ホーム 03【お店へ行く】 伊勢市河崎【とぎや】という、川向こうのワンダーワールド。

伊勢市河崎【とぎや】という、川向こうのワンダーワールド。

こんにちは!かつお節屋の嫁をしながらカフェの店長をやって、
たまにライターもさせていただいてます。ヒロナです。
一体自分が何者かわからなくなる時もありますが、ありがたい事にいろんなご縁が積み重なっていくと実感した今回はこんなお話。

 

最近はかつお節屋として、かつお節がどのように作られてお店に並ぶのか
木のように硬いかつお節を、自分で削って香りと風味を味わう体験。
そのかつお節でお出汁をとって、その出汁がらもまるっとおかかにして食べられる
「SDGsとか言うけど、とうの昔から日本人はやってるよー!」と、ざっくり説明するとそんな内容のワークショップを夫婦でさせて頂いてます。

こちらの手前の人物が旦那 ogurock(オグロック)です。

 

子どもの不安定な削り方も、大人の力強い削り方もどちらも受け止めてくれる削り器・・・。
そうよね、何度も使って切れ味が悪くならないわけがない。

そんな訳で刃を研ぐ為にYouTube先生に教えを請い、トントン・・・と、かつお節削り器の刃を外し、包丁を研いだ要領で削り器の刃もいけるはず!と、意気揚々と刃を研ぎ始めるogurock。

トントン・・トントン・・なんかゆるかったり。

トントン・・トントン・・なんか斜めに入ってく。

 

何回やり直してもうまく刃が入らず・・・一体誰に聞けばいいんやろ。


大工さん?道具屋さん?
あ!かつお節屋さんは?など色々考え、彼は大阪にまで飛んでいきました。
(↑この話めっちゃ面白いんですけど、長くなるのでまたの機会に)

大阪からの帰りの電車で、ふと気づく。

家から自転車で5分。
勢田川沿い、河崎の街並みの中に探してた答えがありました。

灯台下暗しとは、正にこのこと。

 


 

後日、向かった先は伊勢市河崎にある【とぎや】さん。
その名の通り刃物の研ぎや、修理を専門にされているお店です。

ogurockと、研ぎ師の東亨(あずま あきら)さん。

 

さっそく削り器を広げ、外してしまった刃を見せます。
「どれから研いでいこか?これは鉄と鋼(はがね)これは全鋼(ぜんこう)やな」

ん?聞き慣れない、ぜんこうってなんのこと?

全鋼とは、全て鋼で作られた刃物のこと。

鋼は鋭い切れ味をもつけれど硬く折れやすい。
その為よく切れる部分だけに使用し、それ以外の部分は鉄と合わせて作られるというのが、日本の刃物の最大の特徴です。
(この日まで私も知りませんでしたが。笑)

削り器の刃も、良いものは刀と同じように鋼と鉄を合わせて作られていました。

写真手前が鉄と鋼。奥が全て鋼でつくられた削り器の刃。

 

東さんは刃を研ぐ前に、まずよく観察します。
刃が綺麗な面になっていないと、砥石にピタリと当たらないため研げません。
その為にまずは機械で刃の面を整えてもらいます

この刃が綺麗な面になってない理由を聞くと「職人さんが下手くそやっただけやに。」と。なるほど・・!
新品で売られているものが完璧だなんて、消費者側のただの思い込みですね。

刃の面が平らに整ったところで、さ!砥石を使って刃を研いでもらいます。
砥石は大きく分けて3種類。

荒砥(あらと)
中砥(なかと)
仕上げ砥(しあげと)

荒目からだんだん細目の砥石に変えて、刃を研いでいきます。

とぎやさんにあるたくさんの砥石たち。

砥石は種類にもよりますが、吸水性の砥石なら水に20分程度浸けてから使いはじめます。
研ぎ始めるとすぐに、砥石と鉄と水の混ざった泥がでてきます。

泥がでてきたー!?と、洗い流す必要はありません。
この泥が、刃を研ぐのにとても大切。
余談ですがこの泥は、研ぎ汁又は業界用語では研糞(とぐそ)ともいうらしい。

洗い流さず使う研ぎ汁。砥石だけの色ではない。

 

片面を研ぎおえると、反対側にかすかに金属の「ソリ」がでます。
これを「かえり」または「バリ」と言います。見ただけではほぼわからず、手で触るとかすかに突起を感じる程度のそり。

「バリ」触って確かめさせてもらいました。

 

このバリができていると片面がしっかり研げている証拠でもあります。
でもこのバリ、取ってしまうのが正解。
デニム生地に2・3回擦り付け、バリが取れたらいよいよ完成。

そうして、出来上がった刃はこちら!
鋼と鉄の成分が違うので、刃先が2色に分かれてるのがわかります。

新聞を切ってみると・・当てただけでスルスルと切れる・・!
感動の切れ味です!

