カキ養殖が盛んな三重県鳥羽市浦村町。
2022年1月15日に発生したトンガでの海底火山による津波の影響で、カキの養殖いかだが破損するなどの被害が出ました。
――いま自分が出来ることは?!――
大変な状況下、漁業者と関係性のある県内のプレイヤーたちが動きました。きっと皆さんの周りでも色んな動きがあったと思います。
これはちっぽけな私から視えるほんの一部となりますがここに綴ります。
1月16日 津波注意報発令
バキッバキ….
浦村でカキ養殖業を営む「孝志丸水産」の浅尾大輔さんが消防団に向かう途中、海に浮かぶ養殖いかだから、バキバキと音が聞こえたという。
普段穏やかな海は、川のように波立っていた。
浅尾さんはスマホで海の様子を記録。水産仲間はもちろんのこと、日頃からコミュニケーションを取っている報道関係者や行政職員などに共有した。
浅尾さんから映像を送られた報道関係者は、各担当記者に即連携。ヘリを飛ばして上空から状況を報じた。
(浅尾さん撮影映像)
1月17日 カキ養殖筏およそ500台が被害に
最大60cmの津波を観測した三重県。
午前中には、三重県知事による被害状況視察が行われた。
県のプレスリリースによると、浦村地区で約2000台あるカキ養殖いかだの内、約500台が流されたという。
(海の流れが異常。桟橋も外れている様子)
浦村にカキはある!!「落ちないカキ」丘漁師組合が動く
同日。TVディレクターから私に現状共有があった。
情報を繋いだ先は、桑名市で企画会社を営む「株式会社On-Co」の水谷岳史さん。
水谷さんは、「丘漁師組合」という丘から海の課題を考え活動する人を増やす取り組みを進めている。ネーミングは水産素人を揶揄して付けたそう。
浅尾さんに電話して、状況と想いを聞き取った水谷さん。
浅尾さんとしては、メディアを通して現地の状況を報じてもらった上で、更に伝えたかったのは「浦村地区にカキがなくなったわけではない」ということ。
浅尾さん:海の恩恵を受ける商売なので、天災ともうまく付き合っていかないといけない。だからこそネガティブなことだけではく、ポジティブな発信もする必要がある。浦村にカキはある。落ちずに残ってくれたカキをこの時期やから受験に落ちない!ってのでポジティブなキャンペーンにしたいな。
水谷さんはすぐに「落ちないカキ」のキャッチ画像を作成した。そして自身のSNSにて50セット限定販売を開始。電話を切ってから1時間のスピードだった。
水谷さん:押し寄せる困難を跳ね返ししっかりとしがみつくカキを縁起物にする浅尾さんの発想は本当にさすが。自分のコミュニティ内だけでも「浦村には美味しいカキはある」ということを伝えなくてはと思った。丘にいる僕たちの意識や行動が変わることで、解決できる海の課題も沢山あるはず。実際関係性ができていたからこそ、このような事態でもすぐに動けることがあったわけですから。
多くの応援コメント。「落ちないカキ」を丘が盛り上げる
水谷さんの落ちないカキの投稿は、応援コメントと共に数十件のシェアがなされた。多くの注文も入った。フォームは作らずに、連絡は敢えてコメントとメッセ―ジ。配送情報を浅尾さんに託していった。
関係性のある報道関係者たちからは、メディアとして協力できることへの相談や提案も寄せられた。過程では逐一、行政職員からも正しい情報が共有されていた。
この「落ちないカキ」を記事にした、朝日新聞大瀧記者はこう添える。
大瀧記者:基本的にメディアとしては、流されたいかだの台数や、落ちたカキの量などのインパクトを追いかけがちです。ありのままを伝えることはもちろん大事。でもそれってそこに住む人にとって本当に必要なニュースなのか。被害を変にあおってないか。誰にとって幸せなニュースなのか…。
メディア側の人間ではありますが、こんなことを考えながら取材しました。浦村にカキはあります。もっとポジティブなことを「ニュース」として捉える文化が、メディアのなかでも増えて欲しいな。
(1.25追記)新聞の切り抜きを持って、浦村に「落ちないカキ」を求めて来てくださった方もいらしたそう。
先生たちも動く!「落ちないカキ」バスレストラン?!
天災に重なるように発令されたのが、コロナによるまん延防止等重点措置。
浅尾さん:浦村町には約60の事業者がおり、うち二十数事業者が焼きガキなどの店舗を経営してる。鳥羽のカキは仲間みんなの力。天災で仲間たちとの一体感は強まっているけれど、重ねてまん防が出たことで不安も高まった。いま浦村で出しているカキは全般が「落ちなかったカキ」。お客さんに浦村のカキは元気だよーと伝えるひとつの方法として、ポジティブな展開を仲間たちと考えていきたい。
そんな中、関係性のある大学関係者によって、三重県明和町の観光商社からバスレストランで浦村カキツアーを行うというプロジェクトが動き出した。
キッチン付きのバスで明和町から浦村まで行き、現地の話を聞いてカキを受け取る。帰りは車中で食べながら戻るという流れ。詳細は来週に決まる予定。とっても楽しそう!!
