人と人・地域と地域をつなぎ、あらゆる芸術の中で最も多くの人が参加するのが映画。
映画づくりを通して、持続可能な地域のスピリッツをレガシーとして引き継ぐ一助になれれば嬉しいです。
そう語る映画監督 瀬木直貴氏の、
新作『恋のしずく』が、
2018年10月20日 全国公開された。
シナリオありきではなく、
地域の暮らしや文化に根差し、
掴んだ精神文化をもとに、
ストーリーを起こすスタイルで知られる監督だ。
出身は三重県四日市市出身。
また今回の作品で、
エグゼクティブプロデューサーを務めた、
広告代理店 電通の中西康浩氏も四日市市出身。
二人がタッグを組んだ初めてのプロジェクト、
映画『恋のしずく』を紹介したい。
心にじんわり染み入るお酒と恋の物語
舞台は、
日本三大酒処の一つとして、
有名な東広島市西条。
日本酒嫌いの理系女子大生が、
老舗酒蔵へ実習に行くこととなり、
人々との出会いや日本酒造りを通じて、
今までにない喜びを見出していく…
そんな情緒ある物語となっている。
主演は、
昨年7本のドラマに出演し、
本作が初主演となる川栄李奈。
そして実習先の蔵元役には、
本作が遺作となった大杉漣。
その息子役には劇団EXILEの小野塚勇人、
主人公を支える姉的存在には宮地真緒など、
豪華な出演陣が脇を固めている。
お酒がプチプチと発酵していくように、
じっくりゆっくり丁寧に描かれた、
親子、恋、出会いと別れ、そして道…
心にじんわり沁みていく作品なのだ。
瀬木監督と中西P。二人の出会いは四の会
四日市高校出身のお二人。
2学年差で、
瀬木監督が先輩で、
中西氏が後輩にあたるが、
接点を持ったのは社会人になってから。
東京での『四の会』だった。
四の会とは、
瀬木監督が立ち上げから関与している、
四日市出身東京在住者が集うコミュニティ。
二人の距離が近付いたのは2年半前。
中西氏が、
三重県桑名を舞台にした、
映画クハナに携わることとなり、
監督を務めた秦建日子氏に、
瀬木監督を紹介したのを起点に関係が深まった。
持続可能な地域へのレガシー
今や電通のエグゼクティブプロデューサーとして、
各地で活躍する中西氏だが、
元々は映画畑の人ではない。
3年前に桑名市で、
有志の市民による映画クハナが立ち上がった際、
たまたま三重県出身という繋がりで、
引き込まれていった中西氏。
映画製作に関わる中で、
地域が一体となる可能性を感じ、
電通へ”地方創生ムービー”として、
プロジェクト化することを提案。
スポットをあてるのは、
1回限りの観光で終わるようなコンテンツではなく、
サスティナブルであるもの。
尚且つ地域の人達が、
自分事として動くきっかけとなるシンボルであり、
その発信により、
街のアイデンティティ形成の一助になることに、
重きを置いている。
今年夏にも、
地方創生ムービーとして、
秦建日子氏と共に、
栃木県宇都宮市を舞台にした、
映画『キスできる餃子』を公開。
本作品『恋のしずく』は、
地方創生ムービー第三弾となる。
瀬木監督は、
その考え方に共鳴している一方で、
地方創生や地域活性という言葉を、
自ら使ったことがない。
それは映画に出来ることは、
人の心の活性化だと考えているからだ。
自分達にできるのは、映画製作のプロセスや作品を通しての心の活性化。
また人の心が活性化しないと、経済の活性化はないのも事実。地方創生というのはどちらかというと経済の資金循環の話。
とはいえ、
映画ごとに目的は違い、
形態によっては今回のように、
資金経済も回すことができると語る瀬木監督。
恋のしずくでは、
「東広島市西条を全国そして世界に知ってもらいたい」
という地域の想いに触れたことにより、
街と酒蔵にしっかり焦点をあて、
シンボライズした”日本酒”をレガシーとし、
市民の誇りになるような映画をつくろうと、
中西氏へ相談を持ち掛けた。
そして二人はタッグを組み、
事業モデルから一緒に考えることとなった。
お酒が発酵するように物語も育った
瀬木監督の作品は、
「ラーメン侍」や「カラアゲ☆USA」など、
食をフックにしたものが多い。
それは生きとし生けるものとして身近で、
世界に届けられるコンテンツだからだ。
今回、題材とした日本酒は、
庶民から高貴な人まで、
冠婚葬祭等など喜びや悲しみと共に添い、
コミュニケーションのツールでもあり、
癒しでもあるもの。
瀬木監督は、
日本の精神文化が凝縮された日本酒を通して、
人々の生活を描きたいと考えた。
瀬木監督の作品は全て、
オールロケ・オリジナル。
机上でシナリオを練ってから動くのではなく、
街や人に出会うことを大切にしている為、
”日本酒”という題材だけをもとに、
全国の酒処を巡り、酒蔵へ勉強にも行った。
