ホーム 04【知る】 “私が毎日、魚市場に通う理由。”老舗の味を受け継いだ干物屋の物語@南伊勢町贄浦

“私が毎日、魚市場に通う理由。”老舗の味を受け継いだ干物屋の物語@南伊勢町贄浦

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あんた、タチウオの干物食べたことないの?

魚よしという干物屋さんを取材したら、
“豪華絢爛な”おもてなしに出会った。

南伊勢町贄浦にある魚よしの店主、ふみかさん。

店内のストーブの上から、
干物の焼ける匂いがする。

これからお見せするのは、
漁村の“贅沢な”日常の一部だ。

「ウツボなんて僕、人生で一度しか食べたことがありません。
レアな魚が置いてあるんですね……」

え!あたしらふつう。

だって贄の子らはストーブで炙って、おやつで食べるよ。

ウツボはやっぱりな、これくらい細くしてな、

カリカリに焼くと全然違うに。

キビナゴは食べたことある?

フライパンんでやくんやなくて、ストーブとかで焼きもんでな。違うやろ、カリってするやろ。

キミナゴはな、独特の香りがあるんさ。

苦味までいかへんけど、ちょっとこう、折れる場所があるんさ。苦くないよって。わかってくれるかいな。

「そんなんばっか食べてるとな、南島の顔になってくる。
アッハッハッハ。

漁村の日常は、贅沢で味わい深い。

ストーブの上から繰り出される魚の味。
それが贅沢でなかったら、一体なんというのだ。

ただ魚を焼いて食べて。

じぶんらはおいしいんやんな。

でもマチの人らにとったら、

こんなん食べるの貧乏ちゃう?

“マチの子”を代表して断言する。
この手のひらの上にあるのは、贅沢だ。

なんでもないものがな、ほんとうにうまいんやんな。

たしかに、マチじゃ絶対できんことやな。

そう、これは“ここだけ”の味。
漁村に来て、良かった。

贄浦の市場で、男たちに紛れる紅一点。

魚よしがあるのは、南伊勢町に数ある漁村のひとつ。
名前を贄浦(にえうら)という。

贄浦の市場には毎日行っとるよ。
朝7時にはおる。

魚よしは朝、市場で魚を仕入れ、
その魚で干物をつくって、販売している。

ふみかさんの仕事風景をみるために、
南伊勢町・贄浦の市場を訪れた。

血気盛んな男たちに紛れて、
水揚げをチェックするふみかさんがいた。

前日に降った雪。
天候不良で大型船が臨時休業。

市場に魚は少なかった。

アジの丸干しなんてのは、百円以下で買いたいんさ。
でもいましは三百円もする。
ああ、今日もアジ作れんなー。

獲れ高が商売に直結する。
市場の世界は博打的だ。

贄浦大敷が、漁から帰ってきた。
水揚げに期待が高まる。

じっと見つめる。
いつになく真剣な表情。

しかしその日は、大敷も不漁だった。
こればっかりは、どうしようもない。

大敷網の乗組員は、大きい。

おって当たり前。贄浦はじぶんの居場所。

ふみかさんは生まれてこのかた、
ずっと贄浦にいる。

地元の高校卒業して伊勢の会社に就職したんやけど、

贄から通っとった。アパート借りずにな。

贄以外に行きたいとは思わへんだ。

同じ地元の子も一緒のとこ就職したんやけど、

その子は伊勢でアパート借りて1人暮らししとってな。

泊まってきないって言うんやけど、それも嫌やったん私。

生粋の贄っ子。
そこまで彼女を惹きつける贄浦の魅力を聞いた。

なんかしらんけど、ホッとするんさ。

伊勢から帰ってきて野見坂峠を下ると、“着いた”って。

それがものすごい楽っていうか、安心するんかいな。

知っている人と、馴染みの土地。
そんな場所が一番、じぶんらしくいられる。

ちっちゃい頃から魚触っとったでさ、なんも苦にならんの。

市場の若い子とアホなことばっか言うとるのが楽しいの。

贄はじぶんのおる場所やな。おって当たり前。

なくしたくない味を受け継ぐために。

魚よしはもともと、新宮屋という干物屋だった。
今から14年前。跡継ぎがいなかったために、新宮屋商店は店を畳む決断をした。

贄浦の風景。

しかしこのお店がなくなるということを、
ふみかさんは受け入れられなかった。

新宮屋商店にはな、鰹節削る機械置いとってな。

私らちっちゃいときアルバイトで削り番に行っとったの。

干物作りに行ったり、魚干しに行ったり。

お父さんとお母さんがそこで働いとったもんでな。

そう、新宮屋は思い出の場所。

もったいないやんと思ってきたん、店がなくなるのが。

それに、自分が美味しいって食べとったもんがな。

美味しい魚の記憶。
ふみかさんにはどうしても忘れられない味がある。

photo by Fumika Matsumoto.

