・・ゃくさん
・きゃくさん
(・・・?)
店主「お客さん、起きてな。」
「ううん、あぁ・・・」
店主「お客さん、ごめんやけど、もう閉店の時間なんさ。」
まどろんだ目をこすり、あたりを見渡す。
ここは「日本酒バル 蔵」
三重県35蔵の地酒が飲める伊勢市駅近くのお店だ。
「あー・・・寝ちゃってましたね。」
時刻は午前0時を迎えようとしていた。
「日本酒バル 蔵」を後にする
店主「 まぁ1日で35蔵の日本酒を飲み比べしようとするのは無謀やわな。」
と店主は笑う。
記憶の中ではまだまだイケるで!とおだてられたような気がするが・・・まぁ良しとしよう。
「お水をいただけますか?」
店主「横に置いてあるで。」
今度は僕が笑った。
氷の入った水を一気にあおり、席を立つ。
少し頭がぼーっとするが、足腰は大丈夫そうだ。
店主「ちゃんと家まで帰れるん?」
「大丈夫ですよ。タクシーを拾うか、何とかして帰ります。いうほど遠くないんで。三重県の地酒制覇を目指して、また来ます。」
店主「そうか、今月は伊勢志摩SAKEサミットが高柳商店街であるからな。うちで飲んだ分と合わせて、35蔵制覇頑張りや。あと、気ぃつけて帰りない。」
お会計を済ませ軽く会釈をし、店がある2階から1階へと階段を降りた。
タクシーを求めて、伊勢市駅方面に歩く
空はもちろん真っ暗だったが、伊勢市駅周辺は案外明るかった。
タクシーを拾えるかもと思い、伊勢市駅方面を目指す。
ただ、信号待ちの時間で伊勢市駅方面をじっと見ていたが、あまり期待できなさそうだ。
それでも、とりあえずは歩いて行くことにした。
タクシー乗り場に到着しベンチに腰掛けて少し待ってみる。
案の定、タクシーを拾うのは大変そうだ。
(さて、どうしようかな。電話でタクシーを呼ぶか、それとも・・・)
可能性は低いが携帯を取り出し、LINEで救助要請を出しておく。
じっとしていても仕方がないと、携帯を後ろポケットにしまい、両膝をグッと押して重い身体を椅子から立ち上がらせた。
その時、ふと横に目を向けると・・・
伊勢市駅前の鳥居方面が提灯の明かりで幻想的に道を照らしている光景に目を奪われる。
しばらく、幻想的な明かりを眺めていた。
(酔い覚ましにもちょうどいいかな。)
僕は引き込まれるようにして鳥居をくぐり、「伊勢神宮外宮」方面へゆっくりと歩き出した。
昼とは違う魅力あり「夜の外宮参道」
伊勢市駅周辺は数年前に比べて、新しいお店が次々とオープンしている。
「日本酒バル 蔵」を始め、飲み屋さんも多くなってきた。
時間も時間なので人気は少なかったが、ちらほらとすれ違う人もいるのは僕と同じようにどこかで飲んでいたからなのだろう。
提灯の明かりに導かれながら、とぼとぼと外宮参道を歩いていく。
閉まったお店を眺めながら、ソフトクリームやコロッケなどを食べ歩く人でいっぱいの、昼の外宮参道を思い浮かべる。
「昼の楽しい外宮参道」と「夜の幻想的な外宮参道」
うん、どちらも良いものだと勝手に自分の中で納得する。
「伊勢神宮外宮」の近くになり、淡いオレンジ色の光が目の前に広がってきた。
左上を見上げると、建物に設置されている時計がある。
じっと見てみたが、眩しくて何時か読みとれない。
(やっぱり酔っとるな。ちゃんと帰れるかな。)
幻想的な光景とほろ酔い気分が重なり、自分がどこへ向かっているのか、よくわからなくなってきた。
(・・・家に帰らなあかん。)
思考がうまく働かない頭をフル回転させて回答を導く。
「伊勢市駅」から「伊勢神宮 外宮」の入口までは約600mほどだが、少し疲れてきた。
(少し休憩しよう。)
僕は脱力するように、目の前のベンチにドスッと腰掛けた。
自宅までは道半ば。少し途方に暮れていたその時
ガン!とベンチに何か固いものが当たった音がした。
固いものの正体は後ろのポケットに入れていた携帯だ。
何気なく取り出して覗き込む。
(・・・・着信が5件もある。)
ロックを解除しようとした時、6回目の着信が鳴った。
そこには、母親の名前が表示されている。
(ああ・・・そういえば救助要請を出したんやった。)
携帯の着信に応答する。
「もしもし。」
母「あんた今どこにおんの?」
「外宮さんの入口前におる。」
母「外宮さんにおるん?伊勢市駅に来てってLINEしとるから、伊勢市駅におったわ。そっちに行ったらええの?」
「はい、お願いします。ごめんなさい。」
申し訳ない気持ちを抱きながら、両ポケットに手を突っ込み天を見上げた。
すると・・・右ポケットに何か入っている。
どうやら何かの紙みたいだ。
紙の正体は「日本酒バル 蔵」にあった星座おみくじ「魚座の紙」。
おみくじは引いた覚えが全くない。
僕はおみくじを見ずに、ポケットにまたしまいこむ。
おそらく運勢は良いだろう。
それと「親に感謝しなさい」そんな一文が書いてあるような気がした。
(後は・・・「飲んでも呑まれるな」とかかな。)
酔いも少し覚めて、頭の回転は少し戻ってきたみたいだ。
記事に登場した関連リンク
【外宮参道GoogleMAP】
※.本記事の物語は、筆者の経験を元にはしていますがフィクションです。
取材:2019.4月
濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。