誰にでもある「お気に入りのあの味」を旅する
やっと旅ができるようになってきたこの頃。
知らない場所を旅するとき、その地に暮らす人々の「お気に入りのいつものあの味」を愉しみたくなる。今回は伊勢市在住の筆者が、地元の方にも人気の「いつものあの味・松阪市で2,000円以下の〝丼〟」にフォーカスをして巡ります。
松阪牛の町、焼肉屋で人気の「映え丼」!?
まずは「美味しい焼肉屋さん」として知人から屋号を聞いたことがある「かどや」へ。「カツが見えないカツ丼」が名物なんだそう。想像が付かない。どういうことだろう・・。
店主の橋本さんに、まずはお店の歴史をうかがった。昭和33年、松阪駅前に食堂と精肉店を創業。その後、ショッピングセンター「ベルタウン」に移転し、2013年から現在の宮町で焼肉店をオープン。
3年前にリニューアルした店内は、私の想像する煙りモクモクの焼肉店のイメージとは違い、モダンでスタイリッシュな雰囲気。
そして隣の席との距離感がほどよく快適。
噂のカツ丼は牛カツ、豚カツ、鶏カツから選ぶことができる。聞けば、昔は牛カツ丼を「Aカツ丼」、豚カツ丼を「Bカツ丼」と読んでいて2種から選べたそうだ。牛カツ丼(1,320円)をオーダー。
さて、運ばれてきた牛カツ丼はこちら!
じゃーん!
カツはどこ?
タマネギなどの野菜もなく、カツと卵とご飯が〝ひとつ〟になっている感じ。マスク越しでも、卵からやさしい和出汁の香りがわかり、トロトロでクリーミー。和出汁が染み込んだ衣との一体感も堪らない。
そして、牛肉はあっさりながらも噛みしめるほどに旨味が溢れ、スパイシーな胡椒が効いていて卵の優しい味わいとのコントラストも愉しめる。
橋本さん!めちゃめちゃ美味しいです!
橋本さん:東京で修行をしてきた叔父が食堂で出してました。今も味や作り方を、そのまま受け継いでお出ししています。カツ丼にするので、肉の部位は脂が少ないモモ肉を使い、あっさりとした味わいに仕上げています。ちなみに丼一杯に卵を何個つかっていると思いますか?
筆者:卵、多いですよね。2個、いや3個ですか?
橋本さん:実は1個だけなんです。和出汁の量と卵の割合、そして火の入れ方にポイントがあるんです。よくお客さんから作り方を聞かれ、隠さずにお伝えするのですが火入れ加減が難しく、卵と出汁が分離してしまい上手くできないとお聞きします。
焼肉の〆にカツ丼を食べる方も多く、一人前焼肉コースのなかにカツ丼入りのメニューもある。
さらに常連さんからの依頼で出していた裏メニュー「カツ丼のカツぬき」も・・。
筆者:これは、たまご丼ではないのですね?
橋本さん:カツ丼からカツを抜いたので、カツぬき丼です。野菜が入っていないのでたまご丼ではないです。あまりに注文が多かったので、メニューに載せちゃいました(笑)。
焼肉を楽しんだあと、お肉はもういらない。だけど、和出汁が染みた卵とお米が食べたい・・。共感です!
こだわり派とんかつ専門店の「みそ玉丼」。
かつ丼が続いて恐縮だが、ぜひともこちらもご紹介したい。
魚町にあるとんかつ専門店「茂とん」。こちらも創業は昭和33年で、店主の山田さんと奥さん、数名のスタッフで営んでいる。
以前は「ベルタウン」で、先ほどの「かどや」の4軒程となりで営業していた。平成20年頃に今の店に移転。
店内はアットホームな雰囲気だ。
ロースみそ玉丼(1,480円)を注文。
カウンター越しに調理している風景を眺めながら、丼を待つワクワクするひと時。山田さんに「みそ玉丼は以前からメニューにあったのですか?」と伺うと、
山田さん:みそかつ丼は先代の父のころからありましたが、雑誌の取材がきっかけで新しいみそかつ丼を考案しました。当時働いていたアルバイトスタッフと一緒に考え、半熟卵を乗せたみそ玉丼ができました。時代に合わせて少しづつ味も変えないと、人の舌も進化しているから、味がそぐわなくなります。当時、かつ丼に生キャベツを乗せ始めたのも、この辺りだとうちが最初だったと思いますよ。
厨房では、カラッと揚がったとんかつに包丁を入れると「ザク、ザク、ザク」と美味しそうな音。手際よく仕上げられたロースみそ玉丼(お味噌汁は+100円で豚汁に変更も可能)が完成。
ドーンと大きなかつ、赤味噌のつや感、今にもとろけ出しそうなふるふる半熟卵。
食べ進めようと、お箸でかつを持ち上げると・・
ん!かつ重たい。
しっかりとした重量感のかつを半熟卵に潜らせて・・。
いただきます。
噛むという力がいらないのではと思えるほど肉の歯切れがよく、口の中でジュワーと広がる脂の甘み。
自然と笑顔が溢れる。
美味しい。
山田さん:脂の美味しい豚肉を、食べていただきたいんです。
豚肉はいろんな種類を試した後、宮崎県産のSPF豚を使用。SPF豚は筋肉のきめが細かく保水性も高く、冷めても固くなりにくい。そして脂の質もよい。
甘めの味噌だれ、かつ、ご飯は絶妙な味のバランスで美味しく、30代女子でもパクパクと食べ進められる。
山田さん:味噌だれは、とんかつなどに「つけるたれ」と、丼に「かけるたれ」で味の濃さを変えています。最初は少し味が薄く感じるかも知れません。でも豚肉の美味しさを最後まで味わっていただける、たれの味付けなんです。毎日作り足している、秘伝の味です。
とてもよく分かる。
だって私はソースやたれの味ではなく、美味しい豚肉の味を求めているのだから。とんかつに、ただならぬこだわりを感じる。理由を聞いてみた。
山田さん:料理が好きなんです。つい、こだわっちゃう(笑)。
奥さん:まかないも相当こだわって作ってくれます。スタッフにも人気なんですよ。
山田さん:働きに来てくれるスタッフにも楽しみがないと。昨日のまかないは、チキンクリームカレーうどん。手は抜けません。
奥さん:スタッフが自主的にまかないの人気投票をしたんです。一位はハンバーグでした。スタッフも主人をその気にさせるのが上手い(笑)。
時にはスタッフの家族分も作り、持たせるのだとか。たくさんのこだわりを話しだすと止まらないご主人と、いい塩梅でツッコミを入れる奥さん。常連が多いという茂とんのお客さんはとんかつの美味しさはもちろん、ご主人、奥さん、そして楽しく働くスタッフの人柄に惹かれ、再び訪れたくなるのかも知れない。
1,500円で!あの松阪牛が丼で食べられる!
