ホーム 04【知る】 限界集落で出会った幸せの価値観。道行竈と竈方の塩に見る「継業」@南伊勢町竈方集落

限界集落で出会った幸せの価値観。道行竈と竈方の塩に見る「継業」@南伊勢町竈方集落

“泉さん、何とかせなあかんと思っとたんや。役場に酒米づくりの相談していたのを亡くなってから知って、のほほんとしていられなかった。放っとくわけに、いかんやんか”

南伊勢町にある人口37名の竈方集落で、耕作放棄地についてお話を聞いていたときに感じた、地元の人の熱意ある言葉だった。竈方集落は源平合戦で敗れた平家の子孫が今も暮らしている。南伊勢町は少子高齢化や人口減少が進み、竈方集落も例外ではない。そんな竈方集落で起きている2つの話をお伝えしたい。

 

 

想いを、知る。

7つの竈方集落のひとつである道行竈(みちゆくがま)は、3年前から耕作放棄地で酒米づくりを行い、日本酒「道行竈」の販売を始め、多くのメディアでも取り上げられ話題となっている。

区長の島田正文さん(左)・西川百栄さん(右)

道行竈区長の島田正文さん、前区長で特定非営利活動法人(NPO)チーム道行竈理事長・現役米農家の島田安明さんとメンバーの西川百栄さん、地域おこし協力隊の加藤雄太郎さんにお話をうかがった。ちなみに正文さんは4人兄弟の四男で、冒頭に書いた泉さんは三男、長男は逸男さんだ。道行竈で暮らし続けている正文さんは人口が減り、耕作放棄地が増えていく地元の集落の移り変わりをどのように見てきたのだろう。

正文さん:長男の逸男は18年間区長をして建築会社も経営していました。耕作放棄地に危惧を感じていたのでしょう。逸男はまず、道行竈の山の谷間にある、米が栽培しづらい田んぼの形や水路などの構造改善をはじめました。

しかし田んぼを整備しても農家の後継者がいないため、稲穂が育つことはなかった。

正文さん:だったら自分たちの会社で農業をしよう、ということになり社内に農業班ができました。しばらくは続いたものの利益は出ず、本業も忙しかったこともあり耕作放棄地の再生が途絶えてしまいました。集落の人口が減るなか、私も正直「仕方がない」と思っていました。

小さいころから歴史が好きだった泉さんがまとめた資料。竈方の歴史を辿っていたのだろうか?インタビューを行った公民館の一室に掲示されている。

そして転機が訪れた。それは三男・泉さんの存在。

正文さん:長男のあと三男の泉が区長を継ぎました。しかししばらくして急病で亡くなってしまい、そのあと泉の大親友でもあった安明さんが区長になりました。

泉さんがお亡くなりになってから半年後。安明さんは泉さんが耕作放棄地で酒米づくりを行うことを役場に相談していたことを知ったという。

米農家でチーム道行竈理事長の島田安明さん(左)・地域おこし協力隊の加藤雄太郎さん(中)

安明さん:私自身コシヒカリは作っていたのですが、酒米づくりは初心者。最初は正直迷いましたが、正文さんと相談して耕作放棄地で酒米を作ることを決めました。

正文さん:米を作ってなんぼの村です。責任感を感じました。

取り組みを始めたことが新聞に小さな記事で報じられた。その記事を偶然見つけたのが道行竈集落のとなり、贄浦に暮らす西川さん。西川さんは南伊勢町移住定住コーディネーターとして役場と一緒に仕事をする傍ら、ライフワークとして日本酒女子普及委員会の副会長としても活動している日本酒好きだ。

西川さん:記事を見つけて「あれ?地元で日本酒づくり!」。すぐにメンバーに入れてもらいました。

西川さんは正文さんと親戚であり、また雑誌編集などのキャリアも持つ西川さんは、商品開発や情報発信も得意。区長、農家、クリエイターというコアメンバーが揃い指揮は高まった。

西川さん:作るなら本当に良い日本酒にしようと盛り上がりました。安っさん(安明さん)も最初から「地域のモデルケースになれたらええな」ってよく話してたよね?

 

 

想いを、継ぐ。

安明さんは米づくりが始まれば毎日のように手入れに行くという、3年前まで耕作放棄地だった田んぼを案内してもらった。

地域おこし協力隊の加藤さんは「ここは都会での暮らしと違い、自分でいちから何かを作ることが多く、頭の使い方が全然違います。毎日楽しいです」と語る。

山の谷間にある田んぼで、ここの風景は初年度の日本酒「純米大吟醸道行竈」のラベルデザインにイラストとして使われている。

安明さん:山の上には、昔から一度も水が涸れたことがない滝「大瀧」があります。ここの田んぼには森の養分に恵まれた水が豊富に流れ、いわば掛け流しの状態。一定の冷たい温度の水で米を育てることで、美味しくなるんです。

道行竈は水に恵まれていることで昔は米づくりが盛んだった。安明さんが子どものころはもっと山の奥まで田んぼが張り巡らさせており、美しい田園風景が広がっていたという。

耕作放棄地

安明さん:重機がない時代に、竈方の先祖が開墾して代々守り続けた大切な田んぼです。耕作放棄地が増え、草が伸び放題になった風景に「集落は廃れていくのかな」と思っていました。道行竈本来の姿がなくなると。

