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特集:人に会いにいく旅「農を基軸とした、小さな経済圏のつくりかた」松風カンパニー

三重県いなべ市で農業を基軸に小さな経済圏を作っている人たちがいる。今までにはなかった、新しいライフスタイルで地域に旋風を起こし続けている。新しい挑戦に不安はなかったのだろうか?

“やっていけないかも、という不安は一度もなかったです。でも、どうしようと困ったことはありました”

日焼けした顔、土のついた太い指。大きな笑顔が印象的な農家は、農作業の間にお話を続けてくれた。

“昔から自然が好きでした。小さいときにおじいちゃんの手伝いで野菜づくりをしたり、TVで動物のドキュメンタリーを観たり。あとDASH村も好きで、自然を活かした無駄のない暮らし方は理にかなってるなと感じていました。好きなことの延長線上で展開してきたので、今でも楽しめていますよ”

左:寺園 風さん・右:松本耕太さん(Freibäcker SAYAのテラスにて)

そう話すのは寺園 風さん。
八風農園という農業を基軸に、古民家レストラン「上木食堂」、フランス料理「Nord(ノール)」、ドイツパン「Freibäcker SAYA(フライベッカーサヤ/寺園さんの奥様のお店)」、ギャラリー「岩田商店」をいなべ市で運営する、松風カンパニーの代表取締役。今も現役の農家として、仕事のほとんどを畑で過ごしている。

八風農園の作業小屋
上木食堂
nord
岩田商店

風さん:うちの会社の “お洒落担当” が松本です。

松本 耕太さんは、松風カンパニーの取締役として、お店のプロデュースやディレクションを担当。

安全コーンまでお洒落

名古屋でカフェの店長をしているときに八風農園の野菜、そして風さんに出会い、行列のできる店となった「上木食堂」の初代店長として関わるようになり、今は店舗の事業を牽引している。

 

アジアに風を吹かせる

今日お会いするまでに、風さんのお名前は知り合いから聞いたことがあった。一度聞いたら忘れない、特徴のある名前。

風さん:父親が「アジアに風を吹かせる」という意味を込めて付けた名前なんです。

名古屋市に生まれ育ち、幼いころから自然が好きだった風さんは、農業高校へ進学。長期の休みには海外の農園へファームステイも幾度か行うなど積極的に農業に接した。卒業後はバックパッカーとしてアジアを旅する日々。旅先で感じたことがあるという。

風さん:仕事がなかったり農家が搾取されていたり。森を破壊してパーム椰子やバナナなどを生産していました。稲作ならもうちょっと計画的に生産できて農家自身も食べていけるはずなのに。

しかし風さんの目に映った旅先で出会った農家は、不幸せそうではなかったそう。

八風農園にある鶏舎

風さん:太陽とともにある暮らし。いいなと思いました。旅をしていると日本人にとても興味を持ってくれます。旅先でいろんな人と接していると、僕らは僕らでやれることがあると思えてきたんです。

旅に出る前、風さんは、これからはアジアが日本の農業を支えていく。そういった文脈でアジアに風を吹かせるにはどうしたらよいかを考えていた。しかし旅を終えて思い描き始めたのは、大きな経済社会に搾取されない独立した農業と暮らしだった。帰国して就農したのは三重県内の無農薬にこだわる農家。

風さん:ガチ自然農でした(笑)。ただ、農業だけでは食べていけないと分かり、当時は半農×半カフェ(名古屋)で働いていました。

徐々に自分のフィールドが欲しいと思うようになり、いなべ市にある農家「ゆうき農園」と出会い、いなべ市で独立。

風さん:畑、家、機械。なにもなかったけど、ゆうき農園さんは「大丈夫」って背中を押してくれたんです。機械を貸してくれたり、いっしょに食事をしたり。家族ぐるみで仲良くしてくれたといった感じです。

 

