あれ、ここカフェだったの??
気付かず通り過ぎてしまう程、
住宅街に静かに馴染んでいる、
カフェテラス「ぶなの木」
その名の通り、
店先にはシンボルツリーのぶなの木。
![](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2018/10/IMY6777-1024x683.jpg)
静謐で幻想的。”気配”に惹き付けられる絵
一歩入ると、
凛とした空気に包まれる不思議な空間。
その独特な空気感は、
店を営むお二人が醸し出しているものだと、
後にわかる。
まず出迎えてくれたのは、
邸宅の主である画家の中野日和さん。
カフェにはギャラリーが併設。
![](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2018/10/IMY6806-1024x683.jpg)
中野氏の作品も、
ゆっくりと鑑賞することができる。
光と影、冷たさと暖かさ。
静寂の中に感じる艶。
気配や息遣い、空気感まで漂ってくる、
穏やかで幽玄な作品の数々。
また興味深いのが、
中野氏の絵は、
本来あるべきものを否定せず、
内側から描かれているところ。
例えばこちらの少女の絵。
静脈から皮膚、産毛と順に描かれている。
その眼差しに媚びはなく、
自らの魅力にすら気付いていない、
少女時代特有の美しさが感じられる。
女性の誰しもが持っていたであろう尊い姿。
カムバック、私の純情…
モーニングはふっくらと仕上がったそばがき
余韻と共に席につく。
出てきたのは、
そばがきのモーニング(650円)
ふっくらと仕上がったそばがき。
箸を入れると柔らかな湯気がほっこり。
つゆを少し浸け、
わさびと共に口に運ぶ。
ふるるんと滑らかで、程よい弾力。
蕎麦の香りが鼻に抜ける。
うんまい。
時々、黒蜜きなこに絡めて頂くのもまた絶妙。
隠れ家のようなカフェで朝からそばがき…
なんだか大人な気分だ。
大将、これに合う日本酒を!
と、粋ぶりたくなるが、
モーニングなので珈琲で。
![](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2018/10/IMY6698-1024x683.jpg)
蕎麦を打っているのは、
元NHKアナウンサーの渡辺誠弥氏。
48歳まで報道アナウンサーを務め、
NHKを退職後、
奈良県高市郡明日香村に移り住み、
宮司の資格を取得。
伝統工芸を守りたいと、
民芸館を開き、
館長を務めつつ蕎麦を提供していたという、
なかなかのゴーイングマイウェイな御方。
ではなぜ、
三重県で蕎麦を打つことになったのか…
その経緯をうかがった。
大切なのはあいうえお。愛・運・縁・恩
昔からの友人だった渡辺氏と中野氏。
中野氏が自宅を改築して、
ギャラリー&喫茶を始めると聞き、
”彼女の才能の力になりたい”と、
この家に移り住むことになった渡辺氏。
まず目に入ったのは、
玄関にそびえたぶなの木。
偶然にも、
ぶなの木の古名はそばの木だと知る。
『神様の導きだと思ったよ』
そう渡辺氏は言う。
運命のぶなの木は、
20年前に中野氏が造園屋にて一目惚れしたもの。
中野氏:幹に熊の爪痕があってね。小熊がよじ登ろうとした姿を想像したら、もう絶対この木が欲しいと思ったの。
ぶなの木は水枯れしやすく、
根付くのが難しいと言われたが、
もう根付いて20年。
渡辺氏:私の出身は関東なのだけどね、アナウンサーになった当時、どんなアナウンサーになりたいかと聞かれ、「伊吹山のようになりたい」と答えたんだよ。多くのアナウンサーは富士山を目指すところ、私の目標は伊吹山だった。これまた三重県との強い縁を感じるよ。
諸法因縁生、縁欠不生。縁を欠くと何も生まれない。縁なんてものは曖昧なものだけど、運が良いというのは縁を繋ぐことだと思うよ。
そして渡辺氏は続けた。
渡辺氏:大切なのは母音の力。人と人との”あいうえお”を大切に紡ぐこと。愛・運・縁・恩。ただ恩はいちいち覚えてたら疲れちゃう。必ずとも与えてくれた人に返さなくてもいい。与えられる時がきたら、送れる人に恩を送ればいいんだよ。
編集の仕事もされていた渡辺氏は、
良き文学を残すべく、
本のプロデュースもされている。
有名無名や上手下手などという、
世間の物差しではなく、
自分の心に良いと響いたものだけを、
大切に纏めた本。
また店内に飾られた民芸品も、
予てからのコレクション。
とにかく博識で、
小気味よいテンポで展開される話は、
聞く人々を惹きつける。
―—そのトーク力の秘訣は??
渡辺氏:常に会話に小見出しを付け、クオーターシステム、つまり15分間を基本単位時間とした編成を意識しているね。
なるほど、さすがアナウンサー!
昼、蕎麦をすする
お昼時を回ったころ、
ぶなの木自慢の蕎麦をいただいた。
美しき十割の更科そば。
技術は、
視覚化と数値化に徹した師から修得。
薬味には、
大根おろしに蝦夷ワサビを混ぜ、
辛みと共に甘みを味わうのがこだわり。
『蕎麦の太い細いは芸のうちだね!』
そう笑う。
――ところで男性は年齢を重ねると、蕎麦打ちを始めるイメージがあるのですが何故ですかね。
渡辺氏:それはあれだな、そば粉を練り上げていく感じが、まるで女性の肌のようなんだよ。吸いついてくるような感触がたまらないのかもしれないな(笑)
――なるほど、そのご冗談、腑に落ちまくりました。
因みに、お食事の惣菜は中野氏が担当。
中野氏:昔学んでいた料理と設計が今になって活きてるの。人生どこで折り合うかわからないものよね。絵は夜に描くのだけどね、基本的に時計は見ないの。見ると起きる時間から逆算しちゃうから。もうそれだけでフラストレーションでしょ。寝たい時に寝る。やりたいことをやる。既成概念に捉われたくないの。
勝手ってやつ。そして生かし生かされる人の道
自分自身を”勝手”だというお二人。
自分の道を自分で選ぶこと。
選んだ道でどう生き抜くか覚悟を決めること。
そして自分を表現すること。
それがお二人のいう”勝手”
中野氏:誰かの人生に乗るのではなく、互いの道に沿って、高め合い、諭し合い、尊敬し合っていく生き方が私はいいの。男とか女とかそういう概念をもっと越えて、人としての関わり方、縁の繋がり方があるんじゃないかな。それは世間の物差しでははかれない。自分が”いい”と思うことをやりたいようにやるのが素敵じゃない。
渡辺氏:人なんてそんな簡単に理解るわけないし、経歴なんてもんはもっと複雑。だから今持っているものをどう活かして、想いを形にしていくかと考えること自体、世間でいうと勝手なのかもしれないね。でもさ、縁を大事にしてりゃ、助けを必要とする相手から力が与えられ、相手を生かすことで自分も生かされる。誰かのためが自分のためになるんだよ。
勝手を生きながら、
生かし生かされる人の道。
そして、あいうえおの循環がうむのは、
想像をもしていないサプライズ。
”ちょっとためになって、ちょっと有意義で、すごく楽しい時間。そんな寺子屋談義みたいなことがここで出来たらいいな”
そうお二人は言う。
ぶなの木が紡いだご縁の袂で、
生きる意味と希望をもらった気がして、
私は目頭が熱くなった。
Photo by y_imura
カフェテラスぶなの木
住所:三重県桑名市藤が丘7丁目916
電話:0594-21-3882
![福田ミキ](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2015/10/0c6abe6ba47f91287c049ca7f0a65986_2-150x150.jpg)
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事