ゆったりムーディーな店内で、甘い香りの白い蒸気が広がって消えていきます。
ここは「シーシャカフェ&バー Chill Forward」。三重大学から徒歩3分、海沿いの住宅街にお店があります。
ー奥田さん「お客様のご希望や気分を聞かせていただいて、お好みのフレーバーを組み合わせをお作りしてます。」
笑顔で迎えていただいたのは、オーナーで東京の人材系企業で働く奥田さん。2023年6月、自身が生まれ育った津市でシーシャカフェ&バーを副業でオープンしました。奥田さんが何故、シーシャカフェ&バーを始めることになったのか?お話をお伺いしていくと、「地域とキャリア教育」に対しての強い思いがありました。
シーシャカフェ&バーを始めたきっかけは御縁から
ー奥田さん「元々は三重大生がやっていたんです。」
前オーナーが津市から離れることになり、シーシャカフェ&バーを経営する人を探していました。以前から前オーナーと繋がりがあったことから、またとない機会を御縁に感じて店を引き継ぎ、自身の事業としてリニューアルオープンすることを決意しました。
元々、シーシャは数回程度吸ったことがあるぐらいだったと話す奥田さん。オープンに向けた準備期間中には、知り合いのシーシャ屋に通って勉強をしたり、副業でシーシャ屋を経営する会社の先輩に話を聞いたりするなど、試行錯誤を繰り返して、シーシャ屋を経営するための準備を進めました。
そもそも、シーシャって?初シーシャ体験の様子
シーシャは元々、医者からタバコをやめるように言われた中東の王様が「水を通したら良いんじゃないか?」と煙を水にくぐらせたとされるのが諸説ある起源の一つ。オシャレで模様や穴の形が様々で、ボトルによって吸い心地が異なります。想像していた以上に、とても奥が深いです。
フレーバーにはニコチンタイプとノンニコチンタイプがあり、「甘い」「スッキリ」の組み合わせで味わいをブレンドしていきます。シーシャの原理はタバコと同じです。炭でフレーバーを加熱することで煙を発生させ、水の中を経由してホースを通して吸い込み、煙の味と香りを楽しみます。
シーシャの基本的な吸い方は深呼吸。口で吐いた方が味わいがわかりやすいと指南を受けて、人生初のシーシャを体験してみました。
マウスピースを加えてホースを吸うと、ボトル内の水がコポコポと音をたてます。ちゃんと吸えているのかな?と吸引を止め、口からゆっくりと息を吐き出すと白い蒸気がフワッと甘い味わいと共に流れていきます。鼻で香りを感じるというより、息を吐き出す過程の中で甘い香りを味わう。甘くて美味しい。咳き込むことは微塵もなく、非喫煙者でも新感覚で楽しめる体験です。
シーシャだけでなく、好みの飲み物とも組み合わせられるのがシーシャバー&カフェの魅力でもあります。炭は定期的に交換され、1回のシーシャで約1時間30分〜2時間程度を楽しめます。1人カウンターでシーシャや店の雰囲気、ドリンク、店員さんとの会話を楽しむのはもちろん、複数人でシェアして仲間やパートナーと親睦を深められる。シーシャカフェ&バー Chill Forwardは、そんな場所に感じました。
「立ち止まることを肯定する」コンセプトに込められた思い
シーシャカフェ&バー Chill Forwardでは、コンセプトとして「立ち止まることを肯定する」を掲げています。コンセプトに込められた思いを紐解くと、奥田さん自身の人生の一端が見えてきます。
パワフルな自分と落ち込む自分「肯定できるまでの苦悩を経験」
奥田さんは京都の大学院を修了後、東京の人材系会社に就職。東京で2年間働き、2021年に地元である三重県津市にUターンしました(現在もフルリモートで同社に勤務中)。2年目となる東京生活の中で、奥田さんを襲ったのは精神の不調。病院にかかった結果、「躁うつ病 2型」と診断されました。
ー奥田さん「躁うつ病には色々と種類があるんですけど、僕は2型でした。」
躁うつ病 2型は、軽い気分の高揚と活動力が数日間高まる軽躁(けいそう)状態と落ち込む鬱状態が繰り返される病気です。初めて、病院で診断を受けた際は事実を受け入れられなかったと話します。
ー奥田さん「自分にとって軽躁の時はめっちゃ気持ち良いんですよ。行動力があって、頭が回転する。世の中が大体が何かわかるような…それは今振り返れば、 思い込んでるだけではあるんですけど。そう思えるくらい、軽躁の自分がすごい好きになるんですよ。」
躁うつ病 2型の診断を受けて、これまでの自分が偽りで一つのアイデンティティが崩れてしまったと感じた奥田さん。そもそも、自分はなんなのだろう?と途方にくれる日々を過ごす中で、徐々に元気を取り戻していきます。持ち前の人柄で色んな人と話す機会を持ち、少しずつ少しずつ、 自身の輪郭を取り戻していきました。
ー奥田さん「仕方ないですよね。そういう病気なんだから受け入れるしかない。自分の中には明確に元気な自分と元気じゃない自分、どちらもいます。誰しも親に見せる顔と友達に見せる顔が違うように、どちらも合わせて、自分なんだと開き直れました。」
鬱を受け入れ・マイナスを受け入れること。色んな物事に対してもそうだと思えるようになっていきました。
