優しくもちょっぴり切ない時間
ほわほわでぷくぷく。
忘れることのない優しい温もり。
愛しくてたまらない気持ち。
何年経っても、
思い出すとクスッと笑ってしまうあの時間。
温かくも、
慈しむ”今”への、
切なさも感じる親子の甘い情緒。
あなたはこの絵を見て、
子どものぬくもりや柔らかさを思い出しますか。
それとも包み込んでくれた両親の愛情に想い馳せますか。
絵本作家 生川真悟さん
描いているのは、
三重県四日市市出身の絵本作家 生川真悟さん。
絵本作家/イラストレーターとして活動しつつ、
絵を通したワークショップや、
名古屋デザイナー学院にて、
絵本コースの講師も勤められていらっしゃる。
実は私自身、生川さんのファン。
今回、生川さんが、
第二のアトリエと呼ぶ喫茶店にて
創作をされているとのことでお邪魔してきた。
生川さんがこの日描かれていたのは、
東京都足立区のものづくり男子の写真集『あだち工場男子』の
編集長が個人的に制作した町工場同人誌の挿絵。
快く下書きも見せてくださった生川さん。
絵本作家になった経緯や、
絵本の魅力についてお話をうかがった。
仮想と現実をパラレルに生きる豊かさ
幼少期から絵を描くことが大好きだった生川さん。
しかしアートへの道は念頭になく、
商社マンとして社会人生活を送っていた。
が、がむしゃらに働く日々に
”このままでいいのだろうか”
と漠然とした不安は拭えなかったという。
ある日ふと、子どもの頃、
母親に絵本を読んでもらった想い出がフラッシュバックした。
何故かはわからないが、
よほど大切な時間だったんだなと絵本の深さを体感。
これをきっかけに、
絵本作家への道を歩むこととなった。
その時想起した絵本というのがこちら。
生川少年にとってこの物語は恐ろしく、
”怖い→母親に抱きつく”を繰り返していたが、
いつしか最後まで読めるようになっていて、
なんだか勇気を得た気分になったそう。
児童文学的に子どもは、
仮想世界と現実の境目がなく、
パラレル的に生きる豊かさを持っているという。
メルヘンで疑似体験することによって
現実でも出来ることが増えたり、
乗り越えられるということがあるのだそう。
『絵本を閉じた時、自分も少し強くなったような気持ちになれる本が好きですね』
そう生川さんは仰る。
またメルヘンの世界に、
子どもが逃げられる部屋を作るのも絵本の役割。
それは自己形成や自己許容できる
自分の場所を見付けるイメージだそう。
幼少期に確立したその場所は、
大人になってもいつでも戻れる、
言わば支えのようなもの。
きっと生川さんのフラッシュバックも
その場所があったからだろう。
絵本はよく”心の扉を開けて感受性を鍛える”
と言われている。
ただ難しいのが、
「絵本は感受性を鍛えるもの」と前提にしたり、
帯に「感受性を鍛える為の本」と謡うことには、
違和感を覚えるという。
生川さんが仰るのは、
読まなくてはいけない絵本なんてなくて、
読みたい絵本を読めばいいということ。
感受性が鍛えられるのも
知的好奇心が教育に繋がるのも、
あくまでも結果論。
もちろん作家は意識しないといけないけれど、
それを”売る為”に使ってしまうと親が買う理由になる。
子どもの目線で選ぶ本と、
親が買い与える本はイコールではなく、
親を誘発する謳い文句で、
絵本を売るのはどうなんだろうという疑問が常にある。
しかし絵本を買うのは親。
矛盾している業界の課題。
明確な解決策はないが、
生川さんは、
まず一つに、作家が何年も何世代にも渡って、
読み継がれる本を作っていく必要性があると。
そして商いに効率を追求するのではなく、
店とお客さんとの信頼関係を
大切にしていくことではないだろうかとお話してくれた。
恐らくそのモデルとなるのは、
名古屋にあるメルヘンハウス。
メルヘンハウスとは、
1973年に日本で初めてできた子どもの本専門店。
「子どもの優れた感性をきちんと考えた本屋」
としてコミュニケーションを大事にしている場所。
残念ながら、
今年2018年3月末で閉店が決まっている。
良い絵とは何ですか??
