坊主頭にヒゲづら。
オーバーサイズのシャツとパンツ。
金のネックレス。
こわそう、と思う。これは日本だけでなく世界の多くで共通の認識なのだそう。何十年か前に、体格の良い日本代表の高校球児たちが坊主頭に学ランで米国に遠征したとき、現地の人が怖がったという笑い話もある。
恐怖や危険を感じる先入観は、ときに身を守るために必要だと思う。しかし見た目による先入観にとらわれ過ぎることは、人の内面を知る際にじゃまになることもある。言葉では言い表しにくいそんなニュアンスを、爽快に表現したアートブックをご紹介します。
Inside Out
この本には30の国と地域から59人が掲載されている。
全ページ袋とじの仕様になっていて、折り目を切り開くまで掲載されている人の顔は見えない。
登場するすべての人に同じ質問を投げかけていて、それぞれの思い出や考え、想いなどが綴られている。
それらを読み切ったところで、折り目を開き顔を確認する。
はじめに想いに出会う、というコンセプトの本。
質問は
1 今まで一番辛かったことは?
2 どうやってそれを乗り越えましたか?
3 今一番欲しいものは?
4 それはなぜですか?
5 最近一番感情が動いた出来事は何?
6 あなたにとって何が幸せですか?
7 明日の予定は?
8 10年後、どこでなにをしていますか?
9 今の日時を教えてください。
10 これを読んでいる人に何か一言お願いします。
という項目。
本の最後には自分で書き込む袋とじページが用意されている。
いくつかのページの質問と回答を読み、実際に折り目を開いて顔写真を見た。
年配の人と思って開いたら意外と若かったり、その逆だったり。
質問の答えがネガティブなのでどんな人かと折り目を開けば、明るく元気そうな人もいた。
inside outを制作したのは三重県出身在住の葛西博実さん。
中学校の美術科教員、グラフィックデザイナーなどの仕事をしている。
本についてうかがうと「そもそも私自身、見た目に自信がないです」とはにかみながら話す。
この本に登場する国内外の人々は、葛西さんがデンマークに留学していた時に出会ったり、その友人に紹介してもらった人も多い。
そして葛西さんは留学先で感じたことがあったという。
葛西さん:どこの国の人だから友だちになるとか、外国人を紹介して、といわれたときに違和感を覚えました。そういうハードルはいったんフラットにして、気持ち良くお話ができればいいのにと思っていました。
海外ではアジア人への偏見も感じつつ、多国籍の環境で暮らしていると思うことがあった。
葛西さん:国や人種が違っても、好きなこと、興味のあることはあまり変わらないんだなと。人間、そんなに違わないものだと思いました。
本を半分ほど読み進めた当たりで、それぞれの答えが似ていることに私も気がついた。特に最初「今までで一番辛かったことは?」という質問に対して、大切な人との別れ、勉強や仕事での失敗などを挙げる人が多かった。そして「それをどう乗り越えたのか?」という質問にも、家族の励ましや時間の経過などの答えが多かった。人間、そんなに違わない。
本を読み終えるころ、全59名の人生の一部垣間見ていると、なぜだか少し元気が出てきた。
いわゆるメディアに掲載されている何か特別なことをやり遂げた人のインタビューでもなければ、歴史上の偉人の話でもない。語弊を恐れずに書くと世界の各地で、普通の暮らしを営む人たち。
葛西さん:誰だって苦しいことを乗り越えてきて、それが考えや哲学になっています。その言葉が人を感動させる。読んだ人に前向きな気持ちになって欲しくて、最後に自分のためのページをつくったんです。
60人目のページに、自分で自分をインタビューしてみる。
はずかしくて、ここには書けないが・・、えぇ。
人間、そんなに変わらないものです。
※本は一冊ずつ作者による手作りです。
詳しくはお問い合わせください。
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事