつなげる仕事に携わってきました。玉城町との関わりを持つ転機となったのは、家づくりマッチングサービス「SuMiKa」の事業が売却されたタイミングでした。

ー名取さん「事業の売却・整理がついて、独立を視野に新しいことやってみようかなと思ってさ。」

玉城町から面白法人カヤックに地域活性化起業人のオファーを自分が受けることを決意。会社と相談の上で半分だけ在籍を残した状態で玉城町への出向を決め、同時期に合同会社コバダマンを創業しました。

2021年5月に玉城町の地域活性化企業人となり、基本的にミッションフリーで活動がスタート。地域活性化企業人の立場としては大切にしているのは、必要だと思うことの提示はしても、強制はしないこと。行政が実現したいことを形にするサポートができればというスタンスで業務に臨んでいます。

町にとって「住まい」があるということ

撮影:新井良規

地域活性化起業人の就任当初は、まずは玉城町を知るところから始めました。町に何が足りていないのか、行政がやりたくても進まない要因が何か?の仮説を立ててヒアリングを重ねていきました。しかし、玉城町を知れば知るほど、町は変化を求めてないことが見えてきます。玉城町は他の市町に比べて行政サービスは充実しており、人口減少は緩やかな状況にありました。

ー名取さん「これまで限界集落や過疎地域と関わることが多かったから、どこも課題は共通していた。自分の想定と玉城町の実情との乖離は大きかったかもしれない。」

町の存続が危ぶまれるような要件はない玉城町の現状。それでも、外部の目線から町の未来を見据えた際、課題として捉えたのは「空き家の未活用」でした。

的山からの展望

人口減少を食い止めるためには、転入者を増やすこと。転入者を増やすためには、そもそも町に住まいが無ければ成り立ちません。住まいを何でカバーするのか?その方法は2つ。空き家対策での住宅供給または分譲地開発です。

現在、玉城町では分譲地開発が進んでいます。その一方で歴史があり、駅が近く車に依存しなくても生活ができる田丸地区がドーナツ化に陥り、事実として空き家が目立っています。

ー名取さん「中心地を移していくことを玉城町も良しとしていない。これまで空き家の利活用自体がうまく進められてなかったのが現状かな。」

街づくりの観点から、住宅をどう考えていくか?空き家活用や土地を活用して新築を建てることなどが、ひとつの道筋です。町で土地や住宅のサイクルを回すという意識を持てれば、課題解決の形は何でも良いのかもしれません。

シェアスペースCBDと玉城町の可能性

CBDで移住体験する親子の様子 撮影:新井良規

玉城町では空家の売り手と買い手をつなげる行政サービス「玉城町 空き家バンク」が2023年に立ち上げられました。名取さんは空き家バンクのアドバイザーを担っています。

ー名取さん「玉城町では物件の供給が足りていなくて、色々と空き家を登録してもらえるように取り組んでる。ここCBDでオープンハウスやったりとか、広報たまきに情報を掲載したりとか。」

玉城町には外部の人とのハブになる拠点が必要だと考えていた名取さん。駅から徒歩圏内で、車に依存しなくても生活できる田丸地区で賃貸できる空き家を探して約1年半。約20軒目で巡り合った空き家を自らの手でリノベーションして、2023年6月にオープンしたのがシェアスペース「CBD」です。

撮影:新井良規

ー名取さん「駅の周辺に固執してはいないけれど、自分の中でここに玉城町の可能性は感じてはいるから。」

玉城のヒトとの出会いで紡がれる縁

町の課題解決を図る別手法として、三重県から玉城町を含めた広域の事業を受託するアプローチにも取り組んでいます。

その一環のひとつがフォトストックサービス「アフロ」を活用した地域資産のデジタルアーカイブ事業です。玉城町、南伊勢町、尾鷲市で三重の農山漁村の魅力発信や地域資産を活用した新たな価値創出を行うことを目的に、「ヒト・モノ・コト」の地域資産をアフロ内にアーカイブしています。玉城町を含めたフィールドをまたいで地域団体と連携した事業提案をしていくことは名取さんの立場だからこそできる形です。