これはよく生川さんが学生に聞かれる質問。
答えは『よく見なさい』ということ。
何を見たら良いのかとも聞かれるけれども、
人それぞれ見て感じるものは違うし、
誰かと比較するものではない。
そもそもなぜうまくなりたいのか。
なにがうまい絵で、
なぜうまい絵じゃないといけないのか。
自分自身が描きたい絵を描けることが、
うまいということなのではないかと。
そう問う生川さん自身、自分の絵に満足しておらず、
だからこそ描き続けているという。
怒り・焦燥感・悲しみも抱えつつ、
描きたいのは、その暗闇を越えた先に視えたもの。
きっとそれは誰かの心に寄り添える絵になると信じ、
タッチを変えたり、画材を変えたり、
試行錯誤しながら描き続けているという。
生川さんの作品は、
優しくもどこか切なさを感じるものが多い。
刹那の感動を切り取っているような…
温もりと寂しさが一体になっているような…
だからなのかな。
なんだか心に沁みるのだ。
生川さん:『満足するまで描き続けるというのは、もう呪いともいえる程エンドレスです。しかも絵本作家は画家よりもニッチ。でも僕自身、”絵本がいる”と思っているからこの衝動はどうにもならないですね』
思いっきり…描くっ!!!
創作活動とともに
生川さんが力を入れているのは、
子どもたちとのワークショップ。
服や壁や床を汚してもいいし、
どんな色を組み合わせてもいい。
クレヨンが折れたら2本で描けばいいし、
紙からはみ出るスケールで描いてもいい。
大人の都合で規制せず、
作品をつくるためではなく、
ただ絵を描くことを思いっきり楽しむ時間。
人間は7~9歳位から、
言葉の方が優位性が出てくる。
模写みたいに上手に描きたいと
思うようになるのもその時期。
学生たちとのやりとりにも通じるが、
生川さんが”良い絵”と思うのは、
テクニック的な部分ではなく、
純粋に感情が出ている絵。
またワークショップでやりがいを感じるのは、
最初は大人しかった子供たちが、
途中から自分で考え、動き、描き出し、
講師である生川さんがいらなくなるタイミング。
もう託しても大丈夫。
そう思える瞬間がたまらなく好きなのだそう。
子どもが子どもの戻れる時間
生川さんは今、
児童虐待防止の活動にも取り組まれている。
1000名以上の子どもたちとのワークショップを通じ、
ネグレクト気味である子どもに多々遭遇したからだ。
深く関わると、
親自身の養育背景が影響しているケースが多く、
親になるタイミング、
つまりは母子手帳交付時に届けられるツールとしての
絵本制作にも携わっている。
また最近は予てから準備をしていた
Hospital Artmate Projectも進みだした。
Hospital Artmateとは、
遊ぶ機会が限られている患児に対して、
安全かつ自由な遊びとしてのアートの機会を
提供すること。
生川さんは5歳の時、
小児疾患で入院したことがあった。
同室は小児がんの患児で、
身体の自由がきかないため
1日中暇つぶし様にプラモデルを作っていたのを見て、
子供ながらに「楽しそうじゃない」と感じたのが
ずっと心に引っかかっていた。
もしあの時、今の自分が関われていたら
何が出来ただろうか。
そう考えていくなかで
医療関係者と繋がる機会が増えていった。
医療者は治療のプロであるが、
医療が行き詰まり治療がいかないその先のケアには
戸惑うことが多い。
病院には子どもたちが、
子どもらしく遊べる機会がない。
豊かに自由に遊ぶために必要なのは、
アート(非言語的な活動)。
大切なのは、
子どもが子どもに戻れる時間であると
生川さんは考える。
活動の中で、
エビデンスや科学的根拠を求められることも、
多々あるそうだけれども
生川さんのように
絵本の想い出が20年以上経って蘇ることもあるのだ。
これはデータでは計り知れない。
※Hospital artmate Projectについて詳細はこちら
主人公たちが連れて行ってくれる世界
生川さんの描く絵本は言葉が少ない。
その分、今にも動き出しそうな主人公たちが
想像力を駆り立てる。
正解やルールなんてない、思うままでいい。
ちょっぴり哀愁をも感じる主人公たちの表情に、
否定も肯定もしない「ありのまま」の生川さんの姿勢が重なった。
心に刻まれている絵本の存在
今回お話を伺いながら、
自分の心にも刻まれている、
絵本の存在を改めて感じた。
私も幼少期、
母に毎日絵本を読んでもらっていた。
部屋の棚から絵本を選び、母に渡す。
Xmasの朝には必ず枕元に、
サンタクロースから絵本が届いた。
母に読んでもらう絵本から
いつしか自分に読む絵本へと変わり、
サンタクロースが母だとわかってからも
実家で暮らしている間ずっとその習慣は続いた。
まるで文通のようだったと、
振り返ってみると思う。
時に勇気となり、希望となり、
忘れがちな純粋さに気付かせてくれる絵本の存在に、
私は今も支えられている。
生川 真悟(なるかわしんご)
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福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事