地元民に選ばれる手土産って、一体なんだろう。
松阪市内にある私の職場。
顧客から、手土産や差し入れをよく頂く。 職場に時々来てくださる酒屋さんから「差し入れ、何がええんや?」と聞かれることがある。そんな時は「都古水月(みやこすいげつ)で!」と、間髪入れず答えている。都古水月は、松阪市にある和菓子屋さん。「あそこやったら買いやすいし、和菓子も洋菓子も種類がようけあるんやわ!」以前、酒屋さんはそんなことを言っていたし、他の方からも都古水月のお菓子を頂くことが多いので、リクエストしやすい。
松阪市民の私だが、市民に選ばれる手土産って、一体なんだろう。探しに行ってみることにした。
なんでも揃う都古水月の、松阪商人魂!
和風の立派な店構え。通路が広く、商品を探しやすい店内。
早速、目に留まったのは、「ちゃちゃもどら」というどら焼きだった。ちゃちゃもは松阪市の公式キャラクターで、ご当地キャラの中では結構かわいいほうだと、私は思っている。
ちゃちゃもが笑っている!この焼印、松阪っぽい!そして、どら焼きの生地には、松阪茶の粉末が練り込まれている。こだわりポイントは餡のみずみずしさなのだとか。
お話を伺ったのは株式会社笹屋、二代目の阪井政男さん。創業当初はスーパーなどに和菓子を卸していたが、23年前に直営のお店「都古水月」をオープンさせた。
阪井さん:直営店を出すのは苦労しましたよ。卸と小売は同じ菓子屋でも全然ジャンルが違う。お客さんは来てくれるのかという不安もありました。松阪は商人のまち。安くて美味しいのが当たり前の大阪の流れもあって、お手頃価格で美味しいものが松阪では求められています。昔は、松阪で商売を成功させたら一人前と言われてましたからね。
こちらは売れ筋の「鈴なりいちご」という和洋折衷なお菓子。松阪にあるいちご農園のいちごをジャムにし、ミルクあんは大内山産のバターを使用。いちごいっぱいの畑の様子と、松阪の国学者、本居宣長の書斎「鈴屋」にちなんで名付けられたお菓子だ。
阪井さんは、商品はなるべく地元にちなんだネーミングで、地元産のものを使用することを心がけているのだという。
店内には、洋菓子部門の「アンジェ・ブーシェ」が併設されている。ショーケースに並ぶのは、豊富な種類のシュークリーム。昔ながらのオーソドックスなケーキは、どれも300円代とリーズナブルなのが嬉しい。
そして、ひときわ映えているものを発見!三代目の阪井大起さんが作る上生菓子だ。都古水月を彩る和菓子職人の技、眺めているだけでも幸せな気分になる。
洋菓子はデイリーな手土産に、和菓子は贈答用に。種類が豊富でお手頃価格、松阪らしい手土産だってたくさんある。いわば市民の味方のような都古水月。商人のまちで育まれた松阪商人魂を、垣間見た気がした。
インスタグラムで見つけた、大正元年創業のたつみ堂
松坂城跡の石垣や当時の武家屋敷、商人の町並みが多く残っている松阪駅周辺。
松坂城のお膝元に店を構えるのは、和菓子屋「たつみ堂」。色鮮やかで繊細な上生菓子の写真に、かわいい鶴のロゴ。インスタグラムで見つけたこのお店は、大正元年創業の歴史ある老舗和菓子屋だ。
「今日も顔見れて、良かったわー!」常連客らしき方が、店主に声をかけている。たつみ堂三代目の高倉清司さんは、和菓子職人として50年以上、松阪銘菓の「鶴の玉」を家族で守り続けている。
松坂城を築城した蒲生氏郷の幼名、鶴千代から名付けられた鶴の玉は、 全国菓子博覧会金賞受賞、たつみ堂創業当初から松阪銘菓として親しまれている。
白餡をすり胡麻入りの生地で包み焼き上げ、地元の金時生姜を入れたすり蜜をかけて仕上げた焼き饅頭。 長年愛され続けているこのお菓子、実は時代に合わせて甘さを変えているのだという。店内で鶴の玉をいただくことに。
これまで使われてきた木製の菓子型などが、大切に並べられている店内。老舗和菓子屋の歴史を感じながら、鶴の玉をいただく。甘すぎず生姜が効いていて、どこか懐かしい。これはクセになる味!「コーヒーにも合いますよ」と高倉さん。職場のおやつにも喜ばれそうだ。
昭和20年代の作業風景などの写真も。
この箱、なんだろう?
この箱は、昭和30年代まで嫁入りの際に菓子箱に紅白饅頭を入れ、籠のように両方から担ぐか、リヤカーで配達していた菓子箱なのだとか。
こちらは、結婚式の引菓子。当時の和菓子屋は、結婚式ともなれば、豪華な引菓子に紅白饅頭、赤飯などをリアカーに乗せ、町中を駆け回っていたのだろう。店の作業場からは、活気のある声が聞こえてきそう。
鶴の玉を食べながら店内を眺めれば、古き良き時代にワープできるたつみ堂。お店のインスタグラムを見ているだけでは感じ取れない「老舗の心粋」を、肌で感じに来てほしい。
松阪牛入れちゃいました!モーちゃん饅頭
―ところで、高倉さん。新しく開発された商品って、あるんでしょうか?
質問に、ニコニコする高倉さん。
高倉さん:ええと、僕が作ったのは、このモーちゃん饅頭なんです。松阪牛肉のしぐれ煮と小豆のこし餡をミックスしたものを、伊勢芋を練り込んだ生地に包んで揚げています。
―え!!饅頭に松阪牛が入ってるんですか!?