カマスの塩辛だ。
めったに食べられず、作るのにたいそうな手間がかかる。

カマス開くと、あげ(エラ)あるやん。内臓あるやん。それを胃袋の中まで小出刃できれいに掃除するんさ。それから胆嚢(たんのう)。あれもつぶさんようにきれいにとるんさ。

カマスのエラ・内臓をきれいに取り除いた状態。 photo by Fumika Matsumoto.

新宮屋の教えを貫き、水で洗うということはしない。
えんえんと、小出刃を使って汚れを取り除く。

それが終わったら塩をして、混ぜて一週間寝かせれば、
カマスの塩辛が完成する。

魚よし一押しのメニューだが、
大量生産できない理由がある。

カマスの身も一緒に売れてってくれたらええけどさ、
そういうわけにはいかへんやん。

カマスの身を開いたときに、できたぶんだけ。

いってみれば、この塩辛は希少部位からつくる。
量がとれなくて、だからとてつもなく貴重だ。

 

これがちっちゃい頃から大好きでな。新宮屋のじいちゃんがつくっとったん。

贄の人らは酢つけて、ご飯乗せて食べる。私は酢もつけんと、そのままご飯。

もうこれ、生唾でてくるくらい食べたなってくる。

新宮屋の味。
それはふみかさんが育った贄浦の食卓の味。

だから、なくしたくなかった。

ほいで自分が後継ごかって言うた。
新宮屋さんに話したら、そのまま味継いでもらったらええよって。

平成17年の3月。
味を引き継ぐカタチで、魚よしは歩き出した。

市場の戦の戦利品。

市場の競りが始まる。
仲買人たちとの戦いだ。

魚は1番高値で落とした人のもの。
わかりやすくて、そしてリアルだ。

木の札に白いチョークで値段を書いて、見せる。

数字は書き換えられない。
最初に提示した金額で決まる。

高く買いすぎても、損。
安すぎると、目当ての魚は誰かのもの。

みんな、しかめっ面。

 

ーーー

ふみかさんはその日、
カタクチイワシを競り落とした。

手に入れたカタクチを掬って、丹念に洗う。

氷が混じっているだけでも、
この後塩漬けするときに塩分濃度が変わる。

魚よしの“味”は、変えたくない。
だから、一つひとつの作業を丁寧にする。

太陽を浴びて美味しくなる魚たち。

魚よしの干物は、必ず天日干しだ。

いまはな、そんなにようけおらへんやんか。

お客さんも地元の人もな。

せやもんで、天日干しで、ちょっとずつ。

そしたら新鮮なもんをお客さんに食べてもらえるやん。

限られたお客さんに、
できるだけ美味しく魚を食べてもらうこと。

それがふみかさんの“想い”だ。

この手が、大切な“味”を守ってる。

 

ーーー

取材終わりに、一枚の写真を見せてもらった。

息子が昨日入籍したんやけどな。
年末にな、なっとしても兄ちゃんになんか持たせてやりたかったもんで、これ、刺身にしたの。

Photo by Fumika Matsumoto.

こんなものが食べられるとは、羨ましい。
息子の歳を聞くと、僕と同い年ときた。

どう、こんな母ちゃん。最強やよ。

あんたも嫁さんもらったらいいないな。

お母さんちゃんとしたるで。アッハッハ。

ぜひ、お願いしたい。

 

 

最後に、干物と一緒に記念撮影。
とてつもなくディープな取材が終わった。

お土産を持ち帰って食べる。

帰って早速、ふみかさんからいただいたお土産の封を開けた。

タチウオのみりん干し。

小さな子どもが親におねだりする一品。
食感は柔らかくて、お年寄りも食べやすい。

お皿に乗せて食べ始めようとしたとき、
ふみかさんの言葉が頭に浮かんだ。

お母さんはね、ビールが大好きでね、仕事が終わったら毎日飲みます。

なぜ飲むかって?

 

 

美味しいアテがあるからやよ。

 

僕が飲兵衛になったら、干物のせいだ。

この美味しい味の“アテ”のせい。

 

〜魚よし〜
営業時間:8:00〜17:00
定休日:火曜日
住所:三重県度会郡南伊勢町東宮725
電話番号:0596-72-1358

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