(第1回より続く)
お茶業界の古い仕組み
安:僕もお茶屋を長年やってきて思うけど、三重県と静岡県やその他京都の宇治とかの古い産地は実は相対相場・相対取引の古い仕組みなんですよ。九州の鹿児島とか大分は市場取引。鹿児島は100%市場取引、入札です。
住:鹿児島市場に一回行かせてもらったけど、すごいですよ。1件1件厳しくチェックされてます。
安:九州はそういう意味では先進的で、静岡や三重、宇治の取引は相対取引で遅れている。さらにいうと、取引するときに書類がないんですよ。
た:書類を交わさないんですか?
安:他の農産物も契約書がないのは多いですよ。いちいち1回ごとの売り買いに契約書は書かないと思います。だけども先進的な地域では万が一のことを考えて保険をかけるとか生産者も卸売も加工業者もお互いが生き残っていくために協議会で相談し合うんですが、それが三重県では遅れているんですよ。
茶業会議所も組合も役員のなり手がなかなかなくて、仕組みを変えたり建設的に勉強会をして業界を良くしていこうという動きが鈍いんです。自分たちの利益優先、そんな雰囲気になっているけども、農協もその原因の大きな1つなんです。農協のいうとおりにやっていかないといかんしという農家さんが大半なんですわ。
た:住田さんが実際にお茶を納める売り先は農協ですか?三重県経済連の市場ですか?直販ですか?
住:お茶農家さんによってバラバラなんですけど、三重県の市場に出す人、僕らみたいに問屋さんに100%出荷する人、直接伊藤園みたいな飲料メーカーさんと契約を結んで買ってもらう人、甜茶という高級品を育てて売る人、県外に持っていって売る人、いろんなやり方でやっているんです。
市場や売り先が1つじゃないからこそ最低価格の保証もしにくいんじゃないでしょうか?得意先も納め先もバラバラだとそれらを相互に確認して最低いくらで線引きするなんて出来ないですよね。
国際基準というハードル
た:市場の最低価格の取り決めが難しいというのはわかりました。それでもなんとかしないといけない中で、例えば三重県もお菓子メーカーが三重県の抹茶・粉茶を使うというような動きってないのかなと思いましたが、いかがですか?
住:三重県のお茶業者で、抹茶まで加工できるところというのが意外とないんですよ。抹茶は西尾か京都の抹茶メーカーで加工するというのが一般的ですね。茶葉のままそういったところに卸して、最終的にお菓子メーカーさんはそういうところから粉末になった抹茶を買う。
そもそも三重県内では抹茶を使ったお菓子もそれほど多くはないですよね。昔でいう荒茶という状態にするしかうちでは出来ませんし、建て替えて新しい設備導入するにも今は難しいですよね。
海外へ日本のお茶が出にくいっていうのは、US仕様にしなさい、EU仕様にしなさい、台湾仕様にしなさいとか色んな枠・基準がバラバラなんですね。日本ではここまでの農薬が使えるけどこの国はではダメとかあるんですね。
だから、今年からその農薬辞めましたといっても、何年前から使ってないとかじゃないとダメなんです。
さらに検査してお茶から検出されてもダメで、原因を調べると実は土や木自体に残っていて、それがあるとEUとかから受け入れてもらえない。
うちでもASIAGAPってHASSAPのような認証受けてるけど、これ自体も厳しい基準をクリアしてるものです。
安:これはなかなか簡単には取れないでしょ?
住:いや、そんなことないですよ笑 規約があって基準を満たしてそれを証明する書類を用意して。当たり前のことだと思うんですけど、昔からの考えで農家をやっていると難しかったりしますし。
でも、これのような基準がないと、大手メーカーさんも買ってくれないし、海外にも出ていけない。
た:製造業でいうISO9000とかと同じようなものですよね?
住:そうです、それらと同じ部類です。でも、今回のコロナ騒動で、あの基準を持っていないから買わないと言われた農家さんはたくさんいたみたいです。卸売も農家が認証を持っていないと、最終の売り先に流すことができないから、買えないと。
やれることやっていても、コロナでこんな状況だから、、、
「お茶バカ爺さん」の草の根活動
※写真はコロナウィルス発生前に開催されたお茶の淹れ方講座です。
た:安田さんは以前から「お茶バカ爺さん」として、お茶の淹れ方教室や「抹茶ごっこ」というお茶碗と茶せんと抹茶が1セットになった新商品の開発などをやられていますよね。
安:我々がお茶の消費運動をしていくしか道がないなと思ってやっているんですよ。急須の無い家庭が今は多いですけど、それを無くさなあかん。それには僕はまずは子供だと思うんですよ。
私は幼稚園から小学校、10歳までの子供を集めて、淹れ方講座の中でいろんなお茶を飲んでもらってどれが美味しい?っていうのをやってみたんですよ。
結局、子供には香りの強い玄米茶が一番美味しいって言われた。あと、麦茶も美味しいと。子供の発想はお茶屋では想像できんよね笑
でも、そのお子さんの親御さんは「お茶ってこんなおいしかったんか」って言われて。急須が無いから美味しいお茶の淹れ方って知らないんですよ。
だから、僕はそれを根っこから、子供から教育せなあかんと思って淹れ方教室をやってるんです。
安:僕はこの教室をやるのに、北は北海道から南は九州まで全国に530件メールを送った。で、函館で1件、仙台で1件、いわき市で1件、栃木で1件やってほしいって依頼がきた。
だからお茶屋さんがちゃんとした淹れ方教室やれば人は来るよ。本来はそれは農協とか会議所とかがせなあかん。金儲けのことばっかりで実際やらへんやろ?
