「コロナ禍において価値観や社会システムが少しずつ形を変えていく中で、新しい未来のヒントがパラオにはたくさんあったような気がした」
ラジオDJでJICA中部オフィシャルサポーターを務める空木マイカさんは冒頭でそう綴った。
エッセイ調で紡がれた言葉には、地球環境について考えさせられる情報が詰まっていた。
日本の文化が今でも残るパラオ語。「ビールを飲む」は「ツカレナオス」!
空木さん:「私のツアーにしちゃっていいですか??」
快活明瞭な解説付きのパラオ展ツアーが始まった。
1994年、日本とアメリカの統治を経て独立を果たしたパラオ。その歴史から、ベンジョ、ソウジなどの外来語として生活に浸透した言葉や、ビールを飲む事を「ツカレナオス」、美味しいは「アジダイジョウブ」といった1000語近くの日本語や日本の冠婚葬祭の習慣が今でも残っている。
「独立の過程では賛成反対の間で涙を流すほど悩み、大事なのはtrust(信頼)だと国中の住民に話をしに行かれたそうです」空木さんは独立に尽力されたクニオ・ナカムラ元大統領に聞いたエピソードを教えてくれた。
実父が三重県伊勢市出身のナカムラ元大統領。三重県は第ニの故郷と呼べる場所で、来年三重県にて開催予定の太平洋・島サミットも楽しみにしておられたそうだが2020年10月にご逝去された。
似ていませんか?と見せてくれたパラオの国旗。
空木さん:「パラオの国旗は日本の影響を受けているそうです。ナカムラ元大統領はパラオの人の良いところは悪い記憶を忘れることと仰っていました。日本の統治だったことも、アメリカの統治だったこともある。でも今パラオの人にどの国が好きですか?と聞くとみんな日本とアメリカと答えますと」
国旗の真ん中の黄色い丸は満月。パラオでは満月には良い意味があるため引っ越しをしたり結婚式をしたりする。そこには平和という意味もあるという。
環境大国パラオ。「ゴミはすべて持ち帰ります」の本当の意味
太平洋のミクロネシア地域に位置するパラオ共和国。美しい海を求めて、世界中から多くの観光客が訪れる。
その豊かな自然を守るため、入国する際「パラオの環境を守りゴミは持ち帰る」という誓約書にサインする必要がある。
島国にとって、気候変動の影響による海面上昇や台風被害、珊瑚の白化、海の生き物の現象は、生活にダイレクトに関わってくる深刻な問題。
珊瑚に有害な日焼け止めは禁止、ビニール袋は土に分解される成分を使用、パラオの海の80%は資源採集活動禁止など、レメンゲサウ大統領による環境意識の高い政策が徹底されている。
意識をすること。そして分別を徹底すること
パラオには焼却施設がない。リサイクル可能なもの以外は埋め立てる。ゴミの中に空気を送り込み、微生物の働きによりゴミを分解し量を少なくする日本の技術が取り入れられている。
世界的にも進んでいる日本のゴミの分別をパラオの人に指導しているのは、三重県四日市市にある公益財団法人国際環境技術移転センター(ICETT)。
地域住民は毎回ゴミ収集に立ち合い集会で報告。自分たちの地域で出しているゴミの量を把握することで、ゴミの減量化が図られている。
パラオ人アーティストが三重県を訪れ、「分別」に感銘を受けてZero Wasteという歌を制作したというエピソードも。
ゴミの最終処分場にも行かれた空木さん。
微生物でゴミを分解する技術が使われており、匂いは全くしなかったが、日本から持ち込んだプラスチックなどは分解されずに残ってしまっていた。
空木さん:「ゴミの行き先を目の当たりにして、自分が持ってきたビニール袋や壊れてしまったサンダルをここに置いて帰るわけにはいかないと強く思いました」
空港で書いたパラオ誓約の”ゴミはすべて持ち帰ります”という本当の意味を理解したという。
ゴミになる前の姿と向き合う
パラオの国土は種子島とほぼ同じ大きさ。生活圏とゴミが行き着く処分場が乖離していない。
空木さん:「ゴミは自分の手から離れた後、消えて無くなったかのように思えます。でもゴミは消えない。たとえ燃やしたとしても温室効果ガスを排出する。もしその後の行方が見えたなら、自分ごととして人の行動は変わるかもしれません」
いかに便利か、いかに発展していくか、加速する消費社会の中で起きたコロナは、私たちの暮らしの価値観を変えた。これまで3ヶ月後の手帳に向かって毎日をこなしていたという空木さんにも変化があったようだ。
空木さん:「おうち時間が増えたのも重なって生活を見直す機会になりました。洗剤の量が気になったり、1週間分のゴミを子どもたちと床に広げてみて量に驚いたり」
私も家庭ゴミの処理をしているとふと考えることがある。たった今まで食材だったのに…、さっきまで自分の髪の毛だったのに…。一体どの瞬間からゴミになるのだろう。
空木さん:「どのゴミもゴミになる前の姿が必ずあります。その段階でできるだけゴミの姿に変身させない工夫、それが分別なのかもしれません。もう一歩徹底することでゴミ以外のものになるチャンスを増やせると感じています」
買うものに責任を持つ。捨てる時にその後の姿を思い浮かべる。物が自分のもとにくる前のストーリーと、手から離れて行った後のストーリーを想像する力は、ゴミと呼ばれる物の量を減らすかもしれないと。
新しい世界に望むこととは
―ただただ無事に地球に住み続けられますように。そして子どもたちに美しい地球をプレゼント出来ますように―
それが空木さんの切なる想い。
三重県はレジ袋有料化の前からエコバック持参率が高いらしい。パラオの子どもたちに日本の風呂敷を見せたところ”beautiful”と好評だったそう。知恵を持ち寄り、ひとりひとりが自分事として捉え、出来ることに取り組むことでその輪はきっと世界中へ広がっていく。
空木さん:「私たちは自然ともっと調和して生きていかなくちゃいけない。海も空気も繋がっている。私たちの行動も、パラオで起こっていることも、この先私たちに起こるかもしれないことも。新しい世界が輝きを増した明るい未来でありますように」
取材:JICA中部オフィシャルサポーター 空木マイカ氏
取材協力:JICA中部
撮影場所:JICA中部なごや地球ひろば
☆パラオ展「新しい世界のヒントを求めて」は終了しております。空木マイカさんのパラオへの取材記録はこちらからご覧頂けます。
https://note.com/maikautsugi/m/mb661f7948f2e
3年ごとに日本にて開催している島嶼諸国との首脳会議「太平洋・島サミット」。2021年に開催が予定されている第9回太平洋・島サミット(PALM9)は三重県志摩市で開催することを決定しました。開催に向けて島嶼諸国について理解を深める情報を発信中です。
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福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事