土曜日の午前9時。
誰もいない商店街。
カメラ片手に学生が遊ぶ。
若者のまなざしの可視化
この日は大学生や高校生と一緒に、
津市の大門や丸之内を歩きながら、
若者視点で魅力を発見しようという
撮影ワークショップ。
「歩きながら”面白い”と思ったところにシャッターを切ってみてください」
そう言ったのは今回の講師である
写真師の松原豊さん。
写真師、松原 豊さん
公式HP https://www.matsubara-yutaka.com
三重県津市出身。津市在住。名古屋ビジュアルアーツの講師であり、伊勢神宮式年遷宮記念写真担当、大人のローカル誌季刊NAGI、銭湯巡業(月間Simple)、TURNSなどなどカメラマンを担当し、村の記憶など写真作家としての活動も行う。2012年三重県津市文化奨励賞受賞。
実績詳細 http://www.murakio.com/profile.html
また、まちあるき撮影会などの講師も担当。
松原さんのアドバイスにより、
明るさ・ズーム・縦横などを変化させ、
街の表情が変わる様子を体感する学生さんたち。
若者のまなざしの可視化に、
わくわくする大人たち。
新しい視点で、カモン!ニューデイズ!
「日本っぽいなーと思いました」
まず切り取った街の断面を、
披露してくれたのは、
ブラジルからの女子留学生。
車・看板・店名や並び方に、
日本っぽさを感じたとの解説になるほど。
ちなみに彼女は、
一眼レフカメラを買ったものの、
あまり使えていないという。
「母国だと盗られちゃうし、普段だとスマホで済ますことが多くて。だから今日はちょうどいい」
またまたなるほどな理由。
次に披露してくれたのは、
「髪を青く染めたばかりで」と、
掌や頬にまで青い染料をつけ明るく笑う女子大学生。
彼女がシャッターを切ったのは、
身近なところに潜む不思議な佇まいの
反絶景ポイント。
続いては、
インドネシアからの留学生。
ふと見降ろしたアングルで、
パシャリと1枚。
「目立つ赤いビル。でも屋上にある室外機の存在感は薄い。正面を見ているのにどういう気持ちなんだろう」
そんな室外機を擬人化した世界観を、
魅せてくれたのは女子高校生。
「昭和って感じ、好きなんですよねぇ」
と語るのは旅先で撮った写真を、
SNSで紹介するのが趣味という男子大学生。
もっと写真に深みを出せるよう、
今度は勇気を出して、
店主のインタビューにも挑もうと思ったというキッカケフォト。
他にも、
「カワイイ」と感じたという風景。
「どういう事?!」
と二度見してしまう電球事情。
「なんとなく可愛い」
と激写したモデル。
まるで胸中見透かされるような看板などなど。
彼ら彼女らから見ると、
昭和感が残る街並みはただ古いのではなく、
レトロカワイイになるのだそう。
講師の松原さんの写真もご紹介。
「自分的に楽しい切り取り方をすると、新しい見方ができるよね」
松原さんのお話に皆深くうなずいた。
新しい視点を身に付けることは、
ちょっとだけ愉しみが増える “新しい毎日”
かつてどんな小さな町にもあった履物屋さん
昭和という時代にもう少し触れるべく、
津の中心市街地にある丸之内商店街に店舗を構える、
大谷はきもの店さんを訪ねた。
創業130年の老舗である。
お話を聞かせてくださったのは、
昭和初期生まれのご主人。
勤めていた銀行を定年退職後、
母親が営んでいたこの履物店を継いだ。
「うちの商品は下駄と草履のみです。履物屋というのは若い人には馴染みないかもしれませんが、昔は魚屋や八百屋に次いで地域に多かった店なんですよ。日本人の生活に結びついていたんですね。昭和30年以降からは靴の文化へとかわり、日本の履物を履いている人を探す方が難しくなってしまいましたね」
そう仰るご主人だが、
今も日本の履物に愛着がある人や、
特徴や履き心地、外反母趾予防等の健康目線でも、
じんわりと人気を博しており、
連日、電話やインターネット、FAXにて、
国内外からの注文が絶えない。
またアスリートのトレーニングにも、
草履が着目されており、
大手総合スポーツ用品メーカーASICSから、