ー名取さん「新しいチャレンジを面白がってくれる仲間や協力者すべてが、玉城町の人的資源だね。」

名取さんが次のステップとして捉えているのは、担い手の育成です。玉城町で活躍するヒトと連携し、地域の仕事の拡充とヒトのマッチングをサポートしていきます。

玉城町の先輩移住者 イチゴ農家の立石真さん

【立石真さんProfile】大阪府出身。2019年2月に地域おこし協力隊として、玉城町に移住。農業経験を積み、2021年3月にイチゴ農家として独立。ビニールハウス14㌃で三重県で誕生した品種「かおり野」を中心に栽培し、町内の産直市場では「いちおのいちご」ブランドとして販売している。2023年よりキッチンカーにて、けずりいちごの販売開始!

スローライフに憧れて、蕎麦屋からイチゴ農家へ転身

ー立石さん「生まれも育ちも大阪なんですけど、よく若い頃からサーフィンとかで地方に行っていました。」

約13年間、大阪の蕎麦屋で働いていた立石さん。蕎麦屋では、出前が中心で忙しない日々を過ごしていました。そんな若かりし頃の立石さんの趣味はサーフィン。毎週、大阪府近県の自然豊かサーフスポットへ出かけて英気を養っていました。幾度となく訪れる地方の居心地の良さを肌で感じながら、次第に自分が週末の楽しみのために仕事をしている状況に気づきます。いつかは地方で、スローライフを送りたい。そんな思いを募らせていた時、目に止まったのが新規就農を目指す地域おこし協力隊制度でした。

ー立石さん「田舎ならではの仕事を色々探した時に農業の募集が多くて、敷居が低そうに感じたんです。実際は大変でした(笑。」

全国の新規就農を目指す地域おこし協力隊の募集を調べ、複数の市町村に応募書類を送りました。

ぼくにとっては、便利すぎた玉城町

玉城町移住の御縁がつながったのは、募集担当者の親切な対応から。レスポンスが早く、丁寧な対応に町の温かさを感じていた立石さん。前向きに話が進み、2019年2月に地域おこし協力隊として玉城町に移住しました。

ー立石さん「玉城町は思っていたイメージと違いましたね。想像より田舎じゃないやんっていう。」

移住先では自給自足とまではいかずとも、のんびりとした時間を過ごせる場所でのスローライフを思い描いていました。何年かかろうとも農家で生活を成り立たせ、場に適応して自分の力で道を切り開く。そんな強い意志を持っていた立石さんにとっては、玉城町は不便のない栄えた田舎でした。

立石さんがイチゴ農家として独立するために大切にしてきたことは、円滑に物事を運ぶための周囲とのコミュニケーションです。常に自分がやりきる人間だと言い続けてきました。

ー立石さん「着地点は定まっていて、イチゴ農家として食っていくぞと言った以上はやりきる。だから、ちょっとやそっとのことはあんまり気にならないです。嫌なことも当然あります。それはどこに行っても一緒ですね。」

2021年3月にイチゴ農家として独立して、今年で3回目の収穫を迎えます。2023年にはキッチンカーを購入し、けずりイチゴの販売を始めました。イチゴ大福にイチゴ飴など、新しい商品開発に余念がありません。今後は農福連携やチャンスがあればビニールハウスを増やしていきたいと語る顔は、イキイキとただ前を向いています。

ヒトが集う玉城町の憩いの場 acatoki井本純一さん

【井本純一さんProfile】鳥羽市出身。2011年に鳥羽市で鉄板焼屋を始め、2017年2月に玉城町に移住・「acatoki」をオープン。シンガーソングライター「純れのん」で活動中。イベントの企画・運営など、玉城町観光協会の理事をしている。

