ホーム 04【知る】 「津餃子の大きな空洞」 連載エッセイ【ハロー三重県】第25回

「津餃子の大きな空洞」 連載エッセイ【ハロー三重県】第25回

先日のこと、長女にせがまれて我が家贔屓の餃子屋さんに食事の予約を入れた。
食事の日までまだずいぶんと日があるというのに、子どもたちはそれはそれは喜んで楽しみにしていた。
私も人のことは言えないんだけれど、子どもたちは餃子がとても好き。
ことあるごとに「今日はなんにち?」「あと何回寝たら餃子屋さん?」と訊いてくる。
まだまだだよ、あと少しね、と諫めるのがここのところの朝の日課になっていた。今、我が家では餃子熱が高騰している。

そんな数日をすごしていたある日、食いしん坊の長女が給食の献立表を指して「津餃子はいつ出るかなぁ?」と言った。どうやらすっかり餃子づいている。

はて、津餃子、いつだろうねぇ、献立表を確認して、今月はないよと答えると、小さく落胆していた。津餃子っておいしいの?と訊ねると「おいしいよ!」と長女。
へぇ、と曖昧なお返事をしながら、そういえば私はいまだに津餃子をいうものを知らないな、ということに気がついた。
もう10年も中南勢に暮らしていながらその半分は津市にいながら、私はいまだに津餃子を食べたことがない。
実態がもうひとつわかっていないので、これが由々しき問題なのか、そうじゃないのか、それすらわからない。

*

津餃子っていうのは、津市のB級グルメのひとつなのだけど、そこら中にあるというわけでもないみたい。スーパーのお総菜売り場にも売っていないし、うどん屋さんや定食屋さんへ行ってもお見かけしない。
津餃子は、いわゆる普通の餃子の3倍くらいの大きさがあって、その大きさを例えるなら丸まったリスくらい。たぶん。
焼いたやつもあるんだろうか、ちょっとそのあたり分からないのだけど、からっと油で揚げたような見た目をしている。
皮はきっとパリパリとした感じ。

中になにが入っているのかはちっとも見当がつかない。
きっと、あの大きな空洞の中にはいろんなものが詰まっているに決まっている。

例えば、麺とか。
中華麺的なものを細かく刻んで包むというのはどうだろう。食感としても申し分ないように思う。パリッとした皮にむちッとした麺の食感はよく合いそうだ。
あとは、もやしもいいかもしれない。シャキッとしているのもいいし、淡白な味なので餃子にタレらしきものをつけるにしたって、邪魔をしないし。そしてなんと言ってもリーズナブルだからB級グルメにはうってつけ。
肉らしきものもいるだろう。三重県には全国に誇るおいしいお肉がたくさんあるし、お肉屋さんも多い。肉だ。肉を入れよう。
とは言え、そこはB級グルメだからお値段を鑑みて牛肉というわけにはなかなかいかない。
ごく一般的な餃子が豚肉なのだし、ここは思い切って鶏肉でいきたい。せせりなんていいかもしれない。
麺ともやしとせせり、なんだかちょっと物足りない。彩に人参なんかを入れて、あとはそうだな、豆とか。豆は健康にもいいし。
それだけ入れば、完全栄養食の様相を帯びてくる。あの大きなフォルムにふさわしい実力。

パリッとした皮に、もちッとした麺、シャキッとしたもやし、せせりの歯ごたえと、豆のほくっとしたやさしい食感。完璧だ。

*

こんなことを書いていては津餃子保存会みたいなところの偉い人から怒られてれてしまうかもしれないのだけど、いたいけな市民のちょっとしたわくわくを詰め込んだ妄想だとやさしく受け止めてほしい。

ただ、こんなに想像上の津餃子にわくわくしてしまっては、いつかやってくる初めましてのその時へのハードルがいたずらに高くなってしまう。
お口がすっかりもちもちした麺ともやしとせせりと豆を期待してしまっては大変。コーラだと思って飲んだアイスコーヒーがとんでもなくひどく思えるのと同じ原理で。
気まぐれな妄想をしたばっかりになんてこと。これ以上わくわくがつのらないうちに、そう遠くない未来に、津餃子を食したほうがいい。

*

とここまで書いて気がついたのだけど、我が家は間もなく、お気に入りの餃子屋さんでお食事をするのだから、その日にいよいよ津餃子を頂けばよいのでは。
餃子屋さんなのだし、きっと津餃子もあるだろう。それがいい。
奇しくもお食事の翌日は結婚記念日だし、なんかちょっとだけおめでたい感じもするし、わくわくの答え合わせにも、初めての津餃子にもうってつけのように思えてくる。
いつもは、最高お気に入りの焼き小籠包でお腹をぱんぱんまで満たす覚悟なのだけど、今回はお腹のスペースを少し津餃子に譲ってあげる。
結婚記念日(前日)だし。

いよいよお食事のその日が楽しみになってきた。
給食になかなか登場しない津餃子を待ち焦がれている長女も喜ぶだろう。

あの大きな空洞になにが入っているのか、お楽しみ。

 

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