ホーム 03【お店へ行く】 神話の街、伊勢の鬼才は、遊ぶように街をアートに変えていく。クリエーター、中谷武司さん。

神話の街、伊勢の鬼才は、遊ぶように街をアートに変えていく。クリエーター、中谷武司さん。

どう生きようが自由だ。
しかし自由に生きるのは、難しい。
お金だっているし、何かと時間も取られる。
それが現実ってヤツか。

しかし、突然自由を手に入れることができたら・・。
私だったら、持て余してしまうだろう。
まだ自由をコントロールして、楽しむ程のスキルを持ち合わせていないからだ。
では、自分に何が足りないのか。
勇気、才能、それとも努力?
デザイナーやライターのハシクレとして、自身のそれが、どれも中途半端に感じるときがある。

それは、圧倒的な才能を持ち、自由に生きる人に出会ったときだ。
初対面で「負けた」って思うとき。
しかしそんな人と話しをすると悲観的な感情は消え、ハッと何かに目覚めさせてくれる。
そして、自分の内側に小さな火が着き、熱を感じる。

話は変わるが「鬼才」という言葉が好きだ。
今回は伊勢の河崎で出会った、そんな鬼才の話をしたいと思う。

Photo / y_imura

大げさに言うと、その才能に触れ、自分の中で何かが確実に変わった。
そして、自分の青さに直面することは怖いことではなく、案外と爽快であった。

 

 

—まず、遊びをつくること。

1月の終わり。
柔らかい冬の日差しは温かく、春を想いながら津新町駅の改札をくぐった。
電車に揺られ約40分、宇治山田駅に到着。

今回は特別に、ボランティアで同行してくれたカメラマン(y_imura記者)と、伊勢のソウルフード「からあげ丼」を頬張り、普段は滅多に人を入れないという、鬼才のアトリエへ向かう。
不安と緊張、そして期待が入り交じった気持ちで、部屋に入れていただいた。

アトリエは居住空間も兼ねていて、基本的に室内の撮影はNG。
発表済の作品や、部屋の一部に限っては撮影OKをいただいた。

Photo / y_imura

私の緊張を察してか、柔らかな笑顔で迎え入れてくれたのは、画家でありデザイナーの中谷武司さん。
いや、室内の作品を見渡すと、画家やデザイナーという肩書きだけでは収まらないと感じた。
油絵、銅版画、木版画、水彩画、スケッチ、Macなどなど。
実に様々である。
そして、まず紹介いただいたのがこれだった。

Photo / y_imura

オリジナルの刺子半纏(さしこはんてん)。
背中には中谷さんが考案した、不在の存在ベルナール・ギー。

不在の存在ベルナール・ギー。魑魅魍魎(ちみもうりょう)をデザインし、町を徘徊させてみたかったのでございます。生活に紛れ込んでくる悪やちょっとした恐怖?妖怪や幻獣のレゾンデートル。人のうぬぼれを突き刺し揺さぶる、人を戒める側のもの。人間というのは正義だけでは埋め尽くせない側面がございます。我々は時として、美や善だけでなく醜悪や恐怖や毒に接することで、また自身のバランスを計らなければならないときもございます。神や仏、自然に畏怖を祓うことも同じくでありましょうか?ここでは前口上とし絵画を扱いましたが、メディアは限定せず、様々なカタチで生活に潜り込ませようという試みでございます。宜しければお付き合いのほどをお願いいたします。Takeshi Nakatani 2017(キャプションはリーフレットより)

さらに室内にあった帽子。

Photo / y_imura

明日、刺繍屋に発注を出すため、最終の調整を行っていた。
伊勢神宮の宮大工が被る帽子を、リメイクしたものだ。
刺子半纏や帽子は、中谷さんが企画とデザインをして、仲間が有志で購入。

中谷さん:これを着て、河崎の街を歩いたり、地元の居酒屋とか行ったら、「あれは何だ」と話題になるかも知れないでしょ。

さらに中谷さんと仲間は、数年前に「セブンガールズ・風変わりな挑戦」という作品をつくった。
それぞれが営む仕事などをテーマに女装をしている、モノクロのフォトグラフだ。
7つの作品の中から少しだけご紹介したい。

中谷武司(アーティスト、デザイナー)あこや貝を持ち、真珠玉を口中で舐め遊ぶ少女の肖像画「口中遊戯」という自身の絵画作品に扮しました。(キャプションは解説文より)
駒田権利(こま田 主人)江戸前の名店こま田鮨にて、食通を唸らせる若き職人。鮨は魚、海ならハワイなんてことで「ハワイの若大将」の女装版。無理あるけれど、可愛いのでお許しを。(キャプションは解説文より)
松田卓也(自営 鉄工業)伊勢の酒場で愛され、アウトフィットはボーダーシャツのみ。で、ニックネームはボーダーキング。演出は不要、ストレートに「パリのおばちゃま」に扮しました。(キャプションは解説文より)

そう、中谷さんは溢れるアートの才能で遊んでいるように感じる。
しかも、妥協なく、真面目に。
この時点で私の思考回路は、パンク寸前。
この感動を、なんと表現すればいいのだろう・・。
粋。そう、粋だなと思った。

