最近、ひきこもりについての報道が多い。
その背景には、ひきこもりの方の全国的な増加傾向や高年齢化がある。全国統計でひきこもりの方は約115万人という調査結果があり、実際には200万人を超えるとも言われている。ひきこもりの方が50代で親が80代。親の死後、収入がない状態でどのように生きていくのかなどが課題となる、いわゆる8050問題も社会問題になっている。
私事で恐縮だが約2年間、就職氷河期世代のひきこもりなどに関する取材をしてきて印象的だった言葉がある。それは、三重県生活相談支援センターのひきこもり支援員の言葉だ。
「偏見を持たないでください。髪がボサボサとか、服装が乱れているとか。そんなことは無いんです。テレビドラマや映画で描かれるひきこもり像は嘘です。身なりもきちんとしていて清潔感のある方が多い。それぞれ理由は違いますが、彼らは一時的にひきこもる時間が、いま必要なだけなんです」。
県民からもひきこもりへの関心高まる
三重県は令和4年3月に、全国初となる「三重県ひきこもり支援推進計画」を策定し、4月から具体的な取り組みをスタート。
その一環として今年8月に2回目となる、誰一人取り残さない「ひきこもり支援フォーラム」を松阪市クラギ文化ホールで開催。
このフォーラムは三重県議会議員の有志の会が令和3年度に開催したのを皮切りに、令和4年度から県と共催で実施。第一回目の津市で行われたフォーラムには382人が参加し、今回も420人もの多くの人が集う状況にひきこもりへの関心の高さを感じた。
講演は、ひきこもり支援の第一人者である筑波大学の斎藤環(さいとうたまき)教授。そもそもひきこもりになる原因とは何なのか、ひきこもり状態にある方とどのように接すればいいのか。様々な疑問を抱えながら講演を拝聴した。
議論ではなく対話を。
ひきこもり状態になる原因は様々だが、不登校、就職活動がうまくいかなかった、職場になじめなかった、病気などが上げられる。そして、いじめとも関係しているそうだ。海外の研究によれば、いじめはその後の人生に長期的に影響し、40年以上も影響することも。いじめを受けた人がひきこもり状態になる確率は5年後までに2割。そのまま40代や50代になっても、ひきこもったままの人もいる。いじめは学校だけではなく、もちろん会社や社会にもある。
ひきこもり状態になった人は、自ら家族の輪から外れるケースもある。そうなるとストレスを避ける為に自分以外の人間と接点がなくなり、仮の安定を得る。しかし、そこからの離脱も難しくなる。
ではどのようにひきこもり状態にある方と接すればいいのか。まずは、ひきこもりの方のニーズを理解したい。
第1段階:放っておいて欲しい、構わないで欲しい。
対応:支援機関などの家族相談を利用する。
第2段階:実は辛い、苦しいと感じている。
対応:カウンセリングや診療による個人療法。
第3段階:仲間が欲しい。
対応:グループに参加。
ざっくりとだが、段階に応じて対応を取ることが重要であり、そのためには対話が必要だという。ここで理解しておきたいのは、対話と議論の違い。ひきこもり状態にある方への議論は、自己肯定感をさらに失わせてしまう。一方、対話とは会話のラリー。感覚的には、くだらないと思うおしゃべりを多くするイメージだそう。対話とは主観と主観の交換であり、答えを出すことではない。
ただ、ひきこもりの一部のケースには家庭内暴力や金銭の問題なども抱えている。その場合「ここまでは面倒を見る。その先は面倒を見ない」などしっかりとした線引きが必要で、愛情ではなく親切心が大事だという。
講演のなかで印象的だった言葉がある。
「ひきこもっている人は、たまたま困難な状況にある、まともな人」。
近年、精神療法で注目されているオープンダイアローグ(開かれた対話・詳しくはこちら)もひきこもりの支援として期待されている。筆者の考察だが、現代社会の課題は「孤独」だと思う。対話はひきこもりだけでなく、現代社会のあらゆる場面で欠け落ちており、そこに社会の歪みを感じるときがある。
とにかく「好き!」を応援して欲しい。
ここからは、ひきこもり状態にある子を持つ親御さんやご兄弟などの近親者の方にお伝えしたい。ひきこもりの状態の家族がいる方に対しては、家族会や家族のつどいなど関連機関が開催し相談に乗っている。今回はオレンジの会をご紹介したい。
オレンジの会は名古屋市に拠点を置く全国組織のNPO法人ある。三重県にはKHJ(Kazoku Hikikomori Japan)三重県支部「みえオレンジの会 」があり、鈴鹿市にあるライフアートという場を拠点に活動している。支部長の堀部尚之さんを訪ねた。
