ホーム 02【遊びに行く】 【鳥羽ラッコストーリー#3】 令和元年のラッコ事情と、ラッコのロイズの思い出。

【鳥羽ラッコストーリー#3】 令和元年のラッコ事情と、ラッコのロイズの思い出。

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ラッコが大好きなんです。
みなさんはいかがですか?

ラッコ

誰でも知っていますよね。
おなかの上で貝を割る、ときにコミカルで、ときにチャーミングで、いつでもカワイイあの動物です。

昨年、このくだりから始まる鳥羽水族館とラッコに関する記事を書きました。
(過去の記事「知ってる?鳥羽水族館はラッコの聖地。」

みんな知っている動物なのに、実は会える水族園館がどんどん減っている。
という話に、驚きの声もたくさん。
あれから1年。日本で暮らすラッコたちはどうなったのか?
さみしいことにその数はますます少なくなっています。

度々、メディアなどで可愛らしい姿を目にする鳥羽水族館のラッコ。
今回は、令和元年のラッコ事情をご紹介するとともに、昨年10月に亡くなったラッコのロイズの思い出を通して、鳥羽水族館とラッコのお話をさせてください。

お話を聞いたのは、鳥羽水族館飼育研究部次長の石原さん。
36年前、鳥羽水族館にラッコがやってきた日から、飼育に関わり続ける日本のラッコ飼育のエキスパート。全国ネットの朝のニュースで、ラッコのメイと名コンビの「かわいい飼育員さん♪」と評判の大人気の飼育員さんです。

 

6園館8頭。なかなか会えないラッコたち。

昨年の記事では、日本の水族園館で暮らすラッコは「7園館10頭」とご紹介しました。
現在、その数は「6園館8頭」となっています。
オスメスのカップルで飼育しているのは、兵庫県の神戸市立須磨海浜水族園と福岡県のマリンワールド海の中道だけ。他の水族園館は1頭ずつです。

「えっ!そんな少ないの!?」
と驚かれる人が今回も多いかもしれませんね。ビックリするのは、やはりラッコがすごく身近に感じる動物だということでしょう。

昨年、お別れした2頭は、アクアワールド茨城県大洗水族館の「カンナ」と鳥羽水族館の「ロイズ」。カンナが亡くなり、関東にはラッコはいなくなってしまいました。

ロイズのことは、以前にも私の記事でご紹介させていただきました。
真っ黒な毛並みが特徴的なオスのラッコ。普通、ラッコは年を重ねると徐々に毛の色が白くなっていくものですが、ロイズはいつまでも凛々しいブラック。これは飼育員さんにとっても不思議なことだったそうです。

ロイズとのお別れは、たくさんの人にとって悲しいできごとでした。2018年10月末、その日もいつも通りトレーニングをこなしていましたが、人が心筋梗塞で急逝するように、突然の心不全だったといいます。13歳、水族館の飼育下にあるラッコとしてはまだまだ若い年齢でした(野生では15、16歳といわれるラッコの寿命。水族館では平均してもう少し長くなります)。

ロイズは多くの人から愛されていました。ラッコの水槽の前に設置された献花台には、乗り切らないほどのお花が毎日届き、手作りのアルバム、メッセージカード、詩集を贈った人もいました。日本全国から寄せられた「ありがとう」と「さよなら」。ロイズはたくさんの人を笑顔にし、大切に思われていたのだとわかります。

ロイズが亡くなった当時、石原さんはこう語ってくれました。

「本当に人気の個体でしたね。今はSNSなどでも知ってもらえることもあって、過去に飼育していた子たちとは反応の大きさが違った。それだけ魅力的で愛されていたのだと、私たちも改めて実感しました。ありがたいことです」。

ロイズに届けられたメッセージをのぞくと、
「真っ黒でかっこいい」「メイちゃんと仲良し」
「まじめで一生懸命でがんばりや」など、
みんなが出会ったロイズの魅力がいっぱい記されていました。

ロイズはどんなラッコだったのでしょう。石原さんに思い出を聞いてみると、多くのファンが心奪われた彼の魅力、そして、ラッコがどれだけすごい動物かがみえてきます。

 

ロイズが教えてくれたこと。

ロイズは、和歌山県のアドベンチャーワールド出身。「ロイズ」と聞くと、チョコレートを思い出すかもしれませんが、名前の正式な綴りは「Royce」ではなく「Roizu」なのだとか。
2009年に鳥羽水族館へやってきました。その時の彼は、ちょっと不器用な子だったといいます。