そのまま削り器に刃をセットして、かつお節を削ってみます。
この刃の入れ方がわからなかったのですが、東さんに教えていただき私たちの疑問はあっさりと解決!
やっぱりその道のプロの方
に聞くと、明快で早い。

トントンと調整、削ってガリガリ。
トントンと調整、削ってスっスっ

それをを繰り返し、ちょうどいい場所に刃がハマると、
シュッシュッと音が変わります。

ここまでくれば、いつも通りおいしく削るだけ。

削り立てのかつお節はほんとにいい香り。
その場でみんながつい手を伸ばし、パクリと食べてしまう。
この光景が私は大好き。

 


 

鋼や研ぎ方のことを聞くと、めちゃくちゃ饒舌にしかも丁寧にお話してくださる東さん。
とぎやさんの何代目なんですか?と聞くと、
「うちの店は2003年、僕が48歳の時に始めたんよ。」

え!意外な答え!

元々は奥様輝子さんのお父さんが本業のタオル屋の傍ら、商売として研ぎ屋もされていたそうで、それを見て東さんは研ぎの道に入ろうと決意したそうです。
しかし、その決意から1年も経たない内に義理父が突然亡くなってしまい、大阪の刃物屋さんへ修行に。
その後サラリーマンをしながら、土日は研ぎ屋という2足の草鞋を履きながら始められました。すごい・・!

 

 

とぎやさんの建物は、築100年は経っている雰囲気のある長屋。

お店の中にはきっとメンズが見るとワクワクする道具たち、
金ピカに光るビリケンさん。
年代ものと思われる看板(と思いきや実は紙でできた加工品)
お祭りの時にみんなが欲しがった木札・・など、店内を見回すだけでも飽きません。

この建物にずっと住んでいるのかと思いきや、お店を始める時にこの長屋に出会ったそうで、少しづつ自分達で工夫して作っていったと聞きました。
一歩タイミングが違えば取り壊され3階立ての建物が建っていたかもしれないとも。

川向こうにとぎやさんのある風景で良かった〜。と思う私です。

 

 

普段はお客さんから持ち込まれる刃物のメンテナンスが主な仕事。

家庭用の包丁や、鋏(はさみ)はもちろん、おばあちゃんが使ってたかつお節削り器がでてきたから!と削り器を持って来られる人もいるそうです!

他にもコックさん、散髪屋さん、庭木屋さん、板金屋さん、洋裁屋さん・・そう思うと、刃物を扱う仕事って結構あります。

 

 

また週に3日程度、伊勢市内を巡回して包丁や鋏を預かり、研いで届けることもされてます。(とぎやさんのHPから日程や場所の確認ができます)
お年寄りの方が包丁を持ってバスに乗るのが憚られる・・というのは、納得。
家の近くまで来て、また出来上がったのを届けてくれるのは嬉しいサービス!

市内を回っていると、ウン十年前の嫁入り道具という大切な品を預かることも。
年月と共に錆びてしまった包丁や鋏をピカピカに研いで返したら
めちゃくちゃ喜んでくれるそうで・・
そんな時にこの仕事していてよかったな〜!と思うそうです。


最後に、一番身近な刃物、マイ包丁も研いでもらいました。

ちなみにとぎやさんが思う包丁を選びの基準は?とお聞きすると、
「まあ・・1万円以上のものを選ぶと失敗はそんなにないやろな。」と。

しかし包丁は流通段階では危険なので、鋭利な刃にしていない場合もあるらしく、
買ってすぐの包丁の切れ味が悪ければ、
それは研いで「刃をつける」という工程がされていない可能性もあると教えていただきました。
(確かに私が京都で購入したこの包丁は、購入してから1時間程度して引き取りに行きました。今思えばそれは「刃をつける」という工程をしてくれてたからなんですね!)

研いでもらった包丁の切れ味を確かめるべく、東さんは何重にも丸めたTシャツを取り出しました。
まるでロールパンのようなその布の塊が、スッ!と切れたのです!感動!

幸せのハート(笑)と東さん。

台所で眠っている、もう使えないな〜と思っている包丁があったら、一度とぎやさんの扉を叩いてみてください。
丁寧に研がれピカピカ、きっと抜群の切れ味になって返ってくると思います。

その包丁のトントンという音を聞けば、
あなたの中に、懐かしい光景が思い出されるかもしれませんよ。

しゃべりすぎた。夜遅くまで、ありがとうございました!

伊勢河崎 とぎや
〒516-0009 三重県伊勢市河崎3丁目5−5

営業時間 / 9:00〜 18:30
電話 /
0596-24-2112
HP→こちら

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