Photo / y_imura

中谷さん:まず遊びをつくること。おもしろいモノが創りたいから。そうしていたら、仕事の依頼に繋がったり、おもしろい人と繋がれたり。

なるほど。
クリエイティブの本質を垣間見た。
マーケティングに裏付けられた手法とかではなく、もっと根源的なところ。
そんな中谷さんは、東京を経てニューヨークで数年間の活動していた時期もあった。
しかし戻った先は東京でなく、生まれ育った伊勢だった。

中谷さん:満員電車みたいな感じが苦手なんです。自分でレールを敷いて、電車を走らせちゃえ、みたいな方が好き。

いわゆるクリエーターにとっての整ったレールとか道がなく、未開拓な部分も多い「地方」で活躍するには、そのような発想が必要なのだと学んだ。

 

 

—伊勢という地

中谷さんの生まれ育った生家は、外宮のほど近く。
外宮は小さいときの遊び場だったという。

写真は左から火と風。Photo / y_imura

「地水火風空」を、木版画で制作された作品。

中谷さん:日本的な森羅万象を表現するには、銅版画でなく木版画がしっくりきます。

そして、絵や版画、デザインワークなど、様々な技法で創られている作品の一つひとつは、個々の作品としてだけではなく、演目のなかの一つでもあると教えていただいた。
そんな日本人の持つ、自然崇拝を感じさせる作品を創る中谷さんにとって、伊勢神宮、そして神様とはどういう存在なのか。

中谷さん:神さんの実態って、自然そのもの。自然にチューニングするという行為を行う場所が、伊勢神宮やと思います。

私たちは、食事を調整したり、運動やマッサージをして、肉体というハードを整える。
しかし気持ちや心といった、ソフトを整えることにあまり意識がないように思える。
伊勢神宮に参拝し、その凜とした空気を感じ、気持ちが落ち着くのは、自然にチューニングしていたのかと思うと、伊勢神宮という存在が自分の中にストンと落ちた。

 

 

—冷たいヤツではなく、温かいヤツ。

Photo / y_imura
Photo / y_imura

アトリエから程近くにある、モナリザ(現:中谷武司協会)に伺った。
ここ河崎は、蔵や古民家が建ち並び洒落た雰囲気だ。

Photo / y_imura

店内には、中谷さんがデザインした商品が売られている。

「安乗神社のお守り ※店では展示のみ。販売は安乗神社にて。」Photo / y_imura
「サトナカクッキー」Photo / y_imura

安乗神社のお守りや、サトナカクッキー(ササササササササササ)など、目にしたことがある人も多いと思う。中谷さんの代表的な作品だ。
三つ入りサトナカクッキーの箱は、ポケットからスッと出して手渡せる。
中谷さんは、開発時にその感覚を大切にしたいと思っていたという。

Photo / y_imura

中谷さん:ピンポンの箱って、何かいいなと。そして、何もピンポンだけ入れる箱じゃなくてもいいなと。

この発想力。
デザインで遊べるくらいの才能がないと、まず浮かばない発想だと思う。
ちなみに「サトナカ」とは、伊勢に実在した地名で、今はない。
サトナカクッキーをはじめ、店にあるほとんどの商品は手仕事で作られている。
アトリエで見せていただいた、スタイリッシュな手のスケッチを思い出した。

Photo / y_imura

このスケッチで、商品の魅力を伝えたいと教えていただいた。
そして、伝え方、伝わり方について、モナリザ(現:中谷武司協会)はとても大切にしているという。
そうやって、丁寧に伊勢の魅力を伝える商品。
私は一つひとつがアート作品のように感じ、時間を忘れて見入ってしまった。

「牛頭天王 注連縄」Photo / y_imura
「THE END Tシャツ」Photo / y_imura
「斧琴菊 yoki koto kiku」
「Penitenziagite(悔い改めよ) Tシャツ」
サトナカクッキーのパッケージ。結び目は、伊勢神宮式。

そんな中谷さんがおすすめする、お店ってどんなところだろう。

中谷さん:一月家。あれぞ「伊勢」って感じです。

一月家はOTONAMIEでも取材させていただいた、昼から営業している伊勢の老舗酒場だ。
詳しくはこちら

「温奴(おんやっこ)たれ」Photo / y_imura

湯豆腐が有名で、エメロンでも地元めしシリーズとして展開している。
伊勢といえば、伊勢うどん、もここで販売している。

「ISE Udon」

伊勢出身の友人に「病気のときにも伊勢うどん」と聞いたことがあった。
そして、この伝え方。
もしや・・。

中谷さん:小さいときのボクやね。

THE CREATIVE・・。

Photo / y_imura

お店にいるだけで、また中谷さんと話しているだけで、本当に楽しく一瞬で時間が過ぎ去っていった。

私:ところで中谷さん。才能って何ですか。
中谷さん:好奇心の強度です。

Photo / y_imura

オトナになると、忙しかったり、目の前のことで一杯になったりする。
しかし、そんな日常であっても忘れてはいけないこと。
好奇心。
それは人生を愉しむための、特効薬なのかも知れない。

 

追記
モナリザから中谷武司協会に変更しました。

 


 

2019.11.23
※中谷武司さんと他2名のゲストに迎え、OTONAMIE4thイベントを開催します。詳しくはこちら

(終了しました)
※中谷武司さんをゲストに迎え、OTONAMIEワークショップVol.6を開催します。テーマは「伝えるチカラ」。詳しくはこちら

 


 

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