ホーム 01【食べに行く】 田舎の特産品販売店が繋ぐ見守りの循環――大内山牛乳がつなぐ今と昔【後編】

田舎の特産品販売店が繋ぐ見守りの循環――大内山牛乳がつなぐ今と昔【後編】

三重県の学校給食の牛乳としておなじみの大内山牛乳。三重県民にとっては、ソウルフードならぬソウルドリンクと言えるでしょう。

スーパーなどで販売されている大内山牛乳の1リットルパックのパッケージが特別仕様になっているのを見てご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、大内山酪農は今年75周年を迎えています。

大内山牛乳の里、三重県度会郡大紀町では、大内山酪農の歴史とともに地域の産業が成り立ってきました。

大内山牛乳がつなぐ今と昔」と題し、前編では、数十年の時を経てお菓子屋さんからカフェに生まれ変わった「Cafe Tora8」についてお伝えしました。

閉店した田舎のお菓子屋が十数年の時を経てカフェに生まれ変わった話――大内山牛乳がつなぐ今と昔【前編】

後編では、昭和初期から地域の食品流通を支え続けている大紀町のアンテナショップ「松田商店」を紹介します。


大内山酪農設立前、魚などを販売していた松田商店(女性は光弘さんの祖母)

「写真では、昭和30年代のものが残っています。ここに写るのは私の祖父。定かではありませんが、ひいおじいさんの代から商売を始めたと聞いています」

話すのは、松田商店の4代目、松田光弘さんです。

大内山酪農が設立した1948年。ちょうどこの時期、大内山で魚をメインに扱っていた松田商店は、ひいおじいさんからおじいさんの代へと商売が引き継がれ、大内山酪農の商品を販売するようになりました。

当時、自宅にあった実店舗に加え、車に商品を乗せて行き、各地で売る「行商」スタイルの二つの形態で営業していました。

今から30年前、大紀町の産地直売センター「山海の郷紀勢」がオープンし、その中に松田商店2号店を展開。大内山酪農の特約店として牛乳をはじめとした乳製品やスイーツを販売するほか、大紀町のアンテナショップとしても運営されています。


2025年4月に30周年を迎える「山海の郷紀勢」

「行商が宅配に代わっただけで、今の営業スタイルとほとんど変わっていません」

松田商店の店長は、父・憲光さん。両親が店舗に常駐し、息子・光弘さんは配達をメインにしています。

「一般的には週1回の配達が基本ですが、私は週3回行っています。この地域は高齢化が進んでいるので、お客様の顔色を窺ったり、新聞が滞っていれば親戚の方に連絡したりすることもあります」

月・水・金の配達により、お店に出荷される地元農家さんの作る野菜が新鮮なうちに届けられることも一つの理由だそう。大紀町錦で獲れた魚の干物やラーメン、ハンバーグの冷凍商品も扱っています。

「20歳くらいから家業を手伝いはじめました。その頃は、何を考えるでもなく、ただ配達しているだけでした」

そんな若き日の青年の心を動かしたのは、町の人から毎日浴びせられた「ありがとう」「助かる」という感謝の言葉のシャワーだったのです。

気持ちに応えたいと、丁寧な接客を心掛けるようになった光弘さん。お父さんから配達を担当するようになり、5年、10年と時が経過していくと、年を重ねた住民のみなさんは車の免許を返納し、移動範囲が狭くなり、買い物にも気軽に行けなくなっていきました。

「父の代に宅配を確立してくれたから、町には顧客がたくさんいます。お世話になってきた町の人たちに恩返しする時だと思っています。生まれ育ったこの田舎で、幼い頃から私たちを見守ってくれていたみなさんを、今では反対に見守る側として、笑顔にしてあげたい


牛の衣装でお店をPRする松田光弘さん

さらに光弘さんは、日々の仕事が様々なサポートにより成り立っていると教えてくれました。

まずは、山海の郷紀勢の敷地内にある大紀町商工会。町内の事業所はちろん、町外の商工会に所属する事業所も紹介してくれるそうです。

2023年に初めて開催した、度会町にある人気のお菓子屋さん「ルシエン」さんとのコラボ企画が大好評。冷蔵エリアの一部を貸し出し、自由に販売してもらうという内容です。

月に1度発行している紙媒体「松田だより」で告知し、予約販売も行うことで出店事業者さんのロスが極力ないようにーー光弘さんの細やかな気配りの結果、企画は第2弾、第3弾と継続されています。


2024年6月24日 ルシエンさん&度会町商工会とのコラボ企画の様子

また、商工会や行政の職員さんたちからアドバイスを受け、インスタグラムでの情報発信も行うように。

「毎日続けているとフォロワーが増えてきて、嬉しいことに地元の方も見てくれています。ストーリーズに今日入荷した野菜を上げると、それを目当てに買いに来てくれたり、配達の注文が入ったり」

 

光弘さんの恩返しのストーリーは、さらに幅を広げます。

「地元のおじいちゃんおばあちゃんたちの生きがいづくりの場として、役場のみなさんの協力のもと山海の郷の中で小さな祭りをやってみました。すると、子どもたちが集まってくれた」

射的やスーパーボールすくいなどのミニ縁日、お正月の餅つき、夏休みには地域の学童からのイベントの依頼。年末に開催したビンゴ大会では、事業所が景品を協賛してくれたり、お客様が「子どもたちの景品として使ってあげて」とお菓子などを提供してくれたり。

「かつて地域の人からそうしてもらったように、今度は私たちの世代が子どもたちの成長を見守って、この子たちが大きくなったら、次は助けてもらわないといけない。田舎ならではの循環で、この町の歴史をつないでいきたい」

月に1度開催しているこの小さなお祭りは、2024年7月に1周年を迎えました。

「規模を大きくするつもりはなく、持続可能な範囲で継続していきます。手伝ってくれる人がいるからできること。準備時間も予算もかからない程度が理想」

毎月最終日曜日、お祭りの開催にあわせ、山海の郷紀勢の裏の大内山川沿い駐車場には、キッチンカーが並ぶようになりました。

山海の郷 mini マルシェ」と題されたこの企画は、大紀町の古民家を改装した宿泊施設「井戸ばた」さんが企画しているといいます。山海の郷紀勢には、楽しく地域活性をしたいという人が集まってきています。


2024年3月31日 桜まつりのマルシェの賑わい

「大紀町に住む人は、温かく気さく。のんびり、ほっこりがこの町の良いところ。山もあり、川もあり、海もあり、夜は星もキレイです。自然の良さが全部揃っています。住んでいると当たり前になってしまいますが、旅行や研修に来てくれる海外の方は、この自然が素晴らしいと喜んでくれています。何か体験などを提供しないといけないと受け入れる側は思うけれど、何もなくのんびりと自然を堪能できる空間が特別で、それだけで楽しいと言ってくれる」

周囲の人たちへの感謝を忘れず、前に進み続ける光弘さん。

「みんなが同じ方向を向いて、みんなで笑顔でいたい」

大内山牛乳がつなぐ今と昔、そして未来。大内山牛乳の里、三重県度会郡大紀町では、温かいまちづくりが展開されていました。

松田商店

住所 三重県度会郡大紀町崎 2154-1
営業時間 10:00~18:00
定休日 火曜(祝日の場合は営業)
WEB https://ouchiyama.com/
Instagram https://www.instagram.com/matsuda_ouchiyama_milk/

取材・文 キャスターマミ(西口茉実)
一部写真協力 https://www.instagram.com/sanpei_mie/

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