久しぶりに故郷へ帰ると、懐かしい景色が様変わりして少しショック…そんな経験はありませんか?
開発が進み、暮らしが便利になる一方でそこに馴染んでいた動植物や古い町並みは姿を消していきます。
松阪市西部(大石町〜飯南町〜飯高町)を流れる櫛田川の上流・中流域は、香肌峡県立自然公園のなかに位置しており、地元では香肌峡と呼ばれています。
この地域には、伊勢神宮への参詣道の面影が残る日本家屋、整備の行き届いた森林、段々に広がる田んぼや畑が残っています。
初めて来た私も、なぜか懐しく感じホッとしました。
そんな香肌峡に僕が初めて足を運ぶきっかけをつくってくれたのが、松阪市香肌地域づくり協同組合の松岡知佐さんです。
同じ松阪でも市街地に近い地域で育ったという松岡さんが、この地域に関わり始めたのはなぜなのでしょうか?
松岡さん:「小さい頃から家の周りの田んぼで、生きものを見つけたり、お花を摘んで遊んでいました。高校生の頃、その田んぼが埋められてアパートが次々と建ったんです。それを見て、なぜか私は腹が立ったんです。」
入学当初はこれといった理由もなく知名度の高い大学を目指していた松岡さん。この出来事をきっかけに、自然環境や地域の景観保護を学ぶことができる県外の大学への進学を決めた。
松岡さん:「大学の講義で原風景の喪失という話を聞いてハッとしました。高校生の頃に私が経験した出来事は、まさにそれでした。元々あった景色がなくなってしまうと、そこにあった楽しい思い出まで奪われてしまうような感覚になりませんか?」
その地域らしい景観とは一体何なのか?それぞれの地域の魅力を活かしつつ、守っていくことは出来ないのか?大学では景観工学を専攻とし、研究室では様々な地域へフィールドワークに出掛けた。
景観工学研究室のメンバー
フィールドワークでは、自分の住む地域に誇りを持って働く全国各地の行政職員達との出会いがあった。そこで多くの刺激を受けた松岡さんは、卒業後三重県へのUターンを決意。希望をかなえ、三重県庁に就職した。
松岡さん:「県庁では三重県各地の地域住民や農家と協力して三重県の農村振興に従事していました。温かい上司や同僚にも恵まれ、補助金業務、現場監督、イベントの企画運営など様々な業務を経験することができました。」
県庁職員として10年間農業振興に携わるなか、大好きな祖父母が暮らす香肌峡の地域振興にも携わりたいという気持ちが次第に強くなってきた。”私に出来ることはまだあるんじゃないか?”
そこで、地域で数年前から古民家レストランやホテルを経営する元・松阪市地域おこし協力隊の高杉亮さんにSNSで連絡を取り話を聞いてみることにした。
松岡さん:「高杉さんと色んな話をする中で、松阪市香肌地域づくり協同組合で空き家バンク事業の担当者を募集している話を聞いたんです。空き家バンクなら、きっと県庁での業務経験も活かせると思いましたし、祖父母が導いてくれたような不思議なご縁を大切にしたいなと思いました。」
こうして松阪市香肌地域づくり協同組合の空き家バンク担当となった松岡さんは、住まいを松阪の市街地に近いエリアから飯高町へ移すこととなった。
松岡さん:「同じ松阪市内でも、飯高町はやっぱり自然の充実度が違いますね。朝の散歩がとっても気持ちいいし、新鮮な食材を地域の方からお裾分けで頂くこともあって、どうやって料理したら美味しいかな~と考える楽しみも増えました。」
現在空き家バンクへは毎日、県内外から問い合わせが来ているとのこと。香肌峡から松阪市街へは車で30分から1時間程度なので、便利さを失わずとも自分の実現したい暮らしにも近づくことができる。
松岡さん:「働き始めて数ヶ月目ですが、放っておくと崩れていくはずの空き家が、誰かの欲しいに変わっていく瞬間に何度も立ち会いました。人が住んでいなかった場所に新たな暮らしが生まれると、家はもちろん、周囲の雰囲気も少しずつ変わっていきます。これからどんどん町並みや地域の雰囲気が変わっていくのが楽しみです。」
故郷の愛おしい景色を守り育てる鍵は、空き家の再生にあるのかもしれない。松岡さんが大学の卒業旅行で訪れて感銘を受けたというイギリスのコッツウォルズのように、そこに遺された古い街並みを観るために世界中から観光客が訪れる未来を期待したい。
松岡さん:「単に空き家をマッチングするだけではなくて、私のようにこの土地に縁を感じて移住する方々と地域をつないでいくのも空き家バンクの役割です。県庁での経験も活かしつつ、人と人が関わる場所を広げていきたいです。」
お米の田植え~収穫を行う農業体験、お試し移住プログラムなど松阪市香肌地域づくり協同組合を中心に様々なプロジェクトが動き始めている。今後の活動は松阪市香肌地域づくり協同組合HPを要チェックです!農業体験のスケジュールはこちら↓
町の景観はそこに住む住人の”意思のある”暮らしによって築いていく。長い時間をかけて地域住民によって築かれてきた香肌峡らしい景観も、空き家バンクを中心に集まってくる人達と共に受け継がれ育まれていくのだろう。
Snowmanのふっかやしょっぴーと同年代です。大学卒業後沖縄県で観光ガイドとして3年半、結婚を機に三重県へ移住して会計事務所職員として5年働いています。「この人、おもろいな~」と思った人の魅力が伝わるインタビュー記事や、三重県での暮らしがわくわくする情報をotonamieで発信したいです。