小さな経済圏のつくり方

いなべ市での暮らしで次第に農家や地域の友人ができていった風さん。一緒に夕食を食べる機会も増えたのだが、夜に集える店が少なかった。

風さん:集まるのは大抵だれかの家でした。僕はビールが好きで「生ビールが飲めたら嬉しいのにね」と友人と話していました。

そんな折、風さんは昔旅館を営んでいたいなべ市内の古民家が解体される話を知った。

風さん:自分で野菜を作るだけでなく、マルシェなどで販売も始めていて、当時とても忙しかったんです。でも、一回だけその古民家を見に行ったら、その家のことがすげーかわいくなっちゃって。

上木食堂のランチ

古民家に惚れた風さんは、松本さんや地域の人たちと食堂を作りはじめた。店では自分たちが作った米や野菜、地域の食材を中心に料理に使い、店頭での販売も行った。次第に店の評判は口コミやSNSで広がり人気店に。

岩田商店の店内
岩田商店の店内

風さん:それが7年前です。今は松本やいろんな人のおかげで、自分たちが育てた作物を使ったフランス料理や、ギャラリーまである。当時はまったく想像していなかったです。

田や畑で刈った草や、廃棄される野菜なども肥料として循環させる自然派農法で育てる八風農園の野菜は人気の品。無駄のない農法で、なおかつ美味しい野菜は年間約100種も生産されている。
手塩にかけて育てた野菜は、料理人の手で美味しいひと皿となり、それを求めて人々が市内外からやってくる。そしてアートやデザインに興味がある人はギャラリーで過ごせる充実した時間も提供している。

カフェに改装中の古民家

今、ギャラリーの前にある古民家をカフェとしてオープンさせるためにリノベーションの真っ只中。農業を基軸に人の流れまで作り出す、松風カンパニーの小さな経済圏の理念に共感し、現在移住者も含めて約30名が働いている。

風さん:こういった事例が日本全国で起これば、それをモデルにアジアでも農業を中心とした同じような小さな経済圏ができ、農家として搾取されるだけでなく独立していけると思うんです。

風さんのお話を聞いていると、個人的に思うことがあった。それは小さな経済圏がアジアなど世界中で増えることは、一部の人だけが多額の利益を得る経済主義より、多くの人々を幸せにするということ。

最後に風さんへ、いま思っていることを聞いた。

八風農園のキャベツ

風さん:僕たちはいわゆる「農的暮らし」ではなく、生きていくための「農業」です。個人的には高校生のときから「農業」で生きていく夢がありました。大麦を育ててクラフトビールを作るのもいいですね。畜産もできたら・・。でも僕ひとりでできることではないです。閉鎖的な自給ではなく、農業を目指す人や農業を活用できる仲間と働いていきたいです。

風さんも愛用、世代を超えて愛される漁サン。

アジアに風を吹かせるという壮大なテーマに目を向け、農業を基軸とした小さな経済圏を実践する松風カンパニー。大きいことや多いことが良しとされ、小さいことや少ないことへ目を向けてこなかった時代を飛び越え、新しい世代の幸せのかたちを作り出している。小さな経済圏が増えた世界を想像しつつ、「僕らは僕らでできることがある」という風さんの言葉を思い返すと、幸せを創造する未来の可能性を探したくなるのでした。

 


 

松風カンパニー
hp https://matsukazecompany.com/

八風農園
いなべ市藤原町下野尻946-3
IN https://www.instagram.com/happunoen/

上木食堂
いなべ市北勢町阿下喜2057
IN https://www.instagram.com/ageki_syokudou/

岩田商店
いなべ市北勢町阿下喜1051-10
IN https://www.instagram.com/iwata_syouten/

Freibaecker Saya
いなべ市藤原町下野尻946-3
IN https://www.instagram.com/freibaecker_saya/

nord
いなべ市北勢町阿下喜2039
IN https://www.instagram.com/_n_o_r_d__/

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