拝啓、子どもたち。
君たちの小学校卒業式に参加することになり、前日の準備から学校に私たちは来ている。
少し忘れていた満足感、今までいろんな場所で演奏したきたが、どこにもなかった充実感が君たちの小学校にあった。
オトナの時間の経過と、子どもの時間
多くの人は、子どもの頃の1年は長く感じる。例えると、遠足に出かける行き道は時間がかかり、同じ道でも帰りは短く感じる。この時間の感じ方は、どうやら過ごした空間と人の記憶や心が関係しているようだ。
オトナと言われる年齢になった私たちが、この時間感覚に大きな差があると考える小学生たちと、音楽を通じて交わり感じた事を、手紙としてこの場に残そうと思う。
君たちが小学校5年生の時、冬の体育館で音楽の授業をした。そもそもこの事は、松阪駅前のコンビニ駐車場でギターを弾きだした私たちに、偶然にも居合わせた君たちの担任の先生が関心を持ったことから始った。路上で歌われる歌詞の内容を論じたり、音楽から見える世界を洞察する。そんな話で盛り上がったのだ。 ただ楽器を演奏し歌うだけでなく、人生の価値観や、生き方について論じ合ったりする事。そんなオトナ的な話を生徒にして欲しいと言う事になったのだ。それが君たちの、松阪市立松尾小学校だった。この出会いは偶然だが、思い返すと必然のようにも感じる。
課題曲は「翼をください」、そして授業へ。
体育館での音楽授業は、各々自分はどんな翼を持っているのだろうと話し合った。当時の君たちが、はたしてどんな空を飛びたいと言い出すのか、答えが楽しみだった。
授業では歌詞の比喩を広げ、上昇気流を掴み空高く飛ぶ鷹や、学生生活は飛び立つための滑走路と言った例えを使い、自分の翼なら、どうすれば高く飛べるのだろうと黙想した。
翼は家族だ、また自分が打ちこむスポーツだと言う人。中には翼が見つけられないと話した友達もいる。そもそも自分の翼は何で出来ているのか。そんな事を考え論じ合う時間となった。そして6年生になり、君達は背負っていたランドセルからの巣立ちを経験した。
子ども達、またこの前まで子どもだった人も。「自分が生きていく理由を今も探し続けていますか。」もし、まだ翼が見つけられないと言うなら、その問いを掘り続ける事を止めてはいけない。また以前より自分の翼は少し大人になったと言うなら、磨き続けるのは当然として、飛ぶ事のできる環境に感謝しているか自問してみよう。
私たちが考え学んだ事は大人も子ども関係なく、「誰にでも平等に同じ時間を与えられた中での、自分の命の運び方」と例えることができる。そして飛び立つ事が卒業と言っていい。何歳になっても、どの国に行ってもこの事は、人が生きる上での課題となっている。また鳥が羽根を休めるとまり木が必要なように、拠り所を持つ必要に気が付いたら、迷わず羽を休めるといい。
歌の歌詞が物事を比喩していると言うなら。
卒業の記念に音楽室で合唱曲を録音した。1組、2組に別れ、youtubeで再生数を競う。大人になった頃の同窓会で、再生された回数を寸志に変える話を担任の刀根先生が提案した。「みんなをもてなす話。」実現する日が楽しみだ。そしてミュージックPVを作った。 その時の歌の歌詞を比喩でイメージするなら、少し大人になった君達にはどう聞こえているだろうか。
明日の君に贈る歌
歌詞
私たちが今まで一番感動したライブ
音楽仲間で「今まで感動した一番の場所」の話が上がると、満場一致で「小学校のワークショップ音楽教室!」を絶賛する。音楽を通じ伝える事、また音楽で共有できる価値観に幸せを感じるのだ。そして現在、君たちと私たちはあの時より未来にいる。この歌を聴き返した時、当時より物事を比喩として捉える洞察力は成長しているだろうか。
松尾小学校2017年度卒業2日前
さて次は、「初めての同窓会まで、どちらが再生回数で勝るか。」そう話していたみんなの歌声です。2018年3月録音。
6年1組合唱
6年2組合唱
2017年度 松阪市立松尾小学校6年担任
刀根 曜(とね よう)卒業生へのメッセージ。
最後の給食
みんなと食べたお昼、みんなと走り回った休憩時間。自分が小学生だった頃を思い出した。何をして、どんな友達がいて、誰が好きだったのか。子どもの頃、そして思春期。良くも悪くも、全ての世界が友達で成り立っていると感じた。
正直、良い思い出ばかりでもない人は少なくない。時には辛く、苦しい時間が永遠に続くと、今誰かが感じているかもしれない。でも真実は、誰もが必ず時の経過が短く感じる大人となるのだ。そして時の基礎が、子どもの頃だったと気が付き、やがて振り返る日が来る。
心がオトナになる事は年齢ではない。それはどんな思い出も、優しく愛でる事ができる人。心の田んぼに、優しい苗を植え続ける事のできる人。子どもであろうと、他者から教訓を学べる謙遜な人だ。
そして各々の命を運ぶ翼に、地域や両親、また先生や隣人の愛が含まれている事を、時々思い出す事ができる人。最後に、いつまでも子どもの頃の無垢な気持ちを持ち続ける人でありたい。
これはランドセルを卒業した全ての君へ贈る手紙だ。また再会する日が来たら、話の続きをしよう。
おまけの動画
yoshitugu imura。Otona記者。サーファーからフォトグラファーに、海に持っていったギターでミュージシャン活動もする(波音&Ustreet )ドブロギター奏者。 伊勢市在住。この記者が登場する映像