ホーム 02【遊びに行く】 首都圏の大学生たちが田舎町の中学校で”世界を広げる”授業をしました。(前編)

首都圏の大学生たちが田舎町の中学校で”世界を広げる”授業をしました。(前編)

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大学生たちの活動を記事にしてくれないかと依頼があった。
三重県南伊勢町の田舎町に首都圏から10人の大学生がやってくるというのだ。

町内に小学校は三つ、中学校が二つ、高校は一つ。
大学はひとつもない。

そんな町に、だ。

大学生がいない町の子どもたちが、
進路について考えるきっかけとなる授業がしたい。

東京の学生たちがなぜ、南伊勢へ。
彼らが中学校で開催するというキャリア授業について、取材した。

 

きっかけは、大人たちの”故郷を想う気持ち”。

東京にある居酒屋。
ビールを片手に、三人の男が思い出話に浸っている。

彼らの地元こそ、今回のキャリア授業の舞台・三重県南伊勢町。
農山村と漁村が文化を紡ぐ、自然豊かな町。

 

そんな田舎町から上京した三人はいま、
遠く離れた東京でたまの飲み会をしている。

 

彼らは地元のことに想いを馳せ、
東京にいるじぶんたちの”役割”を探していた。

地元が好きっていうのには理由がないと思うんだ。

いると落ち着く。心が和んで、離れたくない。

 

アイデンティティというか、
自分が生まれ育ったところというのには特別な感情があるから。

三人の大人たち。
彼らはじぶんたちのことを”南伊勢太郎”と名乗っている。

どんなことでもいいから、
南伊勢と関わりたいなって思うようになってた。

 

地元と縁が切れたみたいになるのがすごくもったいないなと思ってて。

ちょっと寂しさもあったのかな。

地元のために”なにか”がしたい。
関わりを取り戻したい。

地元を想う気持ちにのせて、”南伊勢太郎”は動きだした。
(この記事では彼ら三人を、南伊勢太郎(太郎)と呼ばせていただく)

学生をじぶんたちの地元へ連れていく。

鴻鵠塾(こうこくじゅく)という団体が主催する、
全国数ヶ所で行われていた地域活性がテーマの学生向けプロジェクトをみつけた。

彼らはそれを、
南伊勢をフィールドとして開催させてもらうことにした。

日々の仕事に追われるじぶんたちの代わりに、
学生たちが主体となって南伊勢の活性化に挑む。

その”橋渡し”に、じぶんたちがなれたなら。

早速、首都圏から南伊勢に五人の大学生がやってきた。

町内の事業者のもとでインターンを実施。

南伊勢の特産品である真鯛とみかん。
それぞれの一次生産者から直接話を聞いた。

インターンシップ終了後、
学生たちの土産話を聞いて気づいたことがあった。

太郎:一年目に入った奴らが全員もれなく好きになって帰ってきたから、

ほらやっぱり、俺の地元っていいとこなんだなって。

なによりもじぶんの生まれ育った土地を好きになってもらえることが嬉しかった。
活動を通して地元の魅力を、改めて感じた。

 

さて、それでは。
それを、どうやって地元に還元しよう。

太郎:大学生をインターンに連れてはきた。

そしていろいろな人に関わってもらったけど、迷惑かけて終わっちゃった。

 

結局地元のためにできたことはあったのかって、考えた。

関わってくれた人たちへの恩返し。
そのカタチを模索しながら、プロジェクトは二年目に突入する。

 

南伊勢への想いが、学生に受け継がれる。

二年目は、五人の大学生がやってきた。
まずは南伊勢に行ってもらう。そして、好きになってもらう。

二年目の学生たちは、鴻鵠塾からミッションが与えられていた。

 

「地域の魅力を詰め込んだ旅行商品を作りなさい」

 

南伊勢を素材にこの課題に取り組むのは、難しいことじゃない。
それなのに学生たちは、あえていばらの道を選択した。

太郎:二年目の学生たちは、旅行商品を作る気持ちがもてなかった。

 

僕たちはお世話になった地域のために何かがしたいと思ってる。
旅行商品作っても、自分たちの思うものにはならないって。

宿題の問題文に棒線を引いた。
そのことで、白紙ベースで地域活性化について考えなければいけなくなった。

当時の学生代表、慶応義塾大学のあたるくんは言う。

あたる君:インターンって、大学生だけが得してる。
向こうに対して僕らの価値を与えることが、なにかしらのカタチでできたらと。

お世話になった南伊勢の人たちへの恩返し。
じぶんたちが南伊勢のためにできること。

そのことを大学生たちは、本気で考えていたのだ。

地元・南伊勢のためになにかがしたい。
その想いはいつしか学生に受け継がれていた。

太郎:じぶんの成長のために参加してた大学生が、

南伊勢のために何かしようとしてた。
そんな彼らをみていたら、僕らも彼らのためになにかをしてあげたくなって。

地元のために始まった南伊勢太郎はいつしか、”学生の成長”を見守っていた。
彼らは一体、どんな結論を見つけ出すのだろう、と。

 