高倉さん:はい、いっぺん入れてみたらどうかなって、ちょっと作ってみました(笑)。うちだけのオリジナルで、好評を頂いています。
恐る恐る、モーちゃん饅頭をいただく。揚げた生地は香ばしくてもちもち。そして、後から松阪牛の存在感と、ほのかに脂の香ばしい香りがくるー!これは衝撃!しぐれ煮が、揚げまんじゅうにとってもよく合う!
大正元年当初からの銘菓を守りながらも、時代に合わせて変化し、挑戦を恐れない高倉さん。いつまでも変わらないのは、素材の良さと、丁寧な手仕事。たつみ堂が地元の方に愛され続けている理由は、高倉さんとご家族のそんな人柄なのだろう。
常連さんの「今日も顔見れて、良かったわー!」という言葉を思い出して、妙に納得しながら、残りのモーちゃん饅頭を頬張った。
茶農家カフェで、至福のお茶時間を…
朝晩の寒暖差が大きく、櫛田川から立ち込める朝霧が、茶畑を包み込む香肌峡。この地域の茶葉は、山間部特有の環境から葉肉の厚い茶葉になる。
お茶の産地、飯南町にある「深緑茶房(しんりょくさぼう)」は、3戸の茶農家がお茶産業と地域の自然を守ることを目標に、農業生産法人を設立。お茶の生産・販売だけでなく、店内にはお茶を使ったお菓子がたくさん並んでいる。友人への手土産ならココ!というくらい、私はよく深緑茶房を利用している。
日本茶カフェでは、スタッフさんからお茶の美味しい淹れ方を教わりながら、自分でお茶を淹れる体験ができる。
時代と共に生活様式が変化する中、家庭から急須が消えつつあるのだと、以前、深緑茶房のスタッフさんから聞いたことがあった。
実は、兼業茶農家で生まれ育った私も、今は便利なティーバッグの緑茶を飲むことが多い。急須でゆったりお茶を淹れる時間を取り戻すべく、G7伊勢志摩サミットでも呈茶された「千寿」をお茶スイーツと共にいただく。
60度のお湯で90秒、砂時計の砂が落ちるのを確認したら、まずは一煎目。なんだか、おごそかな気持ちになる。
「はあ〜、おいしぃ。」自分でも驚くくらい、気の抜けた声が出てしまった。想像を超える出汁のような旨味と甘味がたっぷり。
お茶の旨味の正体は、テアニンと昆布だしなどにも含まれる旨味成分、グルタミン酸らしい。テアニンはリラックス作用があり、カフェインの興奮作用も抑制するのだとか。現代人を救う、緑茶の底力を感じる。
心に染み入る深緑茶房の緑茶を、お茶菓子と共に三煎まで堪能。これぞ、至福のひととき。そうそう私、こうゆう時間が欲しかったのだ。
手土産には、お茶のフィナンシェを。お茶の風味豊かで、甘さは控え目、しっとりと優しく焼き上げた洋菓子は、お濃茶フィナンシェと、ほうじ茶フィナンシェの2種類。
店長の谷朱理さんに、フィナンシェ誕生のエピソードを伺った。
谷さん:何度も試作を繰り返して生まれたお菓子なんです。スタッフで試食して、その度にみんなで意見を出し合ったんです。お茶の配合を何度も微調整して、バターの量にもこだわり、優しい口当たりにしました。
スタッフみんなの声から生まれた2種類のフィナンシェ。しっとりしていて濃厚、濃いめのお茶によく合いそう!今度、友人宅に持っていこう。それとも、日本茶カフェで一緒にお茶体験をして、香肌峡をおさんぽするなんてどうだろう。
受け継がれる松阪の文化。これまでも、これからも…
松阪の茶文化や菓子文化は、時代とともに少しずつ変化したり、新たに生まれたりしながら次世代へと受け継がれている。手土産を求めてお店を巡っているうちに、そんな松阪を再発見することができた。「手土産に自信あり!」まだそうは言い切れないけれど、相手を想ってあれこれ迷う時間もまた、楽しいひとときだと思う。
【取材協力】
都古水月 大黒田店
三重県松阪市大黒田町新田912-3
tel 0598-22-4810
instagram https://www.instagram.com/miyakosuigetsu/?hl=ja
鶴の玉本舗 たつみ堂
三重県松阪市本町2172
tel 0598-21-1337
hp https://tatsumido.jp
深緑茶房 飯南本店
三重県松阪市飯南町粥見4209-2
tel 0598-32-5588
hp https://www.shinsabo.com
豪商のまち松阪観光交流センター、まつさか交流物産館でもお土産を購入することができます。
豪商のまち松阪観光交流センター
三重県松阪市魚町1658-3
tel 0598-25-6565
まつさか交流物産館
三重県松阪市京町301番地
tel 0598-22-3770
【タイアップ】
松阪市 観光交流課
松阪市殿町1340番地1
tel 0598-53-4196
松阪市hp https://www.city.matsusaka.mie.jp
松阪市観光hp https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/kanko/
松阪市観光インフォメーションサイト https://matsusaka-info.jp/
取材:2022年11月15日
読んで頂き、ありがとうございます。三重県松阪市の山間部、70もの橋が架かる香肌峡在住。地元の写真部としても活動しており、香肌峡を旅するように暮らしています。フォトスポットやクセになるディープなお店をご紹介したいです。