鈴鹿高専を卒業後、企業で精一杯働いたという堀部さんは、アメリカに赴任したこともあるビジネスマン。仕事に熱中する日々で帰宅は夜中。育ち盛りの息子さんと接する時間も少なかったという。そのような背中を見て育った息子さんは、繊細で優しい性格。
堀部さん:私は息子にああしろ、こうしろと言った記憶はなかったのですが・・。子どもは違うんですね。私の姿を見て、社会で働くことへ高いハードルを感じてしまったようです。
息子さんは徐々に不登校になり、ひきこもるようになった。堀部さんは息子さんと向き合うようになり、定年退職とともに、みえオレンジの会の誘いを受け、三重県支部の支部長へ。みえオレンジの会では毎月第一日曜日にアスト津で定期的な家族会を行っている。家族会にはひきこもりの子を持つ親御さんなどが集い、それぞれの悩みを相談。
堀部さん:反抗する人、すぐに気持ちがへこんでしまう人、ひきこもりの人はいろんなケースがあり、親御さんが「自分の家だけじゃなかったんだ」と思うだけで、まずは安心してもらえます。
ライフアートでは手芸教室やPC教室なども行い、ひきこもりの子どもと親御さんが一緒に参加する機会も設けている。そして毎月第二木曜日には、おしゃべりサロンも開催。オンラインでの参加も可能だ。
堀部さん:親御さんたちとの、ただの井戸端会議ですよ。でもこれがとても大事でね。垂直型思考ではなく水平型思考なんです。ひきこもりのOB会も緩やかな雰囲気でやっています。
堀部さんが考える垂直型思考とは?
堀部さん:私たち団塊の世代は、会社をマニュアル化しました。課題があって、原因がある。だから対策を考える。これが垂直型思考なんですが、心の問題には逆効果。ひきこもりの方の自己肯定感を落としてしまい、社会に壁を作ってしまうんです。井戸端会議のような水平型思考で対話をする。そのなかで、それとなしに支えています。
堀部さんが接してきたひきこもりの方は、うつ病の人が多いという。
堀部さん:うつ病は治る病気です。単なる風邪と同じ。でも特効薬がない。
ではどう対応すればいいのだろう?
堀部さん:ひきこもりになる人は謙虚で真面目な人が多いです。あと親の躾が厳しかった人も。好きなことや欲を抑え込んでいる場合もあります。だから、とにかく好きと欲を伸ばしてあげることが大事です。
そして話を続けてくれた。
堀部さん:私の息子はフィギュアが好きだったんです。でも「なんだそれは、そんなもん買うな」って、昔言ったことがあって。後悔しています。いま考えれば、シャイな息子の女の人への気持ちをフィギュアに向けていたことは、とても尊いことです。自分の価値観で子どもを見ないこと。そして「好き!」を応援してあげて欲しいです。昼夜逆転しているのは、その必要性がないから。でも好きがあれば変わるきっかけになるかも知れない。しょうもないと思えることでも、興味を持って欲しいです。興味を通じて外と繋がることもあります。オタクもそうです。自己表現なんです。そして外と繋がり、自分のいる場所がわかると、徐々に社会に馴染めると思います。それが自然なかたちだと考えています。
取材中も堀部さんの携帯には、ひきこもり状態にある子どもを持つお母さんから、初めての相談がありました。ひきこもりに関することには、必ず相談できる人がいます。またプロフェッショナルがいる機関があります。関心を持った方は、まずは相談員や支援員と対話をしませんか。また、ひきこもりに関することでお悩みの知り合いがいれば、ぜひお伝えいただければと思います。
【取材協力】
KHJ三重県支部「みえオレンジの会 」
鈴鹿市神戸6-6-28(ライフアート)
http://www.mecha.ne.jp/~m-orange/
090-6469-5783
【タイアップ】
三重県雇用経済部 雇用対策課 若者・女性雇用班
三重県では、支援を必要とする就職氷河期世代の方やそのご家族に情報を届けるため、note、Twitter、Facebookなどでマンガやエッセイ、ツイートなどによる情報発信をしています。
note/三重県就職氷河期info
https://note.com/mie_koyoukeizai
※県内の就職氷河期世代対応の関連機関の情報もまとめています。
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事