来る鴻鵠塾の発表会。
旅行商品の代わりに提案した彼らの地域活性化の答えは、スクリーンに現れた。

新たな仲間を南伊勢へ。
南伊勢に五人、大学生を連れて行く。

 

この答えに到達するまでに、
学生が考えたことはなんだったのだろう。

南伊勢に来てくれる人を増やすと決めた。

南伊勢滞在中に、地元の人と話した。
漁村で漁師から聞いた話が印象に残った。

漁師:この田舎に住んでいる子ども達って、

僕ら親世代は知っているけど、その”中間の人”を見ることがない。

だから、そもそも大学に行こうとも思わない。

子をもつ親としての不安。
子どもに与えたいけど、地域にないもの。

それは”中間の人”だ。

 

漁師:僕が良いなって思うのは、
こういう風にインターンで学生が来て、

大学って楽しいよって、子ども達の前でやってる。

 

するとその光景が、知らないうちに子どもたちのなかにインプットされる。
子どもたちの将来が広がる。

大学生としてのじぶん。
中間の人とは、まさにじぶんたち自身だった。

あたる君:向こうに対して僕らの価値を与えることが、なにかしらのカタチでできたらと。

あたるくんが考えていた”僕らの価値”。
それはとても単純なものだと、気づかされた。

それならもっといろいろな人をここに呼んでこよう。
五人の大学生くらいだったら、じぶんたちだって連れてこられる。

彼らの”答え”には、そんな想いが込められていた。

地元の農家・漁師と一枚。

大学生が南伊勢に来るきっかけをつくる。

南伊勢に大学生を連れてくる。
これが簡単なようで、難しい。

あたる君:南伊勢は良いところだけど、実際にその地域に行く学生っていない。
どうやったら、南伊勢に来てくれるかな。

電車だって通ってない町。

寝過ごして目が覚めたら終着駅でも、
南伊勢に着くということはない。

でも、良いところだ。

あたる君:都会の大学生をやってたら味わえない。漁師や農家の体験がある。

おいしいものが食べられて、その空気感に触れられる。

行けば絶対に楽しい。

その確信があるからこそ、
大学生が行く機会をつくることに徹した。

そして、考えついた。

あたる君:大学生がいない町の子どもたちが、
進路について考えるきっかけとなる授業がしたい。

 

 授業なら、大学生も興味をもちやすいと思って。

彼らが考えた大学生への切り口が、キャリア授業だった。

 

新しい仲間と一緒に、キャリア授業をする。

行けば絶対に楽しい場所へ、大学生を連れていく。
その大学生が楽しみながら、子どもたちに将来を考えるきっかけを与える。

そんな素敵なプロジェクトのために、学生は本気を出した。

東京の会議室で、おでこをつきあわせる。

首都圏の大学生が町に来て授業をしてくれる。

そんな話は南伊勢町内で広まり、
町内二つの中学校で、全校生徒に向けてキャリア授業を行うチャンスが降ってきた。

友達伝いで仲間も増え、
総勢11人の大学生が南伊勢へ行くことになった。

 

そして無事、授業まで漕ぎ着けた。
授業ではふたつのテーマに基づいて話していく。

大学はどんなところか、
そしてなぜ、大学に行ったか。

僕らが大学に行ったきっかけは大きく分けて二パターン。
やりたいことを極めるため。そしてやりたいことを探すためです。

大学進学を将来の選択肢のひとつに加えてもらうこと。
大学生を身近に感じてもらうこと。

それぞれの大学生がそれぞれの想いをもって、
中学生へじぶんの言葉を伝えた。

 

最終章。二度目のキャリア授業が始まる。

三年目も鴻鵠塾を通して、
四人の新しい大学生が南伊勢にやってきた。

彼らに与えられた課題はもちろん、
“南伊勢の中学生へのキャリア授業”だ。

前回同様南伊勢の魅力を味わうため、まず現地にやってきた。

二度目のキャリア教育は一・二年目のメンバーも参加。
みんなで力を合わせてつくる授業だ。

私が取材を頼まれたのはこの”二度目”のキャリア授業。
前置きが長くなったが、やっと依頼されたことを書き始められそうだ。

新メンバーは南伊勢太郎や前回メンバーからどのような”想い”を受け継いでいるのか。
そして全員の想いがひとつに集まると、どんな空間が生まれるのか。

 

彼らの集大成は、後編に続く。

伊澤峻希

シティーボーイを捨てて、神奈川県から三重県南伊勢の漁村に引っ越しました。職業は新卒漁師。

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