「ラッコは前足で器用になんでもする動物ですが、餌やりの仕方など飼育環境の違いで能力の養われ方も変わります。例えば、アドベンチャーワールドでは、小さく切ったイカをもらっていたのが、鳥羽水族館へやってきたら丸ごとのイカを手渡された。最初は、上手く食べられずに苦労していましたよ。他にも、貝殻を叩きつけたり、おもちゃで遊んだりということも、なかなかできませんでしたね。
それでも、ロイズはまじめでね。トレーニングすると、教えたことをひとつずつきちんとやる。だんだんできることを増やしていきました。ロイズとメイが手をつなぐトレーニングがあって。ロイズはちょっと上を向くんですよ。それを見て『彼は前を向けないの?』と思った人もいるようですが、あれは私たちの顔を見てコミュニケーションをとっていたんです。『よし』と言われるまで待っている。
私たちは、ラッコが本来持つ力を保てるように、さまざまなトレーニングを考えて、毎日続けます。個性はありつつみんなしっかりと応えてくれますが、ロイズは過去の個体の中でも律儀な努力家でした」。

プカプカクルクルと、どこか自由にも見えるラッコたちの仕草。実はすごく勤勉だって興味深くないですか?努力してポテンシャルを伸ばしていったロイズ。こんな出来事もあったそうです。

「ロイズは、2014年に一度、ブリーディングローン(繁殖のための水族館間での移動)で東京のサンシャイン水族館へいきました。その後、再度メイとのペアリングのために東京から鳥羽へ戻ってきました。帰ってきた頃、彼はどうも歯垢が気になっていたようで。ラッコは貝殻を歯ブラシにして、歯をキレイにします。ですが、設備の関係もありサンシャイン水族館では殻付きの貝をラッコに与えておらず、自分で歯磨きができませんでした。
鳥羽へ帰ってきた時、ロイズは貝で歯を磨くことを覚えていました。彼が叩いたり、かじったりした貝殻が、同じくらいの大きさに揃っている。そしてそれを使って歯をキレイにしている。歯ブラシとしてちょうどいい大きさに調整していたんですよ。歯を磨くためにどんなサイズの貝殻が必要か、その大きさにするにはどうすればいいのか。頭で考えて行動していた。
これに気づいた時は、改めてすごい動物だと思うと同時に、うれしかったなぁ。ものをもてあそぶことができなかったロイズが、自分の頭と力と与えられた道具で、目的を達成するための工夫をしている。明確な学習と応用です。こんな動物いませんよ。ラッコが持つ可能性には、何年飼育に携わっても驚かされます。私たちは教えられるばかり。こうした気づきと喜びをくれる彼らには感謝しかないです」。

うれしかったなぁ、と笑顔で語る石原さん。ラッコたちがもともと秘めていた可能性や潜在能力を発現させる上で、石原さんたち飼育員さんの日々の工夫や努力は欠かせません。

 

鳥羽水族館でしか出会えないラッコの姿。

さみしいけれど、もうロイズには会えません・・・。
半年以上経っても、写真をみると「また会いたいなぁ」という気持ちがこみ上げてきます。
でも、ロイズが残してくれた思い出やエピソードは、ラッコという動物がいかにすごいかを教えてくれるとともに、これからラッコと出会う人たちに、より深く魅力を知るきっかけをくれるでしょう。

「貝殻、貝殻」と当たり前に書いていますが、実は日本中の水族館で、ラッコに殻付きの貝を与える水族館は限られています。
歯ブラシの話からもわかるように、多くの人がイメージする「ラッコと貝」の組み合わせは、ただのキャラ付けなどではなく、ラッコたちが持つ力を伸ばすために大切なもの。哺乳類の中で、霊長類をのぞけば、道具を使ってなにかする動物はラッコだけです。鳥羽水族館で出会える、貝を使うラッコのかわいい姿の裏側には、持ち前の器用さと努力が隠れています。

今、鳥羽水族館で暮らすラッコは、5月に15歳になったメイ。
キラキラと銀色にも光って見える、とってもキレイで表情豊かなラッコです。貝だけでなく、いろいろなおもちゃを器用に扱うメイ。昨年は、カラーコーンを抱えてクルクルと回る映像も話題になりました。

「律儀にサインを待つロイズに対して、メイは同じように器用でも、要領よく自分で判断していろいろなことをやる子です。水槽のガラスに近づいて叩くことがありますが、あれは最初はガラスにタッチするトレーニングでした。それをある時、『これでいいでしょ?』とでもいうように、メイが自ら叩き始めた。彼女も個性があって面白い子ですよ」

と微笑む石原さん。

ラッコの飼育、ラッコとの向き合い方について、長年の実績とノウハウが蓄積された鳥羽水族館はやはり日本におけるラッコの聖地。足を運んだ際は、ぜひメイのいろいろな姿を愛おしみながら、ラッコが持つ素晴らしい力にも目を向け、気づきや学びをもらってください。

この夏の最後はぜひ鳥羽水族館へ。

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