庭の栗の木に心惹かれ、結婚を機に玉城町へ

井本ご夫妻 acatoki前にて

ー井本さん「元々、鳥羽のショッピングセンター ハローの中で店を始めたんです。めっちゃレトロな場所でやってました。」

魚屋さんにお肉屋さん、 乾物屋さん、酒屋さんが立ち並ぶ中で「ジュンズテッパン」を始めた当時を振り返ります。玉城町に移住したのは、玉城町出身の奥さんとの結婚がきっかけです。

居住先を探していた当時、伊勢市駅近辺で物件を探していた井本夫妻。現在のお店兼住まいとなる建物を訪れた際、庭に生える栗の木の姿を見て、営業するお店のイメージがパンっと浮かびあがりました。

ー井本さん「こういうところで店がやりたいなと思いました。」

2017年2月に玉城町にオープンした「okonomi kitchen acatoki.」は7周年を迎えます。

暮らして感じる、ちょうど良い田舎感

玉城町での暮らしに慣れていくにつれて感じたのは、「ちょうどよい田舎感」でした。

ー井本さん「最初の頃はそこまで変化は感じなかったんですけど、やっぱりどんどん住んでいくうちにド田舎でもないし、意外とスグに色んなところに行ける場所。ちょうどいい場所におるような気がします。」

シンガーソングライター「純れのん」として、三重県内外を移動することが多い井本さん。近隣の伊勢市や松阪市をはじめ、南の尾鷲市など、どこへでも気軽に行ける距離にあり、実は三重県を1番楽しめる場所かもしれないと話します。

撮影:新井良規

ー井本さん「何か過ごしに行く場所として、水辺の楽校は良いと思うんですよね。ちょっとバーベキューしたいなって思った時とか、どんどん行けばいい。」

「たまき水辺の楽校」は自然体験・環境学習の場として活用できる宮川河川敷にあるスポット。利用料はかからず、仲間とバーベキューを楽しんだり、子どもとボールで遊んだりと多目的に利用できます。玉城町にはお花見スポットの田丸城跡をはじめ、四季を楽しめる景色が日常に溶け込んでいます。

ー井本さん「伊勢市から近くて、色んなところがある。魅力がまだまだ残ってる町じゃないですか?やり方次第で、ちゃんと魅せられる。もっと観光地にもなりそうなのになと思う場所でもあります。」

ここにしかない複合イベント「ミナテラスキャンプ」

「常に面白いことがしたい」という思いを持ち続ける井本さんは、2023年11月に仲間と共に水辺の楽校で「ミナテラスキャンプ」を開催しました。コロナの影響で2年連続で開催が中止となったものの、3度目の正直でイベントを実現。開催当時はコロナ明けでマルシェイベントが乱立する様子から、イベント自体を取り止める事も考えたそうです。

ー井本さん「複合的なイベントして捉えれば、他とは違うかな、やってみるっていいよなって思えた。ただのマルシェじゃなくて、音楽があって、キャンプをしているヒトもいる。ここだけの場があるかなと。」

ミナテラスキャンプは「ミナテラス:みんなを照らす、1人1人の楽しいに光を当てる」という意味に、「キャンプ:集い、キャンプもできる」という意味が込められています。

ワクワクしている人がヒトを呼ぶ

ー井本さん「ずっと、面白いことがしたいだけ。巡り合わせで玉城町に来たことが理由になって、色んな歯車が合わさる。物事は決まっていて場所はどこでも良いんです。」

土地柄として広い平野のある玉城町には、隔たりがなくて社交的な人が多い印象を井本さんは持っています。温かな町と人の応援が力となって、これからも新たな仕掛けが形となっていきます。

移住者体験者から見た玉城町 芽吹く たまき【後編】へ

撮影:新井良規

名取さん・立石さん・井本さんのお話を伺って、玉城町ってどんな町なんだろう?という疑問が少し解消されてきました。井本さんの言葉をお借りして、地域プレイヤー達の声を一言で表すと玉城町は「ちょうど良い田舎町」なのかもしれません。

後編では玉城町で4日間の移住体験をしたご家族にお話を伺っていきます。玉城町は本当に「ちょうど良い田舎町」なのか?前編と合わせて、ぜひご覧ください。

 

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