そんな経験をした奥田さんだからこそ、シーシャカフェ&バー Chill Forwardを始めると決意した際、「立ち止まることを肯定する」をコンセプトに掲げました。シーシャを吸っている姿はまさに立ち止まることの象徴である、と奥田さんは考えています。
ー奥田さん「立ち止まることは、自分だけこのままでいいのかなと、周りと比較してとても苦しいと思うかもしれません。立ち止まることは長い目で見たら、人生を前に進めてくれていることもある。それでいいんだよって伝えたい想いはすごくありますね。」
奥田さんの根源「ローカルとキャリア教育」
ー奥田さん「地元にUターンする前から、キャリア教育をやっていきたいという想いがありました。」
奥田さんがキャリア教育に関心を持ったのは、自身が経験した就職活動からです。何のために生きてるんだろう?幸せになるため?じゃあ、自分にとっての幸せってなんだろう?わからない。就職活動を通して、そんな哲学思考に陥りました。
地元の津高校を卒業し、京都大学に進学。当時は承認欲求の塊で受験こそ正義…京都大学に進学できたことで幸せを掴んだと思ったものの、幸せな部分とそうでない部分があります。振り返ってみると、明確な「幸せ」とは何かがわからずモヤモヤした気持ちがあることに気づきました。
そんなある時、就職活動では当初、商社マンを志して、所属するラグビー部で定年退職した元商社勤務のOBにお話を聞く機会を得ました。そこでOBから発せられた言葉が、奥田さんの方向性を変えました。
ーー「うちの会社には行くな。自分は色々、大きい仕事をやってお金をもらってきたけれど、この歳になって思うのは誰の人生を生きて、自分は何をしたかったんだろう。だから、君は自分の力1本で世界に羽ばたけ。そうしたら、絶対に面白いから。」
思ってもいないOBの言葉に、何を言っているのか当時は理解ができなかった奥田さん。しかし、徐々に大学進学時から抱いていたモヤモヤした気持ちとOBの言葉が重なっていきました。人それぞれ色々な幸せの形がある。自分自身の幸せの形として、自分の人生を生きたい。そう強く思うようになりました。
現在、勤め先は会社を一つのステップアップの場と捉えた働き方も良しとする文化があります。就職活動時には人生レベルで志望動機を問われた奥田さんが、考えに考えを巡らせて思い至った自分の人生でやりたいこと…それは「地域(ローカル)とキャリア教育」でした。
帰省する度に感じていた地元の変化。自分が生まれ育った町が時間をかけて廃れていく姿を目の当たりにしていたことで、地元への思いが自分の意識下に根を張っていました。
ー奥田さん「心の中に地元への思いがある。これから地域を長い目で変えていくためには、学生のうちから地域と向き合うような教育をしていきたいと思いました。」
昨年から、三重大学の近くでシェアハウスも始めた奥田さん(毎週、学生と社会人がゆるやかに交流するご飯会を開催中。詳細はシェアハウスのInstagramより)。シーシャバーやシェアハウスを始めた理由に、キャリア教育として学生と多様な人が交流する場をつくりたいという思いがあります。ビジネスとして場を成り立たせながら、キャリア教育の場としても機能させていけるか。奥田さんは試行錯誤しながら、そんな仕組みづくりに少しずつ挑戦しています。
事業を通して「地域とキャリア教育」の仕組みを創る
ー奥田さん「これからはシーシャカフェ&バーやシェアハウスを中長期でも継続させられるよう、場の仕組化を進めつつ、よりキャリア教育寄りな活動に力をいれていきたいです。」
三重大近くの「シーシャカフェ&バー」。ムーディーな雰囲気の扉を開けば、立ち止まることを肯定してくれる心地よい人と空間が出迎えてくれます。
シーシャカフェ&バー Chill Forward 店舗情報
店名 | シーシャカフェ&バー Chill Forward |
住所 | 三重県津市江戸橋3丁目65−2 edge1F |
営業時間 | 20:00~24:00 |
定休日 | 日曜日・月曜日・火曜日・木曜日 |
駐車場 | 店前、第二駐車場に4台です(詳しくはインスタのハイライトに記載あり) |
予約方法 | Instagram DMで予約可 |
公式Instagram | chill_forward |
アクセス | 三重大学から徒歩3分(海までは徒歩1分) |
備考 | 2オーダー制(例 シーシャ+ドリンクまたは2ドリンク)、学割有、フード持込可、ボドゲ貸出可、電源Wi-Fi有、作業用モニター有 |
シーシャ1台 | 2,000円(3人までシェア可) |
シェアチャージ | 1,200円 |
アイスホース | 300円 |
アイスボトル | 300円 |
アルコールボトル | 1,500円 |
レーザービーム | 300円 |
もっとメニューを知りたい | シーシャカフェ&バー Chill Forward 公式Instagramのハイライトをチェック |
濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。