落ちないカキがクッキーに (1.25追記)
落ちないカキを知り動いたクリエイターがまた出現した。桑名市にあるいきものクッキー専門店のクキーアートデザイナー「kurimarocollection」の栗田こずえさんだ。
栗田さん:お世話になっている漁師さんたち。微力ながらも、桑名エリアの方にも、浦村に美味しいカキがあることを知ってもらう流れを作れたらと考えました。三重県同士のつながりを大事にしたいですよね。
そして完成した「落ちないカキ」クッキー。現地の漁師から送ってもらった「焼き牡蠣小屋マップ」を添えて、27日頃から店舗に数量限定で並ぶ。
(1.28追記)「来週牡蠣小屋予約していたけど、津波の被害を知って今年は無理かなと思っていたところ、kurimaroの落ちないカキクッキーで浦村に牡蠣があることがわかり、ツアー決行になりました」というお客さんにkurimaro店舗で出会った。
牡蠣小屋マップ見ながら「ここ行ったことある」等の話が盛り上がっている光景も出てきている様子。受験生やご家族が買う流れもあり、第一弾はもうほぼ売り切れだった。
海洋プラゴミアーティストが動く!災害による廃棄ロープ循環へ
イカダから吊り下げられて育つカキ。津波は海全体が動くため、吊るしたカキも波を受ける。垂下養殖は津波に弱い。海の中にヨットのような風を受ける帆をはってるイメージだと聞く。
もちろん海に落ちてしまったカキはもう拾えない。
筏の上からではわかりにくいが、下のロープは大団子状に絡まり廃棄をやむを得ない状態に。
処分代もかなりの負担だ。
そこで動いたのが、2021年に名古屋から鳥羽市に移住し海洋プラスチックゴミを資源として再生させ、家具やアート作品を手掛けている「REMARE」の間瀬雅介さん。
災害で絡まったロープを引き取って一気粉砕。ペレットか板上の海洋ゴミ素材にして販売をする流れだ。
これにより本来であればかかる産廃処理費用が圧縮されるだけでなく、埋め立てゴミとなるものが、新たな価値として生まれ変わることとなる。
間瀬さん:災害時に出るゴミの既存構造を変えて、循環させたいんです。
間瀬さんは、航海士として南極海に行った経験も持ち、海洋ゴミ問題のアート転換をするため、日頃から鳥羽浦村の漁師たちと連携を図っている。
間瀬さん:(労働的にも資金的にも)地域のみんなが困っている状況下で、解決の選択肢に当たり前のように自分の存在があった。輪の中に入っているというのかな。これまでも海に関わってきたけれど、自分のアート活動が「海の誰かの助け」になって、前提の一員として進んでいたのがとても嬉しかったです。
これから間瀬さんは、漁師たちが海から揚げたロープを引き取り、材質判別を行いながら洗浄・加工作業へと入っていく。最終的にはダイニングテーブルに転換することも検討しているそう。
関係性の大切さ。いま自分が出来ることは?!
関係性の中で起きた連携は、それぞれが日頃から強みを活かしあい、大切にしている想いを理解し合っていたからこそ柔軟で、なにより愛があった。それも各々のフィールドで考えた小さなアクションが良い波紋を創っているところも。
現地の海側は、復旧作業が大変な中でも、迅速な情報共有や気遣いある声掛けを一貫してされていた。丘側は「いま自分が出来ること」で関われることに有難さを感じていた。
一連の流れを行政側からサポートし続けている、三重県伊勢農林水産事務所の太田所長はこう話す。
太田所長:色んなプレーヤーが繋がってるのが三重の強み。誰かが課題を投げたら、色んな人が拾って一緒に取り組んでくれる。自分がやるだけが全てではなく、皆で取り組む事で大きなうねりになると思う。
――いま自分が出来ることは?!――
私から視えている風景も、書いた内容もほんの一側面でしかない。でも地域で機能する共同体の輪郭を目の当たりにして、視える範囲でも構わないから記録したいと思った。
復旧作業は序盤。大変な状況なのは前提として、最後に伝えたい。
「浦村に美味しいカキはあります」
(9.28追記)今年7月。本災害がきっかけとなり、浦村地区にいる12軒のカキ漁師が連携。共同事業体として、養殖会社「浦村Sea Farm」を設立し、カキ養殖が抱える自然や労働環境への問題の解決に向けて動き始めた。メンバーにはこの数年で廃業を考えていた人もいる。浅尾さんは「力を合わせればこれまでにない力が生まれるはず」と語っている。
福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身桑名市在住。仕事は社会との関係性づくりを大切にしたPR(パブリックリレーションズ)。
2014年に元夫の都合で東京から三重に移住。涙したのも束の間、新境地に疼く好奇心。外から来たからこそ感じるその土地の魅力にはまる。
都内の企業のPR業務を請け負いながら、地域こそPRの重要性を感じてローカル特化PRへとシフト。多種多様なプロジェクトを加速させている。
組織にPR視点を増やすローカルPRカレッジや、仕事好きが集まる場「ニカイ」も展開中。
桑名で部室ニカイという拠点も運営している。この記者が登場する記事