あ!なんかいいな。
理由はわからないが、知らない街が醸す雰囲気にそう感じることがある。ここは名張の旧市街地。商店街から少し歩けば、趣きのある古民家がギュッと寄り添うように残っている。
“観てもらいたい景色があるんです”
リノベーションされた古民家の2階に案内された。
瓦屋根が重なり合い、やや複雑なことになっている。そんな光景が印象的だった今回の取材。
対応してくれたのはコワーキングスペースFLATBASEを運営する野山直人さんと北森仁美さん。
FLATBASEは立呑み屋乱歩という居酒屋と、今は空き家になっている旅館の間にある。乱歩とは壁一枚で繋がっているという不思議な構造。
野山さん:旅館は昔、旅籠(はたご)で伊勢神宮への参拝者などをもてなしていたそうです。
近くには京・大和と伊勢を結ぶ初瀬街道がある。街道を行けば松阪の六軒で伊勢街道に繋がる。以前別件で取材(こちら)をしたが、なんとなく六軒から伊勢に続く街道沿いの古民家に似ている。
野山さん:ここは仁美さんの義母の実家でした。今も人通りがあり、小学生の通学路です。FLATBASEのなかが見えるように改築してあります。七夕かざりや育てているトマトも、ふと目をとめてもらえたらと置いてあります。
続いてなかを見せていただいた。土間はそのままに、気軽に入れる雰囲気。シンプルでスタイリッシュな空間に、この地域で使われていた樽などがインテリアとして映える。
野山さん:これ、近所の家で見つかったんです。鍛冶をするときに炎に風をおくる鞴(ふいご)です。
鞴には慶応元年と書かれており、時代を感じる。旧市街地の歴史について教えてもらった。
野山さん:藤堂高虎が伊賀に城を築く際、江戸時代にできた古い街です。この建物は築140年以上だと言われています。この辺りは空襲もなく地震も少ないので、立派な古民家が結構残ってるんですよ。あと、景観に関する条例がないのですが、街としてなんとなく整っている。歴史あるところに暮らしているという意識の住民が多く、街を大切にしてきたんだと思います。
10歳までこの辺りで暮らした野山さん。子どもの頃は八百屋や和菓子屋のような個人商店がたくさんあったという。
野山さん:子どもも多かったです。どこもそうですが、ここでも人口減少は進んでいます。
野山さんは祖父が復業的に大工をしていて、子どものころにその姿にあこがれ、高校を卒業すると大阪の建築専門学校に入学。卒業後はそのまま大阪の建築会社に入社し、奈良の建築会社に転職後、名張にUターン。
野山さん:人がいない、お店がない。約23年振りに旧市街地に戻ってきて、あれ?ってなったんです。しかも空き家も増えている。ここで自分にできること、あるんじゃないかという思いが芽生えました。
Uターンした野山さんは地元の建築会社に3年ほど勤めた後、独立。主にリノベーションなどを手掛ける「イエノキ」を創業した。地域に建築という部分で関わると、街の人の声を聞くようになった。
空き家をどうしたらいいのか。子どもが減っている。自宅で教室をしているけど、みんなが集える場所が欲しい。地元の人の声を聞くごとに、Uターンをしたときに芽生えた野山さんの想いは強くなっていった。そんなとき、仁美さんから義母の古民家を地域の場にしたいと相談があり意気投合。
仁美さん:もともと小学校の教員をしていました。モットーは「子どもを幸せにしたい」。そのためには大人が幸せに暮らせていれば、子どもは背中を見て学ぶと思い至りました。最近12歳になる娘が「早く大人になりたい。ママ楽しそう」と言ってくれたんです。とても嬉しかった。私たちはここを「ちょっと大人の秘密基地」って呼んでるんですよ。夜に集まってお酒を飲みながら映画を観たり。コワーキングスペースですが「こうでなければいけない」というのがない場にしていきたいです。
野山さん:地域内の人が集い、そこに外から人がやってくる。そうやって自然に地域へ人が馴染んでいくのが理想です。
そう話す野山さんは最近、旅人の地域案内をしたという。
仁美さん:バジル!こっちでバジルを育てながら東京と二地域居住をしている知り合いがよく来ます。大量のバジルを持ってね。だからバルジでパスタを作って振る舞うこともあります。それを食べた人が、あとで知人と出会い「あ!バジルの人ね」ってなることも。人と人の距離が一気に縮まりますよ。
野山さん:そのバジルの人の知り合いを、案内したんです。おじさん二人で、あれもええね!これもええね!でしょでしょ!って盛り上がりました。
仁美さん:そうやって盛り上がっているおじさん二人の姿を見ていて、嬉しくなります。
息もぴったりのお二人はFLATBASEのプロジェクトを機に、一般社団法人つなぐを発足。大学生3名もメンバーに加わっている。
野山さん:私たちの次の時代にこの地域で暮らす人がいます。街と何の接点もなければ、街に若者が残らない。いろんなプロジェクトや暮らしを通じて街との繋がりを作っています。
30年もすれば、街も仕事もその役割や機能も変わると言われている。小さな商店が集まっていた旧市街地の機能は、大型ショッピングモールに取って変わった。
野山さん:それが悪いことではないと思うんです。暮らす人の生活は便利になりました。僕もその恩恵を受けてます。
しかし野山さんには事業を立ち上げ、続けて行くための想いがあるという。
野山さん:リノベーションの仕事をしているからではなく、人と街を繋いでいきたい。そんな想いで「つなぐ」をスタートしました。歴史ある街に対しては、そこにいろんな人の想いもあります。空き家は増えていますが、空き家バンクにみんなが登録する訳ではない。それぞれ事情があって簡単にそうはいきません。でも何とかしたいって相談もあるんです。そういったところをコーディネートやマネジメントできたらいいなと思うんです。自分が育った街ですし。
今はまだ、やっとスタートに立てたとお二人は語る。
仁美さん:旧市街地の空き家が街に必要な機能を持った場所に変わって行く。ここを拠点に、そんな点と点をつないでいきたいです。そこかしこで声がする、わいわいたのしめる場所がある。幸せに暮らせる街がある、そんな緩やかなイメージを思い描いています。
人口減少が課題となることが多い昨今。でも本当の課題は、人口減少社会でも幸せに暮らす方法に向き合うことなのかも知れません。地域への想いを持って街の機能を再確認すれば、何かが見えてくる。そんなわくわくする時代がやってきています。
超個室なんて作る遊び心に、なんかいいなと改めて想うのでした。
FLATBASE
名張市元町433-8
tel 080-7844-5175
in https://www.instagram.com/flatbase_/
fb https://www.facebook.com/FLAT-BASE-100584405893311
hp https://flatbase00.com/
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事