東広島市西条を舞台にしたのは、
選んだのではなく、
出会ってしまったのだと仰る。
7つの酒蔵が軒を連ねた駅前の情景や、
毎年25万人以上が集まり、
30年以上続く「酒まつり」など、
酒蔵や市民の方々と交流する中で、
ここだと確信したのだそう。
撮影の半年前には現地に滞在し、
暮らす人々の目線でピースを見付けられるよう、
毎日自転車で街を回った。
会合にも顔を出すなどして、
ニュートラルに、
地域の人達と交流するのが瀬木監督のスタンス。
酒造りと映画製作は似ていると思いました。
その地に暮らす人達と交流の輪が広がっていくうちに、おのずと物語も発酵していく。
なのでもう自分が作った映画とは言えないですね。
酒造りも同じで、杜氏さんたちは自分が造った酒とは言いません。
多くの人が関わり命が吹き込まれていく感じです。
本作品の公開に先駆けて、
オリジナル商品も多く生まれている。
特に発売直後で売り切れたのは、
映画とのコラボで誕生した純米吟醸酒。
また西条にある8つの酒蔵と、
安芸津町の酒造がそれぞれの9銘柄に、
恋のしずくオリジナルラベル貼り、
限定ボトルとして発売。
370年と長い酒の歴史がある西条だが、
9つの酒蔵が組んだのは初めてとのこと。
和気藹々としていたキャスト、スタッフ、そして地域の方々
豪華俳優陣が出演する本作品。
地域キャストの公開オーディションも行われており、
計974名の応募があった。
また方言指導や炊き出し、ロケ地など、
沢山の地域の人達が関わり、
スタッフやキャストとも、
和気藹々とした撮影現場だったそう。
家族のような杜氏の人間関係を醸し出すために、
キャスト筆頭に皆、自主トレと称して、
毎晩のように飲みに行っていたとか。
キャストについて、瀬木監督に話を伺った。
―—主演の川栄さんはどのような女優さんでしたか?
とても人見知りで、打合せの際はあまりリアクションないのですが、演技が始まると、声のトーンや目の大きさなど心情を豊かに自然体で表現してくれるんです。
見ていて楽しい女優さんなので、カットをかけずに撮っていたシーンもあります。
―—蔵元役の大杉漣さんは残念ながら本作が遺作となってしまいましたね。
そうなんです。実は公開をしてよいものか事務所の社長さんに相談したのですが、ご心配無用ですという回答を通して、大杉さんのお人柄をみた気がしました。
撮影時は、街の空気感や暮らす人たちの様子を演技に反映したいと、合間を縫ってよく散歩をされていました。
優しさや大きさを感じる俳優さんでした。
―—息子役の小野塚勇人さんの広島男児感が、物凄いかっこよかったです。
それは広島の方々も仰っていました。こういう少年が昔は周りにいっぱいいたと。
方言だけでなく、立ち振る舞いなども現地の人達に聞くなどして、よく研究されていました。因みに本作には仮面ライダー出身者が3名出演しています。小野塚さんも元仮面ライダー。
意外にもバイクに乗ったことがないとわかったのですが、撮影に合わせ、免許を取得するところから臨んでくれました。
プロ根性が素晴らしい俳優さんです。
心に余韻を残す恋のしずく
日本酒という伝統文化。
そしてそれを取り巻く人々の営み。
ドローンによる空撮もあり、
美しい風景や酒の街ならではの情景が、
香るように伝わってくる。
実は今夏の豪雨災害によって、
酒蔵などのロケ地の一部が
甚大な被害を受けた。
スクリーンには、
被害に遭う前の美しい街並みが残っているが、
瀬木監督はスタッフや、
前作以降に関わった支援者と共に駆け付け、
床下の泥の掻き出しなどを行うということもあった。
(本作の収益の一部は、西日本豪雨の復興支援活動に寄付される)
また地域の課題や、
後継者問題なども描いている本作品。
酒蔵の事業継承でぶつかるシーンは、
実在する酒造の親子の確執を、
目前にして綴ったエピソードだとか。
お酒が発酵するように生まれた恋と酒の物語。
五感に訴えるシズル感が、
じんわりと心に染み渡ります。
そして観終わった後、
余韻を肴に、
クイッと一杯行きたくなること間違いないでしょう。
監督:瀬木直貴
脚本:鴨義信
出演:川栄李奈 小野塚勇人 宮地真緒 中村優一 蕨野友也 西田篤史 東ちづる 津田寛治 小市慢太郎 大杉漣
配給:ブロードメディア・スタジオ
©2018 「恋のしずく」製作委員会
10月20日(土)丸の内TOEIほか全国ロードショー
【三重】
イオンシネマ東員
【愛知】
イオンシネマ名古屋茶屋
名演小劇場
ユナイテッド・シネマ豊橋18
イオンシネマ岡崎
イオンシネマ豊田 KiTARA
【岐阜】
大垣コロナシネマワールド
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事