そんなね、生産農家を潰してしもたら問屋もないわけやし、問屋を潰してしもたら小売もなくなる。みんな一体なんやからそこらをもっと考えなあかん。僕みたいな80過ぎた爺さんが言うててもあかん話やけどね笑
そやけど私は今でも私のやれることは小さなことやけど、今抹茶ごっことか使ってもらって、まずはお茶に気軽に触れてもらうことが大事なんやろなと思う。
自分は力も何も無いけども、資産突っ込んでお金かけて、印刷物作って触れ回ってやっとるんですね。
鈴鹿の茶畑を上空から
住田正樹さんに許可をいただいて、住田製茶の茶畑をドローンで撮影させていただきました。
綺麗に整備されているのがよくわかります。鈴鹿山脈の麓で長年お茶製造に携わってきた農家の方の努力の結晶ですね。
無農薬のお茶は栽培出来ないのか
た:素人考えで申し訳ないんですが、EUなど規制が厳しい国向けに、例えば無農薬栽培や農薬を薄めて散布して撒いて育てることはできないんでしょうか?
住:それはオーガニックって言ってやってるところはあるんやろうけど、まず収量がとれなくなります。あと価格もそれほど高くもできないし、それで経営がやれればいいんですけど。
安:あと無農薬やるとね、味がね、苦くて飲めたもんやない。
た:無農薬だと苦くて飲めなくなるというのは意外だったんですけど、それはなぜですか?
安:お茶の新芽というのは非常に繊細で、その水分や養分を吸ったり葉っぱを撒いたりするいろんな虫がおります。だからそんな虫がつかないように冬から春にかけて一生懸命生産農家は努力してるわけです。
た:私自身は農薬=生産効率アップ、無農薬=味がよくなるみたいな思い込みがあって、今のお話を聞いてそれは全然違うんだなと感じました。一般の方で、今のお話の内容を知っている方って、ほとんどいないんじゃ無いかと思います。
安:お茶だけでなく野菜や畜産など食品に対していろんな考え方はあると思います。まず一番大事なことは、美味しいこと。それがまず一番。それがなければいくら無農薬や減農薬とか理屈言っても相手が買ってくれやん。
消費につなげようと思ったら、まず美味しさ。もちろん農薬とかも基準・安全を守って生産しているというのは大前提やけどね。
この記事を見ていただいた方への期待
た:この記事が一般の方や業界の方、誰かに届いて何かしら購買や現状を知っていただくことにつながれば嬉しいんですが、記事を見ていただいた方に何かこうしてほしい、こうなってほしいという期待はありますか?
住:みんな急須で入れるお茶ってあまり知らないと思うんですよ。手軽に飲みたい、湯を沸かすのもめんどくさい、水出しの方がいい、コンビニのペットボトルでいい。というのが大半やと思うんです。僕らは急須で飲むお茶を生産してるんですよ。ただ、僕らのやり方を変えていかなあかんのもわかってるんです。
コロナでこんだけ景気が落ちた時に投資も出来へんし、急須のお茶もみんなに飲んでもらえればいいんやろうけど、急にそれが変わるということも想像できへんし、僕らの生産する荒茶というのを、その形を変えても皆の口に届くように発信したいかなと思います。
た:四日市って萬古焼が特産品ですよね?例えば急須がないご家庭も多いのであれば、萬古焼をされている方とお茶農家さんが一緒になって急須もお茶も広めていく普及活動っていうのは何かないでしょうか?
住:僕らも茶業組合の取組で1年の冬の時期に鈴鹿市中の学校や公民館をまわってお茶淹れ教室みたいな感じでやるんですよ。いろんな淹れ方を比べてどれが美味しいか?って感じで。急須で入れたのを見て「こんなん初めて見た」っていう子供さんも多いし、あったかいのと冷たいのどっちが美味しい?って聞いたら「冷たい方」って返されるし笑
僕らそれら学校にお茶を無料配布するんですよ。インフルエンザが流行る時期に。何でかって言うと、お茶でうがいしてもらうためなんですよ。うがい運動って。お茶うがいをやらなかったらインフルエンザにかかったという声も聞こえてくるんですけど、全部の学校に配ってやってるわけなので、お茶うがいしてないところとしてるところの比較は出来ないですよね。
これだけ売れないようなら、全部小学校に配ってもよかったのかなって思いますけどね。
あとがき
お茶の生産とそれを我々消費者に届けるため日夜努力している方々の生の声をお伺いする機会を持てたことは非常にありがたかったです。
コロナの影響で打撃を受けている事業者の方はたくさんおられますが、声を上げる、その声を届けるということが難しい方が大半なのが現状だと思います。
何か現状を打破するきっかけとなれば嬉しいですし、この記事が拡散されて何かしら購買運動につながればと思います。
★住田製茶のお茶に関するお問い合わせ、ご購入は以下まで。
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丸源 住田製茶 住田正樹さん
〒519-0315 三重県鈴鹿市山本町1551
TEL・FAX:059-371-2695
MAIL:masakisumita19761129@gmail.com
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ご協力いただきました皆様、ありがとうございました。
(第3回 「お茶バカ爺さん」安田賢二さんの取り組み に続く)
大紀町錦出身、松阪市嬉野在住。現在は三重郡川越町でドローンのお仕事をやってます。
トレラン、カヤック、ドローン空撮、ガジェット、格闘技、中国哲学(陰陽五行)と妻(新婚3年目)が好き。無為自然とテクノロジー、地域の素敵を空からお届けしたい! 得意ジャンル:ドローン空撮、地域資源、地域観光、自然アクティビティ、格闘技、イベント