最後はやはり、松阪といえば松阪牛をご紹介。
国道166号沿いにあるインパクトのある看板の店、松阪まるよし鎌田本店。(三重県中南勢の人には馴染み深い看板)。
筆者には「松阪牛+外食=敷居が高い」というイメージがどこかにある。いや取材をするまでは、あった。
2階建ての店内に入ると、松阪牛などがずらりと並ぶ精肉売り場。取材の日も肉だけを買いにきている方も多い。写真の端に写るコロッケ。こちらも気になるが・・常温で持ち帰れる松阪牛を発見!?
と思いきや、なんと松阪牛の霜降り柄のクッションやタオル。まるよしには伊勢神宮への旅行客も多く、修学旅行生や2次会などのパーティ用にも人気とのこと。
1階はテーブル席が中心で家族連れなどが多く、2階は大広間もあり観光バスなどの団体客も受け入れている。今日は、小さな個室に通していただいた。(レストランのお席の当日予約は不可、前日までに電話で空き状況の確認が必要)
喧騒から外れ、ゆったりとくつろげる空間。外が大通りだからこそ、切り離された感じが素敵だ。
注文したのは、牛肉丼(松阪牛)2,000円。お肉の量は75gと50gと選べ、50gだと1,500円。
そもそも松阪牛を丼で食すという発想はなかったし、あの松阪牛が1,500円からいただけるとは少し驚いた。
出てきた牛肉丼(松阪牛)は、ご飯が見えないほど大きなお肉!部位は肩やモモ、バラ肉など。味付けは砂糖と醤油の甘辛ベースだが、濃いわけではなく優しく甘め。普段食べている牛丼より肉が厚く、松阪牛独特の甘味と旨味、香ばしい香りが口のなかいっぱいに広がる。
肉の芸術品と称される松阪牛。美味しいに決まっているのだ。
「ん〜まっ!」。
考えるより先に、言葉が漏れる。
販売促進事業部、中東さんにお話をうかがった。まるよしの元々は精肉店と大衆食堂を営んでいた。メニューは松阪牛のステーキや肉鍋だけでなく、ハンバーグやカレーライスも。大衆食堂の名残もあり、地元のお客様も多いのだとか。
中東さん:スタッフの中にはお顔を拝見すれば「何を頼まれるか大体わかる」というくらい来ていただいているお客様もいらっしゃいます。
メニューの種類や価格帯も幅広く、ランチとディナーの間も営業しているため立ち寄りやすいのも嬉しい。「松阪牛+外食=敷居が高い」はこちらの思い込みだったようだ。地元の方から観光客まで幅広く受け入れてくれる懐の広い店、それがまるよしだと思う。
丼は「小さな宇宙」なのかも知れない
記事を書いている今も、思い出すたびにまた食べたくなる丼たち。そして次の機会に食したのならば、また後日も食べたくなるのだろう。永遠に私を惹き付けてならない。
半球体の器にあつあつのご飯。食欲をそそる個性的な具材。そんな丼は底なしの欲望を掻き立てる、小さな宇宙を感じる。
こだわりと歴史、そして愛情が詰まった「松阪丼〜宇宙の旅〜」に、あなたも出発進行!
【取材協力】
かどや
松阪市宮町59-3
tel 0120-892992(ヤキニククオニ)
hp http://www.kadoya-matsusaka.com/
茂とん
松阪市魚町1709
tel 0598-21-1112
hp http://www.shigeton.jp/
松阪まるよし鎌田本店
松阪市鎌田町239-2
tel 0120-298-044
hp https://www.matsusakaushi.co.jp/
【タイアップ】
松阪市 観光交流課
松阪市殿町1340番地1
tel 0598-53-4196
松阪市hp https://www.city.matsusaka.mie.jp
松阪市観光hp https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/kanko/
松阪市観光インフォメーションサイト https://matsusaka-info.jp/
取材:2022年11月18日
※価格は取材時のものです。
※価格はすべて税込みです。
伊勢のストリートミュージシャンogurockの嫁。という事で肖像権はほぼないようなもの。見知らぬ方からの声かけにも慣れました。家業かつお節屋『小久保商店』の嫁としても活動中。お出汁をもっとたくさん広げたい! 5月から、松阪市にて『カブクノニカイ』はじめます。得意ジャンル:グルメ、伊勢市、料理、コーヒー