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特集:人に会いにいく旅「異端児の定義と再定義」海洋プラゴミアーティストの鳥羽暮らしを旅する

航海士として船で南極海に行ったアーティストがいる。母艦が座礁や海の事故に遭わないように、小さな船で航路を先回りして誘導する仕事。当たり前すぎて質問するのをためらったが聞いてみた。海は怖くなかったんですか?嵐とかあるじゃないですか?

“嵐で大波がきて、もうヤバイってときこそ「生きてる!」って興奮するんです”

何ヶ月も続く海の上での暮らし。気が滅入ることはないのだろうか?

“なりますよ、ふつうに。同僚の乗組員とそんなに話すこともないし、やることがなくなるので”

命の危険を伴う数ヶ月の航海が終わると次の年までは休みになる。

“日本に帰ってきて、たった1ヶ月で給料全部パチスロで負けた同僚がいました。人間って変わってるなって”

間瀬 雅介さん(28歳)。
昨年、名古屋から鳥羽市に移住し海洋プラスチックゴミを資源として再生させ、家具やアート作品を手掛けている。そんな間瀬さんに聞きたくなった。やりたいことって何ですか?

“地球の7割を自分の遊び場にしたいです”

変わってる・・。いや、地球から視れば、日本でぬくぬくと生きてきた自分と、どっちが変わっているのだろう。

 

 

| プラスチックゴミは現代社会へのアンチテーゼ

海洋プラスチックゴミ問題は世界的な課題であり、それを資源として再生させている間瀬さんの元にはテレビや新聞など多くのメディアが取材に訪れている。業界的にいうと、格好のSDGsネタだ。

間瀬さんの作品(ランプシェード)。カラフルな部分はペットボトルのキャップを溶かして出す色。着色などは行わない。
間瀬さんの作品(時計)

間瀬さん:SDGs的な取り組みになったのは、ただの結果なんです。

なんでもかんでもSDGsに紐付けている感が否めない現代。もちろんSDGsは良いこと、未来を作る指標であることは間違いない。負の資源を再生させるなんて、本当に素晴らしいと思う。そもそもなぜ、海洋プラスチックゴミを使おうと考えたのだろう。

間瀬さん:答えが単純ではないのですが、いいですか?

そんな気がしていた。望むところ。

間瀬さん:小さいころから冒険家になりたくて。周りの人や先生に言っても、ちゃんと聞いてもらえなかったんです。本気なのに。

学生に差し出される希望の進路や職種のアンケートに、冒険家のチェックボックスはない。その他(冒険家)と記載された答案にアドバイスできる大人も少ない。

間瀬さん:プラスチックは絶対に必要です。そうじゃないと経済が回らない。当たり前のように使われ「ゴミ」とされ、忘れ去られる。

浜に打ち上げられたプラゴミ。漁具も多いという。

プラスチック側からすれば「ゴミ」になったつもりなどない。

間瀬さん:なんかプラスチックゴミと自分、似てるなって思ったんです。

スケールが大きすぎるため、認めてもらえない冒険家という夢。平均化された社会の価値観とのズレ。異端児であるが故に感じる、孤独や歯がゆさがあるのだと思った。

間瀬さん:そうだ!海洋プラスチックゴミで見返したい。私の思考性の表現は、これだとめっちゃわかりやすいと思ったんです。

不要のプラスチックを「ゴミ」とした世界に、ぐるりと時代の価値観を180度ひっくり返す。間瀬さんと話していると、社会へのアンチテーゼという言葉がピッタリだと思った。

 

 

| 現代社会の歩き方

二階への入り口

工房の二階はアジト的な空間。

この日はとあるプロジェクトで、鈴鹿墨の書道塾を営むご夫妻で書道家ユニット千華万香さんと打ち合わせ。
プラゴミに魂を吹き込む計画を練るお二人

バーカウンターやビリヤード台まである。友人たちとDIYで改装し、人が集まる場づくりを行い、地方が抱える空き家や地方創生などの課題にも、間瀬さんは可能性を模索している。

間瀬さん:ゴミから地域課題を知る。そんな人の流れを作りたいと思っています。

この空間では間瀬さんの作品を見ることで、ゴミとの接点ができる。そして間瀬さんに共鳴する若者が全国からインターンシップなどで訪れている。間瀬さんは、鳥羽からモデルケースを作りたいと語る。

水産関係で使われていた建物をリノベーション
1階の工房は新しい設備を導入するための準備中
粉砕したフラスチックを仕分ける装置
溶かしたプレスチックをプレスをして板状の素材にする

間瀬さん:都会だと若い人が表現をできる場が少ない。空き家はありがたい空間なんです。

名古屋で暮らし、一時は活動の拠点を大阪に移し、三重県内で業者にプラスチックの粉砕を依頼していたときもあった。

間瀬さん:それだととてもお金がかかるんです。お金がない、もうヤバイ死ぬって思いながら作品制作をしていました。

そう笑いながら話す間瀬さんを見ていると、使い捨てられるのはモノだけではなく、ライフにも当てはまるのかも知れないと思うとともに、日々慌ただしい時間に疲弊する自分が少し惨めに感じた。

間瀬さん:海洋プラスチックゴミは「ゴミ」じゃないですから。

時代が求める異端児は、無機質なプラスチックに自分の存在を重ね、海や地域の再生を目指す。
そろそろ異端児の再定義が必要なのかも知れない。

 


 

REMARE
鳥羽5丁目2-14
hp https://www.kasabuta.org/
in https://www.instagram.com/the_sea_is_my_life_/

 


 

おまけのお話

取材が終わりご挨拶して別れ、昼食に向かったのは前から気になっていた鳥羽駅前の「れお麺ism」。お店に入ると偶然にも間瀬さんとインターン生と遭遇。間瀬さんにおすすめを訪ねると担担麺が美味しいとのこと。

間瀬さん:めっちゃ旨いですよ!昨日も来ました。

普通の若者のようで、底知れない思考性を表現するアーティスト。
担担麺、美味しかったです!

 

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