しかし日本酒「道行竈」プロジェクトが始まると、米づくりを再開する地元の人もあらわれ始めた。その理由として、関係人口が地域の人の意識を変えたことが大きいという。ひとつは3年前に行われた東京大学が行っているフィールドスタディ。学生2名が20日間道行竈集落に泊まり込みながら、地域の課題にコミットした。

安明さん:最初は地元の人との間に距離もありました。でも彼らの地域の人に馴染もうと努力する謙虚な姿に、地元の私たちは感動。最終日は自分たちの子どもが帰っていく様な雰囲気が道行竈にありました。昨年もコロナが落ち着いている時期に来てくれて、嬉しかったです。

また皇學館大学の生徒も御田植祭や田んぼの石拾いなどで参加するなど、地域に若者が入るようになった。いざ日本酒「道行竈」が完成すると、道行竈にメディアも入るようになり、地域に活気が出てきた。

田んぼの周囲にある森には椎の実。森が豊かな証拠だ。
多様性のある木々が残る山から流れる養分豊富な水は、多くの命を育てる源。

西川さん:道行竈を出て行った人が、地元を誇れるような日本酒にしたいです。インターネットでも販売したところ、やはり道行竈を知る人からの注文が多かったです。離れて暮らすやっさん(安明さん)の息子さんも、友だちに紹介してくれたり。

今はメンバーに名古屋から移住した地域おこし協力隊も入り、一緒に田んぼの管理なども行う。そういった一連の流れを安明さんは「マッチした」と表現する。

安明さん:東京大学や皇學館大学の学生、役場のバックアップ、西川さん、加藤君、地域の方々。すべてがマッチしたんです。日本酒づくりに挑戦することで関係人口ができていきました。

平家の末裔である証拠が書かれ、先祖代々受け継がれている御証文。今も厳粛な受け渡しの儀式が神社で行われている。

西川さん:竈方の人間として、逸男さんや泉さんの想いがあって、やっさん(安明さん)や正文さんがその想いを継いで主体的に動いたからこそ集落内外の人が繋がっていき継続できています。

 

 

豊かさに、満たされる日々。

歴史ある地の想いを大切にする文化。それは同じ平家をいうルーツを持つ竈方集落に残っている。

人口24名が暮らす棚橋竈集落

以前にもOTONAMIEの記事でご紹介した竈方集落・棚橋竈で2019年から始まった塩づくりがある。移住をした平家は漁業権がないため塩づくりをして生業を立てていた。

塩づくりをする村田さん

塩づくりは約400年前に途絶えたのだが、人口減少が進む地域の新たな産業を創出することを目指し、また平家の末裔として竈方集落の歴史・文化を伝えるために竈方塩づくり振興協議会が始めた。

塩作りは同町にあるリアス海岸のミネラル豊富な海水を使い、薪で火加減を調整しながら塩釜で約6時間かけ炊き上げる。その後は天日干しをして、焼成という塩を焼く工程で味を調える。なめらかな食感、旨味や甘味があり味わいも良く、地元の人や料理人にも評判が良い。
塩を炊く小さな製塩所はとても暑く、煙も目にしみる。過酷にも感じる作業を、竈方塩づくり振興協議会の村田順一さんは楽しいという。

村田さん:苦行も楽しまないと(笑)。伝統は失ったら取り戻すことができません。ここで塩づくりを始めたことで、いろんな人が竈方に興味を持っていただき嬉しく思います。

資料館で塩の話しをする青山さん(中)

塩づくりは見学もでき、また製塩小屋のとなりにある資料館では写真の展示などで竈方の歴史について知ることができるので見学者が訪れている。

商品開発時に監修に入ったシニアソルトコーディネーターの青山さんも現地を訪れ、地元の人に竈方の塩を活かす料理のワークショップを行うなど地域内外から人が訪れ、関係人口づくりが自然なかたちで進み始めている。

 


 

ふたつの取材を終えて印象的だったことがある。それは米農家の安明さんも、塩づくりの村田さんも同じことを幸せそうに語ったことだ。

“歳を取っても、元気に明るく楽しく”

日本が経験することになる少子高齢化時代では稼ぎ手世代が減る。経済一辺倒では通用しないそんな時代に、どんな幸せの価値観が求められてくるのだろう。今回の取材で感じたいこと。それは、私たちはすでに幸せの種を手にしているのかも知れないということ。竈方集落ではもう一度地域を耕しなおし、幸せの種を育むことで、豊かさに満たされた日々の暮らしがあるように思えた。

時代はもどることができないが、米を酒に変え、また塩を生業でなはく地域の歴史・文化を伝えるために復活させるなど、時代にあった形に変えて受け継いでいる。そして地域内だけで継承するのではなく、内外の人で「継業」することで継続されている。
その中心にある大切なことは “元気に明るく楽しく” 。目を輝かせながらそう語るみなさんに、本当にその通りだと思うのでした。

 


 

特定非営利活動法人チーム道行竈
度会郡南伊勢町道行竈89−17(販売所)
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Tel 080-2655-3865(チーム道行竈】

竈方塩づくり振興協議会
度会郡南伊勢町棚橋竈76−4(製塩所・資料館)
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【タイアップ】
南伊勢町役場 まちづくり推進課 政策係
三重県度会郡南伊勢町五ヶ所浦3057
tel 0599-66-1366
mail machi@town.minamiise.lg.jp
hp https://www.town.minamiise.lg.jp

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