ホーム 02【遊びに行く】 誰かとまた会える場所へ。「小さな商店街」を届けるプロジェクト〜鈴鹿市長太ノ浦で、一人の女性がはじめた挑戦〜

誰かとまた会える場所へ。「小さな商店街」を届けるプロジェクト〜鈴鹿市長太ノ浦で、一人の女性がはじめた挑戦〜

小雨が降る中、子どもたちが自転車で神社の境内に集まってきた。
「まだやん!」
何度も走り去り、また戻ってくる。

2026年4月1日、三重県鈴鹿市の長太ノ浦(なごのうら)で「長太ノ浦小さな商店街」が開かれた。
それは、かつて街にあった商店街のように、人がふらりと集まり、顔を合わせる場所をもう一度つくろうとする小さな試みだった。

10時の開始とともに、境内にある集会所は一気に活気づいた。子どもたちは駄菓子をめがけて走り、大人たちは知り合いと立ち話をしていた。「いい雰囲気やね」「今日はお参りのあと、ここでゆっくりできるわ」。そんな声が聞こえた。このイベントを一人で立ち上げたのが、小林真子(こばやし・まこ)さん(35)だ。

「なんて読むの?」

2025年の秋、真子さんは「生まれ育った長太ノ浦で何かしたい」と思い始めた。そして、数日後には「マルシェをしよう」と決め、インスタグラムのアカウント「なごふぁむ」を一人で立ち上げた。

ところが発信を始めてみると、自分の街の名前すら正しく読んでもらえないことを知った。「ながたの浦?」と間違われたり、市内の人にも「なんて読むの?」と聞かれたりすることも珍しくなかった。

生まれ育った長太ノ浦(なごのうら)の海辺に立つ発起人の小林真子さん。

「まずは知ってほしい」
その一心で長太ノ浦の歴史や街の移り変わりを熱心に調べた。
そのうち関心は、単なる知名度アップから「この街が歩んできた記憶」そのものへと向いていった。

商店街のような場所を作りたい

調べるうちに、真子さんはかつて駅前に「大木フードセンター」という小さな商店街のような場所があったことを知った。八百屋などの個人のお店が並ぶ場所だったが、今はシャッターが閉まった状態の建物だけが残っている。近くにあった文房具屋も駄菓子屋も、いつの間にかなくなっていた。

「私、寂しいんですよ。時代とともに、そういう場所がなくなっていくのが」
彼女は、胸の奥にある本音をぽつりとこぼした。

真子さんが求めていたのは、店が並ぶ風景だけではなかった。ふらっと立ち寄って、誰かと話して、また他の誰かと会える。商店街のような「人の賑わいと温もりを感じる場」だ。

「ないなら、自分で作ろうって。ただの物販マルシェじゃなくて、みんなが気軽に『商店街行こう』ってなるような雰囲気を、作りたかったんです」

「なんであなたがするの?」

最初にこの話をした家族の反応は、賛成とも反対ともつかない「えー」だった。周りからも「なんであなたがするの」と言われた。

実績があるわけでも、誰かに頼まれたわけでもないのに、一人で突っ走る真子さんを心配しての言葉でもあった。それでも彼女は計画を進めた。

「どうしてもやりたかった。だから自分で動くしかないと思って」

街から大切なものが少しずつ消えていく。その寂しさを、誰かが止めてくれるのを待つのではなく、真子さんは自分で動くことを選んだのだ。

「生まれ育った街のために」。その想いから一歩を踏み出した、Instagramでの発信。

こだわり抜いた開催場所

開催場所も悩んだ。長太ノ浦らしく、人が集まりやすい場所。樹齢1000年の大楠の近くも考えたが、最終的に選んだのは、天王祭やくじら船祭りが開かれる飯野神社だった。地元の人なら誰もが知る場所だ。

その境内にある集会所を借りようと、自分で自治会に電話をした。しかし、小学校の体育館でもすでに地元のマルシェが開かれていたため、「そっちのマルシェに入らせてもらえばいいんじゃない?」と言われた。わざわざ新しいイベントを立ち上げなくても、という周囲の優しさであり、もっともな意見でもあった。

「一人しか来なかったとしても、ここがいいんです。お願いします!」
何度も頼んで、ようやく場所を借りることができた。

人づてで集まった、本物の笑顔

イベントの当日、真子さんは朝8時前から準備を始めていた。駄菓子を並べ、子どもが遊べるように手作りの「かんぽっくり」も用意した。

「商店街だから、駄菓子屋は絶対やりたかったんです」

駄菓子を並べた会場には、開始前から子どもたちが集まり始めた。10時になると、集会所には次々と人が訪れた。地域の広報にも載せられず、チラシも置けなかった。それでも、人づてで聞いた人たちが足を運んでくれた。



「人づてって、本物感ありますよね」
会場の中では立ち話があちこちで始まり、子どもたちは駄菓子を買っては走り去り、「もう一つください!」と戻ってきた。

その光景を見つめながら、「嬉しいですよね」と真子さんは目を細めた。
大人たちもそれぞれの時間を過ごした。「こういう機会のおかげでお友達とも会えたし。ありがとうね」そんな声もあった。

集会所の賑わいを見渡した誰かが、「本当に小さな商店街みたいやね」とつぶやいた。自分が名付けたその名前を、街の人たちが受け入れてくれた。そのことが何よりもうれしかった。

かつての商店街を肌で知らない真子さんが、手探りで作った「小さな商店街」。それは、かつてこの街にあった賑わいと、いま目の前にある風景が重なった瞬間だった。

「長太ノ浦小さな商店街」を盛り上げた出店者のみなさん。

「次は、もう始まってる」

イベントを終えた真子さんは、早くも次の話をしていた。

「0から1はできた。でもそこから先はまた違う難しさがある」

もっと街の人にこの取り組みを知ってもらいたい。そしていつか、この小さな商店街が開かれる日が、長太ノ浦の人たちにとって「楽しみな日」になっていけたら。

2025年の秋、一人でインスタグラムを立ち上げた日から、数か月。
彼女が思い描いていた景色は、たしかにそこにあった。

そして彼女は、もう次の景色を見ている。

 


小林真子(こばやし・まこ)
鈴鹿市長太ノ浦出身・在住。
アクセサリー作家として活動しながら、Instagramアカウント「なごふぁむ」を立ち上げ、長太ノ浦の風景や店、人の営みを発信している。2026年4月、「長太ノ浦小さな商店街」を初開催。
Instagram:@nago.fam

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