ホーム 00Otona Act 地域課題 【連載:第1回】三重県のお茶農家の今 コロナの影響を受けて @鈴鹿市 住田製茶

【連載:第1回】三重県のお茶農家の今 コロナの影響を受けて @鈴鹿市 住田製茶

今回は四日市市水沢町のお茶加工・販売会社「株式会社アンティ」安田社長に鈴鹿市のお茶農家住田さんをご紹介いただき、取材させていただきました。

「お茶バカ爺さん」として緑茶の普及活動を続ける安田さんと、鈴鹿市の老舗お茶農家である住田製茶の住田正樹さんの対談をもとに、コロナウィルスの影響を大きく受けているお茶農家の現状と今後の展望について取材させていただきました。


取材先:住田製茶 住田正樹さん(以下、

ご紹介者:株式会社アンティ 代表取締役 安田賢治さん(以下、

記者:たいぽん(以下、


 

緑茶の市場と茶葉の用途

 

た:早速ですが、今回安田さんからご紹介をいただきまして、コロナウィルスで大きな影響を受けている三重のお茶農家の方の現状をお伺いさせていただけますか?

株式会社アンティ 代表取締役 安田賢二さん
株式会社アンティ 代表取締役 安田賢二さん

安:住田さん、僕は抹茶メーカーのI社に今年の2月ごろに電話した時に「今年はお茶が余っとるから、2〜3割減らしてくれ」っていう話があって、実はコロナが本格化する前からそんな話をちらほら聞いとった。

その時は、はーそうかくらいにしか思ってなかったんやけど、3月からコロナが本格的に広がって、政府の指示で貿易がピタッと止まった。そしたら輸出ができないからI社は鹿児島や取引先にストップをかけたんや。

もちろんI社が悪いわけではないし他の会社さんも一緒なんやけど、コロナをきっかけに連鎖反応が起きてお茶市場の相場が底抜けたってことなんですわ。

四日市の水沢町から鈴鹿のこの辺のお茶農家さんも、抹茶用の茶葉を育てていて、大業務用の抹茶と茶道の抹茶、大きく分けてこの2つを栽培してます。そのうち茶道の抹茶は全体の2%くらいしか生産してなくて、業務用つまりお菓子やアイスクリームに使う抹茶なんです。

特に冷菓、アイスやジェラートに入れる抹茶は、日本だけじゃなく世界、例えばイタリアのジェラート用にもたくさん輸出してるんです。

引用:壽々喜園浅草本店
引用:壽々喜園浅草本店

最近ではそのジェラート用の市場を中国が狙っているんですわ。

中国のことはさておいたとして、要はお茶は煎れて飲むお茶や茶道の抹茶よりも、ほとんどが加工食品の原材料として取引されているということなんです。

今回のコロナの影響は、加工用抹茶の輸出が止まって大手加工卸の企業がお茶農家さんからの仕入れをストップかけたっていうのが、一番大きな原因なんですわ。

結果的に今年は去年の半値くらいになって大変な状況になってしもてる。

た:半値ですか!?

 

住田製茶 住田正樹さん
住田製茶 住田正樹さん

住:そうですね、そのくらいの値段ですね。

安:農産物で半値って、1割2割値段が落ちても大変やのに、経営にめちゃくちゃ響いてるわけですよ。普通やったら立ち上がれないくらいに生産農家はなってるということなんです。

住:例えば一番茶の話をすると、売る時に相場が底値になってたというのはもちろんあるけども、売る前から、新茶が始まりますって前の時期から取引先に「この量やと買えるけども、それ以上やとうちは買い取れません」って言われて、それは初めてのことやったんです。

うちはお茶の木に黒いネットをかけて「かぶせ茶」っていうのをメインでやってて、例年ならそれも煎茶用の茶葉も全量作ったら作っただけ買い取ってもらえたんやけど、かぶせ茶もいりません、煎茶もいりません、って。

いろんな経費かけたりしてきたんで、ここまで相場が落ち込むことも、全量買い取ってもらえないことも誰も予想してなかったことで。

お茶を育てるのに経費はかけたけど、売る前にいらんって言われたり、それで売る時も半値って言われて、うちとこだけでなく他のお茶農家さんもみんな困ってしまってる状態なんです。

 


世界の中の緑茶=日本茶

引用:Beautiful Tea Life
引用:Beautiful Tea Life

た:単価が下がっている原因は、お茶市場が伸びてないからなのか、中国を始めとした他国の生産量が増えて価格競争力で負けているからなのか、その辺はどうでしょうか?

安:日本ではお茶農家が生産するお茶はどんな形であれ全て市場に流通していた。止まったことがなかったんですよ。

鹿児島は一番南であったかいから出荷も鹿児島から始まるとお茶屋さんはよく言うわけやけど、国内シェアとしては静岡が50%以上、鹿児島が22%くらい、三重が7-8%、この三県で国内市場の8割くらいを占めてる。その他は京都や福岡かな。全国で16県ほどで生産しとる。