研究・指導依頼を受けたこともあるのだそう。
そんな日本伝統の履物を、
試し履きさせてもらう学生さんたち。
足裏にフィットする本たたみ。
指と指の間にキュッと入る鼻緒。
「履いた時の感触がとても気持ち良いです」
「畳の上に乗っている感じがなんか落ち着く」
「昔、おばあちゃん家にあったから懐かしい」
「可愛い」
など感想が飛び交う。
江戸時代には、
草履(雪駄)は男の貫禄のシンボルで、
足元を見れば懐具合がわかるとも言われていたそう。
昭和・大正・明治を超え、
わらじを編んで履いていたその昔に思い耽る。
令和の時代でも、
手作りの草履を履きこなすことで、
凛とした足元を手に入れられるかもしれない。
笹流しの原点
引き続き、
大谷はきもの店のご主人にお話を伺う。
「この商店街もシャッター通りと言われる状態になってしまったけれども、毎年の七夕まつりには歩けないくらい人がいるんだよ。若い人たちの目線で地域活性化に関心を持ってくれるのはありがたいね」
大谷はきもの店の近くには
岩田川が流れている。
つ七夕まつりでは子どもたちが
岩田川に短冊のついた笹を流す
笹流しが毎年行われている。
当日は津青年会議所が中心となり
川に流された笹を集めるなど
岩田川の清掃活動を行っている。
実はご主人は、
毎年行われている岩田川清掃活動の発起人。
かつては”日本一汚い”と言われる程
汚れていた川に危機感を抱いたご主人が、
55歳の時、たった1人で清掃を始めた。
自転車やスクーターの投棄場所を地図に記し、
重機や通信無線の免許を取り、
潮の満ち引きにあわせて、
ロープと重機で引き揚げ、
廃棄場へ持ち込むという作業を続けていた。
着手してから半年経ったあたりから、
協力する個人や団体、企業が現れ、
当初の3年間計画は1年半で完了。
結果、笹流しが出来るまでに川の美しさが戻った。
今年の七夕まつりを楽しんだ学生さんも、
笹流しのきっかけとなった清掃活動を知り、
「すごいです!!」と驚きをみせていた。
新しい時代への架け橋となるパッション。
ノスタルジックなレトロが映える
半日かけて歩いた撮影ツアー。
学生さんたちはどう感じたのだろうか。
・写真を撮る目的で歩いたことなかったから色々発見があって面白かった
・インスタ映えなスポットって観光地だけでなく日常にもあるんだなと思った
・虚無感みたいなのもかっこいいと思った
・また10年後にこの街はどう変わっているのかなと想像しながら歩いた
・ノスタルジックがいっぱい詰まっていた
・写真の撮り方を変えると世界観もかわることが実感できた
・今度は撮影とあわせてインタビューまで出来るよう意識してみようと思った
・今まで寂しい街と思っていたけれどちょっと見方を変えると面白さがいっぱいあった
・古いものを実際に見たり触ったりして、おばあちゃんから聞いていた話がまだ身近にあるんだなって思った
・昭和レトロはやっぱりかわいい
若者のまなざしで捉えた街のニュアンスや表情。
さぁどうぞ的なインスタスポットも惹かれるけれど、
リアルな時代やストーリーが詰まった
何気ない日常を切り取るの面白みに、
意識を向けるきっかけとなれば、
昭和生まれの人間としても嬉しい。
そんな気持ちで、
振り返りながら交わす学生さんたちの談義を、
”若者好きそう”
という偏見たっぷりの大盛ガッツリ弁当と共に、
愉しんだ撮影ワークショップとなった。
学生さん募集!
一年を通じて、津市の魅力を学生さんと発掘し、伝えていく事業を行っています。ご興味のある学生さんは、ぜひ連絡ください。
▼今までの学生さん連携の記事一覧▼
https://bit.ly/2HFimDF
▼ご応募はこちらの記事から▼
https://otonamie.jp/?p=50082
<取材協力>
大谷はきもの店
住所:三重県津市丸之内28−41
電話:059-228-2398
URL:http://anotsubaki.free.makeshop.jp/
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事