2021年4月、津市安濃町に新しい会員制レンタル農園「ここファーム」が開設した。ここファームでは、安濃川に沿った豊かな田園地帯の畑の1区画を借りて、自分の好きな作物を栽培することが出来る。道具類一式は全てレンタル可能、農業に詳しいスタッフからのサポートも無料で受けられるため、会員の方は手ぶらで気軽に家庭菜園が楽しめる。
また、自分たちで食べきれない作物は赤塚植物園が運営する「朝津味」にて販売することも出来るという。そんなここファームを開業したのは、山本芳世さん、御年72歳。
実は33年前も同じ事業に挑戦したが、うまくいかずに撤退。今回の事業は33年越しのリベンジとなる。本記事では、70歳を超えてもなお、夢に再挑戦する山本さんの今日に至るまでの背景・市民農園に懸ける想いを伺った。
忘れられないアメリカの風景
「農業への想いなんて昔は全くなかったね。」
笑いながらそう語る山本さんが農業と出会ったのは、大学4年生の頃。実は元々商社に内定をもらっていたが、現会長に高田幼稚園の横の道の車の中で6時間口説かれ、社員第2号として赤塚植物園に入社。1年間日本の農地で農業について勉強した後に、作物の販売ルート等を勉強するためにアメリカはカリフォルニアへ。
ある週末、遠方の園芸売店を見学しようと運転していた時に出会ったのが、市民農園だという。
「子どもから大人までね、ファッショナブルな人が農地に集まって、何やっとんのやろと。それで話を聞いてみると、微笑ましく家族で趣味として農業を楽しんでいる人から、ボランティアで恵まれない人のために農業をしている人が集まっているんやと。
その光景が僕はね、頭の中から忘れられやんだ。
ずーーーっと忘れられやんだ。」
特に印象的だったのが、多くのアメリカ人が楽しそうに社会活動している姿だったとのこと。いつ自分に返ってくるかはわからない、それでもまずは目の前の人を助ける、そんなギブアンドテイクの精神をまさに体現するアメリカ人の後ろ姿は、今でも山本さんの目に焼き付けられているという。
夢のために独立するも、失敗の連続
アメリカから帰国後、赤塚植物園の法人営業に従事した山本さん。ボストンファーン(ハンガー等で上から吊る観葉植物、当時の画期的な商品だった)のノベルティを大手企業に売り出す等、新しい園芸の形を会長らと一緒に作り出していった。
入社から15年勤めあげて、役員にまでなった山本さん。しかし、どうしてもアメリカで見たあの農園の風景が忘れられなかった。
「日本でも市民農園を作りたい。」
周りからバカにされながらも、「俺は夢を喰うバクや」とやりたい事を実現させるために赤塚植物園の役員を辞めて、独立。しかし、当時の農地法では民間業者が貸農園をやることはとても難しく、半年で挫折。念願だった夢を諦めることに。
そこからは失敗の連続。
経営者として、ベトナムで日本レストランを営業しようとするも、設立前日に法律が変更し、合弁会社を作れなくなり、2500万円をパーにしたり。シートベルトにつけるクッション(当時はシートベルトが出来たばかりで素材が悪く、鎖骨に当たるのが痛かったらしい)を大量生産するも、卸先の会社がトンずらし5500万円をパーにしたり。何とか貿易等の事業を立ち直し、ここまでやってきたという。
「後ろ向いておってもしゃーない、人生前しかあらへんのやで。」
そう語る山本さんの言葉はとても力強く感じられた。
偶然出てきた昔のビラ、こみ上げる長年の夢
一度は諦めた市民農園の夢。そんな夢への再挑戦のきっかけは、昨年の2つの出来事だったという。1つはある人が「こんな家庭菜園をしたい」と言っていたのが、まさに33年前に自分が思い描いていた夢そのものだった事。自分が昔から理想としていたものを、まさに目の前の人が求めていることで、心が揺れ動いたという。そしてもう1つは、家を建て替えるために断捨離をしていた時、たまたま33年前のビラが出てきた事。
「これが出てくるのは運命やと。神さんが最後の仕上げにこの仕事を頑張れえ、と言ってる感じやと思ったね。」
これまでの人生でも、数年に一度は市民農園の夢を思い出しては、一歩踏み出せていなかった山本さん。最後は33年前の自分が作成したビラに背中を押されて、人生最後の大仕事として再挑戦することを決めたという。
農業を楽しむ、それが社会貢献にも繋がる
ここファームの特徴は何といってもイベントの豊富さ。「てんとう虫のハウス作り」等といったユニークなイベントが毎月3回も行われ、様々な角度から農業や自然と触れ合うことが出来る。
「農業はしんどいものだと思われがち、だからこそまずは畑に来ることを少しでも楽しんでもらいたい。」
ここファームのイベントは1つ1つに山本さんの想いが詰まっている。例えば6月に実施されたシードボム作り。シードボムとは、色々な花の種と肥料が入った泥団子のことで、子供たちは泥団子を楽しく作りながら、身近に花の成長とも触れ合えるきっかけが得られる。
また、ここファームの畑の横にはBBQスペースがあったり、井戸は敢えて昔ながらのポンプ式を取り入れたりと、畑に来るのが楽しくなるような工夫が施されている。
「春になると秋とはまた違う風の感じ方がある。そんなように畑で自然と触れ合うことで、人間としての豊かな感情を育んでほしいなあ。」
そんな会員さんへの想いとは別に、日本の農業に対する危機感もあるという。
「ここファームの農地を初めて耕した時に、毛布やらプラスティックやらがいっぱい出てきてね。こんなのが日本中にごろごろあると思うとゾオーッとした・・・」
赤塚植物園に勤めていたころから、日本の耕作放棄地の問題は知っていたが、ここファームの立ち上げを通じて、その危機感は更に高まったという。農家の後継者不足や食料自給率の低下など、他にも農業の問題は山積みだ。市民農園を広めることで、少しでもそれらの問題解決に貢献できないか、と山本さんは考えている。
あなたも家庭菜園を始めてみませんか?
ここファームでは現在、第2農場の会員を募集している。月額3000円でサポートも充実、その上でこれほどイベントが多いレンタル農園は日本全国にも中々ない。老後の新しい趣味に、子どもたちへの食育や自然との触れ合いに、休日の息抜きに…
興味のある人はお早めにここファームまでお問合せを!!
山本さんの33年越しの夢の続きを一緒に実現しませんか?
<お問い合わせ先>
ここファーム事業所
TEL:059-261-6470
MAIL: kokofarm.2021@gmail.com
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あとがき
インタビューを通して、一番感じたこと。それは山本さんの人としての魅力です。人として本当にまっすぐな方で、それでいて年齢を感じさせないパワフルさも併せ持つ…
自分もこんな人になりたいと心の底から思いました。この記事では書ききれなかった山本さんの魅力を、現地にて直接お話することで感じていただけると幸いです。
津市出身・在住。20代後半男性。東京の人材系の会社にフルリモートで勤務。キャリア教育に興味あり。「地元のために何か出来ないか」と模索中。あと、丸くなりがち。