残念ながら緑茶の場合は、マーケットがほとんど日本しかないんですわ。

緑茶の輸出統計見てもらってもわかるように、中国が75%、ベトナムやインドネシアがそれに続いて、日本は2千トンと全体の1%もないんですね。

引用:京都府_緑茶の輸出量_2012
引用:京都府_緑茶の輸出量_2012

安:なぜ輸出量が少ないかと言うと、やはり農薬を使用している影響なんです。

キャベツなどの野菜と同じくお茶も葉物野菜で、農薬自体も改良されているし栽培方法もよくなったから取れ高も向上してきた。

昔から寒暖差がある土地のお茶はおいしいお茶で珍重されてきたし、こちらんお山本町の土地は水捌けが良くて良いお茶が取れる。すなわち高級品として取引されてきた。

日本の茶畑で言うと、静岡の牧之原市が標高約80m。水沢町や鈴鹿のあたりも同じくらい。鈴鹿市の山本町で100mくらい。

それでも害虫の幼虫が冬に土中で死んでしまうような高冷地と違って、美味しいお茶を生産するためには、どうしても害虫を防ぐための農薬が必要なんですわ。

お茶の輸出は、特にヨーロッパは食品の安全を強く求める国が多くて、フランスなんかはシャンゼリゼ通りを消費者がデモ行進するような国。

ヨーロッパはオランダを中心に農業が発展している国だから、環境・食に関しては非常に先進国。日本はGMO作物を大量生産するようなアメリカを見て動いているから、ヨーロッパの動きについていけてない。

そういったところが輸出がなかなか伸びない原因なんですね。

今までお茶農家さんは畑にもの凄く投資して、畑にお金をかけて肥料も買って、お茶が病気にならないよう薬を使い、害虫を防ぎ、そうやって丹精込めて一生懸命作ってきた。

今回のコロナ問題で、そうして作ったお茶が買取りできないという状況になっているのが今のお茶農家さんの現状なんですよ。今までは生産した分全てが流通業者の冷蔵庫に100%行き渡っていたのが、今年はそれがいよいよ崩れてしまった。

お茶農家さんの悲痛な思いというのは、一言で言えるようなもんではない。それはこちらの住田さんや他のお茶農家さんから伝わってくるんです。

 


茶業組合などの動きは?

伊勢茶_三重県茶業会議所
伊勢茶_三重県茶業会議所

た:生産農家さんと小売・卸売業者さんの力関係から、野菜の買取保証がされなかったり直前でキャンセルされてしまった事例は、他の農家さんから聞いたことがあります。例えば、お茶農家は茶業組合や業界団体を通じて小売・卸売業者の方との話し合いをされる予定などはあるんでしょうか?

住:例えばこの地域の山本町の「山本茶研究会」があります。父の代だと60人以上いたのが今では10数名です。共同工場のことを考えると、それがさらに3軒か4軒になります。その上位には鈴鹿市が管轄している鈴鹿市茶業組合があり、その上に三重県茶業会議所があって、ここが県全体をまとめています。

以前鈴鹿の茶業組合の会議に参加した時の話なんですが、そもそも三重県は県内の需要が少なくて県内だけでは市場として成立しないんですよ。そこに出しても引き合いがなく買い手がないから売れない。

三重県はまた入札形式というわけでもなく、市場で値段がつかないから結局市場外で業者同士の相対取引になってしまう。

最終的に残ったお茶だけが公開されている市場での取引になってしまう。

そうしないと売れない構図になっている。

取り合いするような商品なら市場で値段がつくんですけど、今回のコロナの影響でお茶が売れなくなっているというのは、おそらくですけどお茶問屋さんじゃなくて、最終お茶を使ってくれるコカコーラやサントリー、伊藤園みたいな大手飲料メーカーが買ってくれない、買えないという状況になっているんじゃないかなと思うんですね。

 

引用:コカコーラ_綾鷹 オリンピック記念デザインボトル
引用:コカコーラ_綾鷹 オリンピック記念デザインボトル

 

住:大手飲料メーカーは、2020年にオリンピックが開催されるという予定で、去年原料のお茶を多く仕入れているんですよ。

でもオリンピックが延期になってしまって、さらにコロナで海外への輸出も国内の物流も崩れた。ニュースなどでご存知の方は多いと思いますけども、京都なんかは海外の観光客がいなくなってしまったので、その方々向けのお土産品、お菓子やお茶加工品なども売れなくなってしまった。

だから原料のお茶の在庫が余っているから、保管する冷蔵庫もいっぱいで新茶が売れないという図式になっている。

だけど僕らはそんなことは予想してなかったから、作った分はなんとか市場外でも売る努力しますが、市場しか売り先がない農家さんはどうしようってなったと思います。

安:売れなかった分は結構廃棄してしまったん?2番茶はやっぱり捨ててしまった?

住:今回は梅雨も長かったからそもそも刈り捨てして生産調整しないといけないのもあったけど、それでも2番茶は3くらいは捨てました。

茶畑の比較
茶畑の比較

住:ドローンの写真で見るとわかりやすいですけど、畑の色が違いますよね。

この写真の手前左側の黒っぽい色の畑が2番茶の刈り取りをして出荷した畑、真ん中の薄い緑色の畑は左の畑より少し早く2番茶の刈り取りをした畑。

右側の鮮やかな緑色の畑は2番茶が出る前に葉先を刈り捨てしてしまって、出荷したくても出来なかった畑です。

 

2番茶を刈り捨てした畑
2番茶を刈り捨てした畑
2番茶を刈り捨てして出荷できなかった畑
2番茶を刈り捨てして出荷できなかった畑
ご自身の畑で解説いただく住田さん
ご自身の畑で解説いただく住田さん

住:そもそも大手の飲料メーカーさんは、年間の売り上げとか需要とかを計算して原料のお茶を仕入れてますし、オリンピックでキャンペーン品とかの増産分も見越して昨年は仕入れているわけですから、3月にオリンピックが延期になって、需要が減る、だから去年のお茶の在庫があるから仕入れられない。それらが一気に来たのが今回のコロナです。

誰が悪いとかでは全然ないんやけど、、、

 

(第2回に続く)

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